このあと秋にかけて、ラニーニャ現象が発生する可能性が高くなっています。発生・本格化すれば、西太平洋熱帯域の対流活動が活発になり、2023年(エルニーニョ現象下)と比較して、日本列島により近い西よりの海域で台風が発生しやすくなるでしょう。更に、台風の発生する緯度も年々北上傾向となっており、これからの台風シーズンは、発生後に短期間で列島に近づく台風の動向に注意が必要です。
●ラニーニャ現象の影響 台風の発生位置は西へずれて日本近海に近づく傾向
エルニーニョ現象は終息し、今後秋にかけてはラニーニャ現象が発生する可能性が高くなっています。
「ラニーニャ現象」による影響を平たく言うと、西太平洋熱帯域の海面水温が上昇し、積乱雲の活動が活発になります。結果として西太平洋熱帯域で台風が発生しやすくなる一つの条件が整い、2023年(エルニーニョ現象下)と比較して、発生数は東の海域で減り、西の海域で相対的に増える傾向に変わっていくのです。
上図は、デジタル台風のデータをもとに、台風の発生場所の経度を5度毎・年度別に個数を抽出、更に夏の期間にエルニーニョ現象またはラニーニャ現象が発生していた年度毎の二つのグループに分けた結果を、グラフ化したものです。
北半球を北極上空から俯瞰するイメージを持って下さい。ピンク色は2023年を含む過去のエルニーニョ年、青色は過去のラニーニャ年を示しています。母数はラニーニャ年の方がやや少ないですが、青色のラニーニャ年は、東経125度~140度の範囲で、ピンク色のエルニーニョ年と同等かそれ以上に多く台風が発生しています。
一方、東経140度以東の台風発生数は、全般にピンク色のエルニーニョ年の方が多く、青色のラニーニャ年の方が少ない傾向となっています。ラニーニャ年になると、台風の発生経度が西へずれる傾向となり日本近海に近づくと言えそうです。
●台風の発生緯度 北緯25~30度(日本近海)では増加傾向
次は台風の発生する緯度です。台風の発生場所の緯度を5度毎・年度別に個数を抽出、その中から長期変化傾向の大きな「北緯5~10度」「北緯10~15度」「北緯25~30度」の三つの緯度帯の変化をグラフ化しました。
直線で示すのが長期変化傾向で、「ピンク色の北緯5~10度」「赤色の北緯10~15度」など、赤道に近い低緯度では、台風の発生数は減少傾向となっています。
一方、本州付近に最も近い「緑色の北緯25~30度」では、前二者の低緯度と比較して相対的にやや増加傾向になっているようにも見えます。これは、海面水温の上昇が一因で、本州付近に近い海域でも台風が発生しやすく、発生緯度が北上傾向となっているものと考えられます。
●ラニーニャ年は台風接近数はやや少ない傾向も 8~9月に集中する?
2024年は台風2号が5月31日に発生して以降、新たな台風の発生のない期間が1か月半以上となりましたが、今後は油断禁物です。
北陸地方への影響という観点で、過去の接近数を見てみましょう。気象庁では、「北陸地方に接近した台風」を、台風の中心が、新潟県・富山県・石川県・福井県のいずれかの気象官署から300km以内に入った場合の台風としています。
夏の期間がラニーニャ年、エルニーニョ年、平常年毎に分類すると、その平均の接近数は、ラニーニャ年が2.1個、エルニーニョ年が2.6個、平常年が2.7個となっていました。ラニーニャ年はやや少ない傾向ですが、いずれも毎年2個以上は接近台風があることになります。
次に、シーズン計に占める8~9月に接近した割合を見ると、ラニーニャ年は78%と他の二者より多く、短い期間で台風の接近が集中していることが分かります。お盆の移動の時期と重なったり、秋雨前線との危険な組み合わせになり、発生してから、短期間で日本列島に近づくことになればその影響は甚大です。
北陸地方でも、まもなく梅雨明け(※)の発表がありそうです。ただ、7月18日発表の最新の1か月予報によれば、平均気温は引き続き平年より高い中、「降水量は平年並みか多く」「日照時間は平年並みか少ない」予想となっています。本格的な台風シーズンはこれからとなっていきます。気象情報には常に気を配り、備えを万全にして下さい。
(※)梅雨は季節現象であり、梅雨の入り明けには、平均的に5日間程度の「移り変わり」の期間があります。なお、梅雨入り・梅雨明けの発表は速報値で、春から夏にかけての天候経過を考慮して再検討され、見直されることがあります。
●台風第3号発生
台風第3号は、21日9時現在、フィリピンの東にあって、北西へ毎時15kmで進んでいます。中心気圧は998hPa、中心付近の最大風速は20m/sです。この台風は、発達しながら24日9時には沖縄の南に達し、26日9時には華中に達するでしょう。台風周辺地域および進路にあたる地域は強風や大雨に、台風の進路にあたる海域はしけに警戒が必要です。
●現時点で想定される台風第3号による北陸地方への影響
台風第3号は海面水温が30度前後と高い海域を北上、今後発達して風速25m/s以上の暴風域を伴う見込みです。台風の周囲は下降気流が強まり、太平洋高気圧は本州付近で勢力を強めるでしょう。北への張り出しも強まる見込みです。
北陸地方でも、今後気温のベースが底上げされて猛烈な暑さとなるでしょう。更に、台風から離れていても、新潟を中心に南東風によるフェーン現象が発生、更に暑さに拍車がかかることもありそうです。熱中症リスクが更に高まり危険な暑さとなる可能性もあります。
この台風は、太平洋高気圧の強まりに対応して、北陸地方を直撃することはなさそうです。ただ、それでも油断は禁物。熱帯由来の強い暖湿気が大陸経由で日本海からブーメラン返しのように北陸地方から北日本方面に大雨など別の形で影響を与える可能性もあります。今後の情報に十分注意して下さい。