
<阪神0-1ヤクルト>◇8日◇甲子園
やはり春の甲子園がよく似合う。ヤクルト高橋奎二投手(27)が8回3安打無失点の好投で今季初勝利を挙げた。プロ入り後、初となる4月の甲子園の登板で、阪神打線に三塁すら踏ませなかった。龍谷大平安(京都)時代に、14年センバツで優勝した左腕。あの春から11年がたったマウンドで躍動した。昨季チームが2勝8敗と鬼門だった聖地で、阪神才木との投手戦を制した。
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まだ肌寒い浜風が心地よかった。春の甲子園は強い。敵地のヒーローインタビューで高橋は「週の始めで、何とかチームにいい流れを持ってこられるように投げた。また勝てるように」とかみしめた。同点だった7回は石井投手コーチに「勝ちたいだろ」と問われ「勝ちたいです」と即答。完投は逃したが、8回を119球で投げ切り勝ち星をつかんだ。
虎党の大声援は、自らのエネルギーに変換した。1点リードの8回無死一塁、代打の佐藤輝と対峙(たいじ)。カウント2-2から勝負球の138キロカットボールはやや高めに抜けたが、空振り三振に仕留めた。「(阪神の)応援が逆に自分が応援されているように投げている感じ。ほんとにすごい応援なので、それを自分の力に変えているみたいな感じで投げてます」。魔物も発動させない。甲子園の雰囲気を味方にした。
今から11年前の春。龍谷大平安(京都)の2年生左腕として、14年センバツの頂点に立った。甲子園は今も色あせない思い出の場所。投球時に胸元まで高く上げていた右足は、あの春に比べれば、少し低くなった。ただ「左のライアン」と呼ばれたフォームの面影は今も残る。
沖縄キャンプ中の2月中旬だった。研修旅行で沖縄を訪れていた母校の野球部員にばったり出会った。一緒に写真を撮り、「頑張ってや」と励ました。思わぬ場所で後輩と交流。高校時代を思い出し、シーズンに向かう活力とした。
プロ入り後、過去に甲子園では8度登板していたが、1勝2敗だった。ただ、いずれも5月22日以降で、“春”の甲子園は今回が初登板だ。最高の投球を披露し、「どこの球場でもこういうピッチングができればいい」。昨季から続いていたチームの甲子園での連敗も6で止めた。目標は3年ぶりのリーグ制覇。今年は“秋”に最高の歓喜に浸る。【上田悠太】