
終戦から80年の15日、大日本帝国海軍で沈むことなく終戦を迎えた唯一の駆逐艦を描いた1本の映画が、戦争の記憶を未来につなぐ船出をした。「雪風 YUKIKAZE」(山田敏久監督)初日舞台あいさつが都内で開かれ、主演の竹野内豊(54)は「戦争が皆さんの記憶から、少しずつ現実味が失われていく、このタイミングで世に送り出すことができたのは偶然ではなく、何かの必然だったのではないか」と公開する意義を訴えた。
「雪風」は45年4月の坊ノ岬沖海戦で戦艦大和が撃沈された中、投げ出された兵士を救ったことでも知られる。小滝祥平プロデューサーは11年の映画「聯合艦隊司令長官 山本五十六」を製作した際、原作者で監修もした昭和史の第一人者・半藤一利さんから「雪風という船を勉強してご覧なさい」と勧められ、今作を製作。「無知を恥じずに勝手にものを作ってはダメだ」と薫陶を受け、さまざまな資料を徹底的に調べ上げた上での史実と、それを元に作り上げた竹野内演じた艦長の人物像など劇映画としての要素を融合させた。
作品作りの魂は、戦争を知らない世代の俳優陣にも伝わった。奥平大兼(21)は、出演を機に雪風を知った。演じた水雷員たちの、つかの間の休憩を描いた場面を演じた中で「気を紛らせているのは、これから戦うため。当時の方と同じ気持ちにはなれないですが言葉にできない感情になった」と吐露。「先人が平和を願ったおかげで今日がある。映画に出て未来永劫(えいごう)、戦争がない日々にできる人間になりたいと思った」と熱く訴えた。
実在した第二艦隊司令長官・伊藤整一を演じた中井貴一(63)は「個人的にまだ終戦になってないと、ずっと思っています。世界が平和になるまで努力していきたい思いを感じていただける映画になれば」と語った。国際情勢が不安定な中、映画「雪風」の平和を未来に伝える旅が始まった。【村上幸将】