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【レビュー】映像の詩人・テレンス・マリックが描く愛と裏切りで美しくゆらめく人間たち―『ソング・トゥ・ソング』


映画界の“生ける伝説”とも言われる巨匠テレンス・マリック、その真骨頂ともいうべき映像美を堪能できる「2020年、最も美しい映画」かもしれない。

それはアカデミー賞3年連続受賞の天才撮影監督エマニュエル・ルベツキによるゆらゆらと揺れ動く広角レンズによる撮影によるところも大きい。

だが理由はそれだけではない。

この映画でマリック監督が表現する映像美は、自由と愛と幸福を求めてゆらゆらと彷徨う人間たちの人生美に見事なほどに重なるのだ。

「時を忘れるほど美しい」とVogue誌にも評された本作は、その流れる時間自体が美しい。

そして時間と人生は等価値だ。

音楽の街、テキサス州オースティンを舞台に、自らの人生を彷徨う登場人物たちを演じるのはルーニー・マーラー、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマンという豪華キャスト。

「映画は舞台のように見えてほしくない。キャラクターの人生の断片をつなぎ合わせることで、映画を観ながら彼らの人生を経験しているように感じさせたかった」と振り返るマリック監督。

この明確な演出の方向性に基づきキャストたちが行う即興演技は、ドキュメンタリーすら超えて、実際の私生活を覗き見ているような筋書きのないリアリティを感じさせてくれる。

音楽の世界で成功と自由を求めながらも、愛と裏切りに振り回される登場人物たち。

過去の監督作のように、明確なストーリーを一貫して繋いでいくのではなく、映像と登場人物のつぶやきの断片を重ねていく手法、それによって無限に広がりを見せる私的でエモーショナルな世界。

すぐ側に恋人たちがいて、まさに今触れ合っているような音、息遣い、香り、熱、光、その全てがこちらに伝わってくるから驚きだ。

そして、映画を見終わった後には、自分の過去の思い出すらも美しく繋がり始め、この世界が新しく輝き始めたような錯覚を覚えてしまう

音符のように揺れ動く人間たちの、その歌のような人生のはかなくも愛しい美しさ。

映像の詩人、マリック監督以外に誰がこんな映画を作れるだろう。

 

『ソング・トゥ・ソング』

■監督・脚本:テレンス・マリック 
■製作総指揮:ケン・カオ 
■撮影:エマニュエル・ルベツキ
■音楽:ローレン・マリー・ミクス 編集:ハンク・コーウィン
■出演:ルーニー・マーラ、ライアン・ゴズリング、マイケル・ファスベンダー、ナタリー・ポートマン、ケイト・ブランシェット 他

© 2017 Buckeye Pictures, LLC

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