『恋のマイアヒ』のメロディーに乗せてキウイブラザーズがアゲアゲに歌い踊り話題になっている『ゼスプリ』のテレビCM。僕自身も「おぉ、マイアヒか!」と印象に残っていたが、原曲なんてしらないはずの小さな子供たちも学校や家庭で「アゲリシャス~♪」と歌い踊るほどの大ブームっぷりらしい。
モルドバ出身のバンド『O-Zone』による『恋のマイアヒ』が日本でヒットしたのは2005年前後。楽曲自体ずいぶん流行ったし『2ちゃんねる』のFlashムービーでも空耳アワー的に「飲ま飲まイェイ~」とネタにされてたっけと懐かしいことこの上ない。しかし、あれから15年たった今、どうしてこの曲が形を変えて再ブレイクしているのだろうか。
『ゼスプリ』のCMを企画している電通の北田有一さんに『恋のマイアヒ』起用のいきさつについてうかがってみた。
――ゼスプリのCMで本格的に歌モノを作るのは2016年以来ですね。今回、歌とダンスを軸にした内容を採用された理由を教えてください。
北田有一(以下、北田):キウイを食べる行動に"感情"を与えるためです。
というのも、キウイの味は誰もが知っています。その健康効果も、だいぶ知られるようになりました。しかし、みんなが知っている味やビタミンの話は、あくまで機能的なベネフィットです。長く愛されている商品やブランドを見てみると、必ずそれぞれが感情や情緒と関係しています。炭酸飲料だったら、爽快な気分にさせてくれます。化粧品だったら、自信を与えてくれます。
調査をしてみると、キウイをおいしいと感じている人でも、キウイに特別な感情を持っていないことがわかりました。そこで、キウイを食べた時にどんな気分になるかを研究し、その感情をたくさんの人に紹介しようと考えました。しかし、ある気分をストレートに間違いなく伝えるには言葉では限界があるため、歌とダンスのチカラを借りました。
――「アゲリシャス」というワードはどうやって生まれたのでしょうか?
北田:キウイを毎日のように食べている人に聞いたところ"高揚感"を感じるとおっしゃっている方が何名かいました。
たしかにキウイの甘さとビタミンを感じるほどよい酸味の掛け合わせは、少し前向きな気持ちにさせてくれます。といっても、栄養ドリンクのような、元気フルチャージ!というような「高揚感」ではなく、もうすこし親しみやすくて、すこし懐かしさがあって、すこし外国っぽい、クセになる高揚感です。それを短いテレビコマーショルの中で伝えようと考えた時に、既存の言葉では無理だと考え、200案くらいの造語を考え、ベスト2案を提案し、クライアントさんと選びました。
――なぜ『恋のマイアヒ』のメロディーを採用したのでしょうか?
昨年2018年には元O-ZoneのDan Balanが『恋のマイアヒ2018』(原題『Numa Numa2』)というタイトルでセルフカバーして、PVもYOUTUBE上で話題になっていましたね。
北田:1000曲以上は聞いたと思いますが、親しみやすさ、懐かしさ、外国っぽさ、クセになる高揚感、すべてのキーワードにはまったのは『恋のマイアヒ』と、あるもう一曲でした。しかし、それぞれの曲で仮でつくったテスト映像を編集してみると、キウイを食べたときの感情によりフィットして見えたのは『恋のマイアヒ』だったので選びました。
最後の5曲くらいに絞った時に、調べていく中で2018年バージョンがあったことは知り、いまでも人気があって活動されていることはもちろんプラスに考えましたが、直接の選考理由とは関係ありませんでした。
――CM人気はキウイブラザーズの特徴的なダンスも大きな要因だと思います。ダンスに込められたメッセージや狙いなど教えてください。
北田:ダンスは、見ていて楽しくて、でも実際に踊ろうと思うと、簡単に見えて難しい、というチャレンジをしました。というのも、キウイはバナナのように単純な味ではありません。その複雑さも含めて、キウイらしいダンスにしたかったのと、ダンスの義務教育化やtiktokの登場もあり、日本のダンスリテラシーが上がっていることを感じていたので、みなさんに理解してもらえると考えました。
――リアルタイムで『恋のマイアヒ』を知る世代は30代以降になっていますが、そのメロディーが今の子供や10代の若者にもウケている現象をどう感じますか?狙っていた部分や意図的な部分はあったんでしょうか?
北田:フルーツにとって、子供のころの原体験は、非常に重要です。お正月にこたつの中で家族で食べたみかん、風邪をひいたときに母が食べさせてくれたりんご、などなど。なので、今回のキャンペーンも、親子の間で会話が起こることを大切にしていました。
朝食を食べながら、テレビから流れたCMを見て、マイアヒを知らない小学生のお子さんが「この曲好き!」と言い、父が「この曲、すごく流行ったマイアヒの替え歌だよ」と言い、食卓が盛り上がり、夕方、それを覚えていた母が、鼻歌を歌いながらスーパーでキウイを買って帰ってくれたら、と考えました。
――7月5日にYOUTUBEで公開された『【完成版】ゼスプリ アアゲリシャス公式Music』にはいろんな方が参加されていますね。一般の方からきゃりーぱみゅぱみゅさん、ガチャピン、すしざんまいの社長まで!選考基準はどんな感じだったんでしょうか。
北田:ありがたいことに、我々の予想をはるかに超える65,000件以上の応募をいただきました。本当に締め切りのギリギリまで、力作が集まり、丁寧にひとつひとつ拝見させていただきました。選考基準は様々ありましたが、一番大切にしたのは、キウイを食べた時のような「アゲリシャス」な気分を感じられるかどうか、です。特別ゲストの方々は、なるべく各界から幅広く、アゲリシャスな方々にお声がけしました。
――今回のCMが本格的に「火がついてきた」と感じたのはいつ頃ですか?
北田:はじめに驚いたのはCMがオンエアされた初日です。ツイート数が例年の3倍以上あり、これはイケるかもと感じました。次に火がついたかもと感じたのは、周りのお父さんお母さんから「うちの子供の学校で流行っている」という声を頂くようになってからです。
そして、本格的にヒットしたと確信できたのは『しゃべくり007』(日本テレビ)や『モニタリング』(TBS)など、有名バラエティ番組で取り上げていただくようになった時です。
またありがたいことに、グーグルさんから2019上半期のYoutube広告で第1位に選出いただいたり、今でも連日のように学校やお祭りなどのイベントで使用したいという問い合わせを頂いております。
僕は先日、とあるパーティーで戦前の大ヒット曲『東京ラプソディ』を歌ったのだが、中高年だけでなく絶対に曲を知らないはずの20代、30代も若者まで不思議なくらいにアゲアゲに盛り上がって不思議に感じていた。
しかし、今回のインタビューを通し、ある種の楽曲には、新旧や知ってる知ってないに関わらず、人の心を沸き立たせるパワーがあるのだという確信に至った。また、そういったパワーを持つ名曲だからメジャー展開のチャンスに恵まれるわけだ。『恋のマイアヒ』が『ゼスプリ』CMに起用され、再ブレイクしたのもそういった例の一つなのだろう。