
<全国高校野球選手権:花巻東4ー1智弁和歌山>◇8日◇甲子園
やっぱり3年生は頼りになる。花巻東(岩手)が、センバツ準Vの智弁和歌山を4-1で下し、2年ぶりの初戦突破を果たした。2年生が主軸に並ぶチームで、3年生が躍動。7番高橋蓮太郎捕手(3年)は本職の捕手としては2年生左腕・萬谷堅心(まんや・けんしん)投手を好リードで1失点完投に導き、打ってはダメ押しの適時打を放った。8校中4校が春夏通じて甲子園優勝経験を持つ「死のブロック」で、まずは第1関門を突破した。
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最後は高めの直球でバットが空を切らせた。ミットにボールを収めた高橋蓮は立ち上がると、右拳を力いっぱい振り下ろした。3点リードで迎えた9回。2死までは順調だったが、智弁和歌山の底力に苦しんだ。味方失策と四球で一、二塁のピンチ。すかさずタイムを取ると、萬谷のもとへ向かって声をかけた。
「同点になっても、俺らが必ず点数を取るから」
次打者に死球を与えて満塁になったが、慌てなかった。どっしりと構えて、2年生左腕の不安と迷いを消し、完投勝ちへと導いた。
強力打線を相手に、低めに集める投球を意識させた。「三振を取りにいくのではなく、打たせて取るためにセオリーな感じでいくしかないと思っていました。体現できて良かったです」。狙いは緩急を使った組み立て。最速138キロの直球と、110キロ台中盤のスライダーを要求し、センバツ準V打線を抑え込んだ。
萬谷の正確を熟知し、リードに生かした。「(萬谷は)『先輩の夏を終わらせない』とか『自分が抑えなきゃ』とか1人で抱え込むんです」。それが、投球にも表れることがある。テンポが崩れはじめると、すかさず駆け寄って、声をかける。他の3年生も同じ。「後ろには先輩がいるから大丈夫」。これが、2年生にとっては実力を発揮できる魔法の言葉となっている。
打っては3-1の6回1死二塁で、甘く入ったスライダーを捉えた。岩手大会から打撃不調が続き、木製バットから金属バットに変更。大会屈指の好投手、最速152キロ右腕の手宮口龍斗投手(3年)から強烈な左前適時打を放った。「萬谷が頑張っていたので、少しでも楽にしてあげようと思っていました」とバットでもアシストした。
佐々木洋監督(50)も絶大な信頼を寄せる。「バッティングも頑張ってくれましたし、正直、状態が良くなかった萬谷をうまくリードしてくれました」。伝統校の誇りを胸に刻み、花巻東を背負ってきた3年生。その頼もしさが、死のブロックで勝ち上がるには必要不可欠だ。【木村有優】
◆高橋蓮太郎(たかはし・れんたろう) 2007年(平19)8月7日生まれ、宮城県出身。小2から面瀬小野球部で野球を始め、中学では金ケ﨑シニアでプレー。高校では1年秋からベンチ入り。50メートル走6・6秒。遠投95メートル。178センチ、90キロ。右投げ右打ち。趣味は音楽鑑賞。
○…ベンチ内でも、3年生がチームを支えた。出番がなかった中村耕太朗主将だが、ベンチから勝利に貢献した。「自分の役目は、チームを流れに一気に乗せることだと思っています」と常に言葉をかけ続け、声をからした。さらに、周りを見る力もピカイチ。「悪い空気が漂っている時には、良い空気感をつくるなど、常に良い状態の雰囲気にするよう心がけています」。主将のひと声も、勝利への絶対条件だ。
○…長打力が売りで佐々木監督からキーマンにあげられていた3番新田光志朗内野手(3年)は、1安打1打点1犠打で。5回2死三塁の活躍を見せた、初回無死一、二塁から犠打を決め、その後の2得点を演出。5回2死三塁では「三塁ランナーをなんとしてでも返したいと思っていたので、強く低い打球を心がけました」と、中前適時打で貴重な追加点をもたらした。
○…頼もしい先輩に、後輩も続いた。1年生から4番に座り、巨人・古城茂幸内野守備走塁コーチ(49)を父に持つ古城大翔(だいと)内野手(2年)は1安打1打点。3季連続の甲子園で早くも存在感を見せた。「ありがたいことに少しずつ慣れてきているので、ピンチの場面でも平常心を保ちながらプレーすることができました」。先輩とともにした大舞台での経験が、結果につながっている。
○…今春センバツで甲子園デビューした5番赤間史弥外野手(2年)も、1安打1打点。「好投手が相手で、何度もチャンスをつくることはできないと思ったので、チャンスでしっかり点を取ることを意識しました」。1点を先制された1回裏、上位に座る3年生が好機をつくり、古城が同点打、赤間が犠飛で続いて決勝点をもぎ取った。3年生の背中をみてきた後輩たちも、初戦から輝きを放った。
◆花巻東 1956年(昭31)創立の花巻商(のちの富士短大付花巻)と57年創立の谷村学院が82年に統合した私立校。生徒数は753人(うち女子336人)、野球部は56年創部で部員数は97人(うちマネジャー3人)。甲子園出場は春5度、夏13度目。佐々木監督の「世界で活躍できる人材を育てたい」との意向で、来年には米国、ドイツからの入部予定者もいる。所在地は花巻市松園町55の1。小田島順造校長。