
<全国高校野球選手権:創成館1-0神村学園>◇13日◇2回戦◇甲子園
7回2死一塁、神村学園の茶畑颯志(ちゃばた・そうし)捕手(3年)は、代打で甲子園の打席に立つと真ん中高めの直球を振りぬいた。「落ちてくれと思いながら全力疾走しました」。打球は中飛に。球場からは大歓声があがった。
先天性の難聴で、4歳で人工内耳を取り付けるための手術を受けた。左耳は、ほとんど聞こえない。「大歓声は少しは聞こえました。今まで聞いた音の中でも、すごく大きいなという感覚でした」。右耳をそっと傾けた。
2年前の3月26日を忘れない。地元鹿児島から甲子園に出場したいと夢を抱き神村学園に進学した。しかし、同校野球部は丸刈りが規則。「それまでは補聴器が見えるのが恥ずかしくて長髪で隠していた」。入寮前日、自宅のお風呂場で兄に頭を刈ってもらった。鏡を見て「結構イケる」と笑った。
入学後は、苦難の連続だった。耳のこともありコミュニケーションが苦手だったが、話しかけるとみんな笑顔で答えてくれた。声が聞き取れないときは、ジェスチャーや、背中をトントンとたたいてくれた。今はチームメートと話しをするのが一番の楽しみだ。
昨秋、小田大介監督(42)と「難聴の人でも甲子園でプレーができることを示す」と約束を交わした。全力疾走で約束を果たした夏。甲子園の大歓声は一生忘れない。【保坂淑子】