
池松壮亮(35)が8日、都内のNHKで開かれたNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」(総合、16、17日午後9時)出演者会見に出席。真珠湾攻撃8カ月前の1941年(昭16)4月に日本中の若きエリートが秘密裏に集められ、対米戦をシミュレートするために作られた首相直属の「総力戦研究所」にて、模擬内閣の内閣総理大臣を演じた。「撮影期間中は毎朝、毎朝、祈るような気持ちで、何とかやっていました」と振り返った。また、盟友関係にある映画監督の石井裕也氏(42)が脚本・編集・演出を担当し、初めて戦争ドラマに挑んだ作品に主演した、格別な思いも吐露した。
「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」は、猪瀬直樹参院議員(78)が1983年(昭58)に出版したノンフィクション「昭和16年夏の敗戦」が原案。出身官庁や企業から機密情報を集めて模擬内閣を作り、日本が米国と戦った場合のあらゆる可能性をシミュレートした、実在の総力戦研究所に着想を得たドラマ。“圧倒的な敗北”の結論を手にした若者たちが、開戦へ突き進む軍や本物の内閣と対峙(たいじ)する物語で、実在した総力戦研究所に着想を得たが、所長と関係者はフィクションとして描いた。
池松は劇中で、同研究所に突然、招集された産業組合中央金庫(現・農林中金)の調査課長で、東大法学部を首席で卒業したエリートの宇治田洋一を演じた。模擬内閣では内閣総理大臣に指名され、軍への反感からシミュレーションに消極的だったが、厳しい現実を知り「開戦を避けるべき」と動き出す役どころだ。「フィクションではある。決してないんですけど、この国の未来をコントロールする責任ある立場に置かれ、もしかしたら自分たちの選択で戦争を止められるかも知れない、大勢の命を守れるかも知れない…と考えた」と演じた思いを語った。
石井氏とは、17年の「映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ」で石井組に初主演し、24年の主演映画「本心」では映画の製作を直々に依頼するなど盟友関係にある。映画ではなくNHKの、しかも戦後80年企画ドラマで再びタッグを組んだ。「思いや感じたものは?」と聞かれると「圧倒的な歴史、事実として残っているものを物語にすることで、これまで以上に責任と、やりがいと、使命を監督自身が感じていました。ドラマを戦後80年のタイミングで、NHKで制作できることに、とてもやりがいを感じていたと思います」と同氏の思いを代弁。「使命感に、みんなで引っ張られた。ちょっと時間はかかってしまったんですけど…5年くらいかかって、このタイミングで発表でき、うれしく思います」と自身の思いも語った。
「映画と作り方は違ったか?」と聞かれると「普段は、やっぱり映画作家なので、映画というフォーマットの中でできることをやっていると思いますが、今回はたくさんの事実の中から、どこをドラマとしてピックアップしていくのか、そこに物語、人間が生きていた、思ったことを、どう入れ込んでいくのかは非常にこだわった。ドラマとしては、すばらしいものになったと思います」と胸を張った。
脚本についても「受け取って、これまでの戦争映画とは違うと思った」と口にした。「開戦前夜を描くのには、やはり、これだけ時間がかかってしまったのかな。事実は終戦後、完全に国家機密として伏せられてきたもので、80年たって、ようやく語られるタイミングが来たのかなと。衝撃でした」と評した。一方で「現代に通じる、さまざまな人間の問題の根源があると思った」とも語った。
この日は、仲野太賀(32)と中村蒼(34)も出席した。仲野は宇治田と同じ民間出身で、同盟通信社政治部記者の樺島茂雄を演じた。模擬内閣では「内閣書記官長兼情報局総裁」を担当し、はじめは宇治田の消極的態度を批判的に見るが、次第に彼の苦悩を理解し、戦友のような絆を感じていく役どころだ。
中村は、陸軍少佐の高城源一を演じた。模擬内閣では「陸軍大臣」を担当。欧米列強に支配されるアジアで、いずれ植民地にされる前に日本は先に動くべきだと開戦を強硬に主張するが、宇治田の分析に驚き現実を見定め始める役どころだ。