
メジャーリーグで大きな話題となっているのが「トルピード(魚雷)」と呼ばれる新型バットです。ヤンキースが魚雷バットを使い、開幕3試合で15本塁打を記録したことにより、常識破りの新型バットが一気に注目を集めました。
米国でバットの歴史を振り返ると、20世紀初頭に当時歴代最多の通算4191安打を放った「球聖」タイ・カッブが、グリップエンドに向かって太くなる形状のバットを使用。いわゆる「タイ・カッブ型」のバットでヒットを量産し、多くの打者に愛されました。
ところが、1920年レッドソックスからヤンキースに移籍し、投打二刀流から打者に専念したベーブ・ルースが、球界に革命を起こしました。ボールやバットの作りから打撃哲学や投球哲学まですべてを変え、ホームランバッターとして不動の地位を築きました。
特にバットは打球を遠くへ飛ばすため、老舗のルイビルスラッガー社製で長さ35.5インチ(90.17センチ)、重さ38.5オンス(1090グラム)、グリップエンドを細くしたバットを使い、27年に前人未到の60本塁打を記録。その伝説の本塁打王をまねて、多くの選手が同型のバットを使用するようになりました。
やがて、90年代になると再びホームラン時代が到来しました。背景として球団数拡張による投手力の低下、筋肉増強剤の使用、打者有利な球場の増加、飛ぶボールなどさまざまな理由が挙げられました。そんな中でホームラン増加の理由として、バットにも大きな変化がありました。
当時、多くの大リーガーが使っていたバットの製造業者によると「92年頃から選手の使うバットに変化が起こり始めた。バットのグリップエンドが極端に細く、逆に芯の部分が太くなった」と説明。さらに「軽いバットを注文するようになった」と付け加えていました。バットの軽量化について、当時アストロズの主砲ジェフ・バグウェルは「パワーヒッターはバットのスイングスピードを求めている。スイングの速さが飛距離を伸ばし、ホームランを生む」と力説していました。
昔は大柄なスラッガーが重いバットを誇らしげに振り回し、ルースの時代は平均40オンス(1134グラム)もあったと伝えられています。それがバットの製造業者によると、91年に平均33オンス(約936グラム)、96年は31オンス(約879グラム)と年々軽くなったようです。
その結果、98年にマーク・マグワイア(カージナルス)が70本、サミー・ソーサ(カブス)が66本という史上空前の本塁打レースを展開。さらに2001年にはバリー・ボンズ(ジャイアンツ)が73本塁打を記録。もちろん、最大の理由はステロイドなどの禁止薬物使用にありましたが、バットにもホームラン量産の秘訣(ひけつ)があったと言えます。
今季、開幕から話題となった魚雷バットは、ドジャースでも早速マックス・マンシー内野手が新型バットを発注して使用。そんな中、今季から長尺バットに変えたばかりの大谷翔平は十分な結果を出しており「今のバットに十分満足しています」と当面使用しないとの見解を示しました。
ア・リーグのヤンキースだけでなく、ナ・リーグの選手も新型の魚雷バットで本塁打を量産するなど、効果てきめんです。はたして、メジャーで新型バットが新たな革命を起こすのか。今シーズン開幕早々、劇的なサヨナラ本塁打を放つなど3年連続本塁打王を目指す大谷に、とんだ伏兵が現れるのか注目していきたいと思います。
【大リーグ研究家・福島良一】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「福島良一の大リーグIt's showtime!」)