
可搬式で、どこでも入浴を可能とする「野外入浴セット2型」は、トレーラー式のボイラーや組み立て式の浴槽、洗い場設備などで構成される。総出湯量は5.4トン/h、湯沸時間は約45分。入浴可能人員は約1200人/日。自衛隊式お風呂は利用者を幸せにする装備だ。
TEXT &PHOTO◎貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)
アウトドアでイージーにお風呂に入りたい、これを叶える装備品が「野外入浴セット2型」だ。陸上自衛隊の資料には『野外における身体の洗浄及び温浴による戦力回復に使用』とあり、角張った説明だが衛生面や入浴の効果を的確に説明している。駐屯地を離れ、山の中の演習場などで長期間の演習や訓練を行なう際に使ったりするわけだ。
この装備の主要器材類は専用トレーラーに組み込んである。これをトラックなどの車両で牽引して運ぶことができる。入浴セットは陸自後方支援連隊の補給隊などが保有している需品器材という扱いだ。
セットを構成するのは次のとおり。
トレーラーに搭載している器材とはボイラーや揚水ポンプ、発動発電機で、これらは給湯系の器材になる。そして野外浴槽、シャワースタンド、業務用天幕(テント)2型(補給用)、貯水タンク(1万ℓ)が入浴のための器材と周辺設備になる。さらに付属品として「すのこ」やシート、脱衣カゴ・脱衣棚がある。
野外浴槽は組み立て式で、浴槽フレームの内側にテントシートを張ってゆく方式。そして貯水タンクの水をボイラーで沸かし、配管を通じて野外浴槽へ給湯する。浴槽の横には洗い場の設備となる蛇口とシャワーヘッドの組み合わせが複数個置かれる。大型テントの中に野外浴槽と洗い場を設けている、これが野外入浴セットの基本構成だ。一度に30名程度が入浴できる。

この入浴区画の手前に別の天幕で脱衣室を設ける。そして脱衣室のさらに手前に待合スペースや休憩スペースを作ることもある。全体は、銭湯のレイアウトと同じようなイメージだ。
そして肝心の「お湯」である。温度調整範囲は15℃~75℃だという。水風呂の温度〜ぬる湯〜適温、そして熱湯まで給湯できる性能だ。洗い場の蛇口とシャワーヘッドは一般住居用の風呂設備品と同様なものなので使いやすい。イスや桶も同様。家庭や入浴施設などでいつも使っている馴染みのある道具類の方がリラックスできるというものだ。

ただ、野外浴槽は意外と高さがある。側壁が高く、大きく跨いで入る必要があるのだ。そのままでは思わぬ怪我にもつながるので、階段や手すりなどを用意することもある。これは各部隊で独自に工夫していることが多い。誰でも安心して利用できるようにするためだ。
誰でも安心して利用できる云々とは災害派遣での運用を指している。野外入浴セットや野外炊具などの支援装備は災害派遣時に被災者への生活支援装備となる。被災者から喜ばれる装備品の一群だと言える。突然の災厄で疲れた身体と心を温めてくれるからだ。そのさい利用するのは国民で、老若男女様々な方々が入浴することになる。そのときのために浴槽を跨ぐ階段や手すりを部隊の面々がやりくりした材料で手製する例は多い。また、浴槽への給湯パイプを竹筒で覆い、温泉風情を醸し出す工夫をしている野外入浴セットもある。風呂というものに対する我々日本人の気持ちが、こうした細部に見て取れる。
避難所などに展開した野外入浴セットを利用した方々の様子を見ていると、入浴後は皆さん笑顔になっている。ホッとしたような表情の方もいた。風呂に入ったんだから、そりゃそうだと思う。本来なら、災害派遣に来た自衛隊の風呂に入ることになるような災厄には誰しも見舞われたくはない。しかし、誰もが被災する可能性はある。被災の状況や度合いはさまざまであろうけれども、自衛隊が動いているならば、いずれ風呂には入れる、そう踏まえておけば安心できる。
ちなみに野外入浴セットにはそれを保有する部隊ごと、その地方や地元、郷土の特色を表す名前が付けられている。それは、テントの入り口に掛けられる「のれん」に描かれ、それらは隊員達が考案した愛称であることが多い。一例を挙げると、北海道旭川の第2師団は「大雪の湯」。青森の第9師団は「ねぶたの湯」。東京練馬の第1師団は「練馬の湯」。兵庫県千僧の第3師団は「六甲の湯」などだ。