
日本(FIFAランキング15位)が、世界最速で26年W杯北中米3カ国大会の出場権をもぎ取った。バーレーン(同81位)戦の後半21分に途中出場のMF鎌田大地(28)が先制点。MF久保建英(23)の追加点もあり、2-0で勝って6勝1分けの勝ち点19とし、C組2位以上が確定。8大会連続8度目のW杯出場を決めた。3試合を残しての予選突破は日本史上最速。22年カタール大会でベスト16に導いた森保一監督(56)の下、チームは最終予選で初めて初戦から3連勝を果たすと、その後も圧倒した。
森保一とは、世界の代表監督の中で最もジェントルマンかもしれない。
昨年10月、サウジアラビア・ジッダでの試合前日会見。地元メディアからこんな質問を投げかけられた。
「(サウジアラビア代表)マンチーニは勝てなくて(日本にとっては)いいチャンスだと思いますか? 弱いと思っていますか?」
サウジアラビアは初戦でインドネシアと引き分け、中国には勝ったものの苦戦した。現地メディアは、マンチーニ監督が率いるサウジアラビアの戦いに対し、確実に不満を抱いていた。そこでこう回答している。
「非常に素晴らしい監督。サウジアラビアのレベルアップ、アジアのレベルアップに貢献してくれる方だと思っている。結果は勝負事なので、出たり出なかったりはある。マンチーニ監督は、欧州を制している監督。皆さん、全力でサポートしていただけたら。我々はいい試合が出来るようにベストを尽くしたい」
会見では、常に対戦国へのリスペクトを口にする。その国の伝統、文化も含め郷に入れば郷に従う。相手を包み込むような柔らかな笑みを投げかけ、緊張感を和らげる。森保監督の持つ温かさは代表選手たちに対しても同様に向けられる。
同11月15日のインドネシア戦。4バックから3バックへのシステム変更に伴い出場機会がなかったDF菅原由勢が、途中出場から勝負を決定付けるゴールを奪った。その4日後の中国戦に向けた会見だった。
「これは質問と違うかもしれないですけど、由勢が得点した時に、本当に出場機会を得られない選手たちの努力をチーム全体で分かっていて。そこから結果を出したことにみんなで喜ぶというシーンは、非常に監督としてうれしかった」
チーム全体への目配りを忘れない、森保監督らしい発言だった。「思いやり心理」。共感性こそがチームの一体感を生み、積極的にチャレンジする土壌を生み出す。ひとかどの男たちを束ねるマネジメント術が、そこに見て取れた。
アウェーではさまざまな洗礼も浴びたが、泰然自若とした。9月10日のバーレーン戦ではPKを蹴る上田綺世にレーザーポインターを照射する妨害工作があった。11月19日のアウェー中国戦では、初戦で0-7と大敗したこともあってか、ピッチの横幅が約3メートルも短い状況で試合が行われていた。それでも「ホームチームがルールの中で決めること」と意に介さなかった。
欧州、日本と異なる場所から試合直前に集合し、大きく気候が異なるアジア大陸を股にかけて戦った。前回カタール大会の予選も戦っただけに、そのマネジメントはお手の物。そこにある考えは1つだ。「選手たちが100%、試合に力を発揮できるように」。監督として選手たちの心身を整え、積み上げてきた戦術を問い、日の丸を背負って戦う誇りを強調する。そして「君が代」には熱い涙を流す。そこには自身のバックボーンに関わる世界平和、社会貢献という大きなミッションもにじませている。
森保一が発する言葉が、表情が、行動が、欧州の第一線で戦う侍たちの「ジャパンプライド」をかき立てる。「我々が目指しているのは世界一」。W杯行きの切符をつかむことは、本大会への通過点でしかない。