
豊橋中央(愛知)のプロ注目・松井蓮太朗捕手(3年)が昨夏に萩本将光監督(42)と味わった絶望感から、再び立ち上がり、春夏通じて甲子園初出場を勝ち取った。
“猪木顔”で世間を沸かせたピンチの場面で、アントニオ猪木さんの表情をまねするエース高橋大喜地投手(3年)の女房役で、小学生からバッテリーを組む。同校には「一番熱い練習をしていた。私学4強を倒して(監督の)萩本さんの熱い野球がしたくてここに来た」。7月中旬、松井へ野球ノートに何を書いているか聞くと、「普段から『甲子園』と書いている。愛知代表で『甲子園へ』ということを意識しています」と回答。その意識の裏には、指揮官と味わった「絶望」があった。
飛躍のきっかけとなった今夏の愛知大会準々決勝・杜若戦はプロ注目・長塚陽太との投げ合いで、17奪三振を記録した高橋をリード。杜若は、因縁の相手だった。
1年秋から正捕手の座をつかんだ松井は同年秋の東海大会初出場に貢献。翌2年夏の24年。西尾との5回戦で、右足首を骨折し、約2カ月戦線を離脱。勝ち進むも、欠場した準々決勝・杜若戦で敗退。同監督は「初めて人生において、絶望感を感じた」と話し、「去年の3年生は秋の東海大会に出て、『絶対甲子園に』とやってきた。(当時2年の)松井がケガでいなくなって、(当時の)3年生が絶望感を味わっていた」。
そこで「泣きじゃくった」2年生の松井、高橋、今夏4番の砂田隆晴外野手らへ指揮官は、ある言葉を贈った。「去年、甲子園を狙っていたんだから。2年間分の甲子園へのリベンジを狙う気持ちで」。ギプスをしていた松井は復帰へ「座って軽くできるトレーニングやウエートを。ケガがあったからこそ、今の自分がある。人生で一番悔しくて、練習から気持ちを上げてできた」。前向きな気持ちを取り戻し、自身の心の強さにも気づけた。
指揮官にハッパを掛けられた世代は、今夏に杜若とのリベンジに成功したことを弾みに、「打倒私学4強」で愛工大名電、東邦を撃破。記念大会を除き東三河勢50年ぶりの夏の愛知代表に輝き、松井は高橋の3戦連続完投勝利をもり立てた。それでも、松井は謙虚だった。「大喜地自身は『(自分が)一番』という性格。自分は支えて、良さを引き出してあげるだけ」。
入学後は指揮官から捕手の基礎をみっちり教わった「配球もリードもダメダメ。萩本さんに1球ずつ教えてもらい、相手打者の構えやスイングを見るようになった。大喜地のよさを引き出すことが一番。『配球でどうにかなる』という監督の教えを守っている」。
迎えた11日・日大三(西東京)戦で3打数2安打を放つも、2-3の初戦敗退。「萩本さんを日本一の男にしたかった。僅差で負けて悔しいですが、全員に感謝したい。後輩たちには甲子園で勝てるチームを作ってもらいたい」。苦しい思いを経て実った、春夏通じて初出場。後輩たちが初白星をつなぐ。【中島麗】
◆松井蓮太朗(まつい・れんたろう)2007年(平19)8月3日生まれ、愛知県豊橋市出身。小2で向山ビクトリーで野球を始め、中学は愛知豊橋ボーイズに所属。目標とする選手は、同校OBのソフトバンク谷川原健太。好きな食べ物は、エビ。好きな歌手は、Mrs.GREEN APPLE。身長176センチ、体重78キロ。右投げ左打ち。