<第97回選抜高校野球大会:選考委員会>◇24日
今春センバツに出場する21世紀枠は、ともに初出場の横浜清陵(神奈川)と壱岐(長崎)の2校が選出された。
◇ ◇ ◇
玄界灘に浮かぶ離島に春の知らせが届いた。午後3時半過ぎ。校内のホールで中継を見守った壱岐ナインが歓喜した。吉報に、全長8メートルで祝福の横断幕を披露。島内アナウンスも流れ、ビッグニュースに島全体が沸いた。3度、宙を舞った坂本徹監督(40)は「生徒らが一生懸命にやってきたことが報われた瞬間」。01年夏に波佐見で甲子園出場も、指導者としては初めて。喜びをかみしめ、余韻に浸った。
就任5年目。求めたのは意識の変革だった。「責任を持たせたかったので」。新チーム始動時、現2年生12人に役職を与えた。主将をはじめ、グラウンド整備リーダー、道具リーダー、身だしなみリーダー…。「役割を持つことで生徒が意欲的、積極的に取り組むようになった。こっちから指示すると、すぐに言い訳、逃げたりとかするので」。甘えを一掃。「一人一役」によって主体性が生まれ、島外への遠征など地理的なハンディも克服した。
創部48年目で初出場した昨秋の九州大会で8強入り。長崎の離島勢として上位進出は初の快挙だった。島民に「100年に1度の奇跡」と感動を与えた。現2年生たちは中学3年時に「壱岐から甲子園に」と誓い合い、結集した世代だ。エースの浦上脩吾主将(2年)は「夢がかなった。甲子園で校歌を歌って、島に恩返しがしたい」と決意をにじませた。【佐藤究】
◆壱岐 離島にあり、部員全員が島内出身。遠征に多額の費用がかかる中、秋季大会は県準優勝、九州大会8強入り。1909年(明42)創立の県立校。学科は普通コース、東アジア歴史・中国語コース。生徒数414人(女子211人)。野球部創部は1976年(昭51)。部員25人(女子マネジャー4人)。春夏通じて甲子園初出場。主な卒業生は下條雄太郎(ボートレーサー)、北島武(バレーボール・日鉄堺監督)、長島夏子(元陸上選手)ら。所在地は長崎県壱岐市郷ノ浦町片原触88
◆壱岐島 九州の玄界灘に浮かぶ長崎の離島。人口は約2万4000人で博多港から高速船で約1時間、長崎空港からは飛行機で30分の位置にある。島内には150以上の神社があり、島全体がパワースポットで知られる。そっぽを向いた猿にそっくりで有名な奇岩「猿岩」と観光スポットも数多く存在する。さらに、ウニや壱岐牛などグルメも豊富で麦焼酎発祥の地でもある。出身者には76年夏の甲子園で海星のエースで4強入りした元ヤクルト酒井圭一氏らがいる。
◆21世紀枠 01年導入。推薦校は秋季都道府県大会の16強以上(加盟129校以上は32強以上)が対象。練習環境のハンディ克服、地域への貢献など野球の実力以外の要素も選考基準にしている。07年まで2校、08年から23年まで3校を選出(85回記念大会の13年と、明治神宮大会中止に伴い神宮大会枠がなかった21年は4校)。昨年から東日本、西日本の地域に関係なく2校に変更された。
◆21世紀枠初選出 神奈川県、長崎県からの21世紀枠選出はともに初めて。神奈川県勢は前回大会まで47都道府県で唯一、全国9地区から1校ずつ候補になる地区連盟推薦校に選ばれていなかったが、県勢初の9校入りから代表の座をつかんだ。
◆島からの甲子園 沖縄本島を除き、島からの甲子園出場は9校目。淡路島の洲本(兵庫)は53年春に優勝した。21世紀枠で出た島の学校は03年隠岐(島根)、11年佐渡(新潟)、12年洲本、14年大島(鹿児島)、16年小豆島(香川)と過去5校が初戦敗退しており、壱岐は初戦突破なるか。