
<全国高校野球選手権:関東第一4-1創成館>◇16日◇2回戦◇甲子園
創成館(長崎)が3点差で敗れ、夏の甲子園初の8強入りを逃した。
最速149キロエース森下翔太投手(3年)は8回1/3を11安打4失点(自責3)の力投だった。それでも試合後は悔しさから目に涙を浮かべ「自分がエースとしてチームを勝利に導くことができなかった…」と言葉を振り絞った。
文句なしに近い投球だった。この日の最速145キロ直球を軸に、100キロ台のカーブなどで緩急をつけた。7回まで打者27人に対して初球ストライクが計22人。その割合は81%だった。さらに対戦した打者35人に5球以内で決着をつけた。初回からテンポの良さが際立ち「ストライク先行でいけたことは良かった」。被安打11も要所を締めて自責点3。持ち味を存分に発揮した98球だった。
阪神森下翔太と同姓同名の右腕。入学時「森下翔太です」と自己紹介すれば、初対面でもすぐに覚えてもらった。その分、自身の注目度は日に日に増した。プレッシャーよりも、抱く感情は「名前に負けない投球をしないと」だった。
入部時の最速は120キロにも届かなかった。同世代のチームメートと比較しても「真ん中より下」の評価だった。実力差を痛感し、母友恵さんに「やばいかも…」。ラインで弱音を吐くこともあった。
「高校3年間で、1度もベンチ入りできないかもしれない」
ビッグネームとは対照的に、マウンド上では目立つ存在ではなかった。
チームメートで女房役の山下翔捕手(3年)も「正直(森下が)エースになるとは思わなかった」と言う。続けて「でも、誰よりも努力していたのは森下なので」とも言った。
午後10時からの自主練習が日課。グラブとタオルを手にシャドーピッチングを欠かさなかった。筋トレに、冬場の走り込みも人一倍に取り組んでいた。春先に自己最速149キロを計測。急成長を遂げ、立場が一変した。今夏の長崎大会から自身初の背番号1。部員104人、投手だけでも約30人の大所帯の中から念願のエースナンバーをつかんだ。右腕の努力を知る周囲は、誰もが納得した。
今大会で同校史上初めて夏の聖地2勝をマークした。原動力となった「創成館 背番号1 森下翔太」の知名度も一気に全国区へ広まった。「(今の自分を)想像していなかったです。(森下翔太の)名前に恥じない投球はできたかな」。涙をぬぐって、夢舞台を後にした。【佐藤究】
▽創成館・稙田龍生監督(61)「(エース森下は)勝てるピッチャーになってくれた。10本以上ヒットを打たれても、あれだけの失点に抑えられたのも成長」