
72歳になったリーアム・ニーソンは昨年10月、そう遠くない日にアクション作品から身を引く考えを明らかにした。
出身地の北アイルランドを舞台にした「プロフェッショナル」(4月11日公開)には、「96時間」(08年)以来のアクション映画への思いが詰まっている。
1970年代。イギリス統治に対するIRA(アイルランド共和軍)暫定派の運動で、しばしば血なまぐさい事件が起きていた時代だ。切り立った海岸線に緑の台地…美しい自然に囲まれた田舎町にもそんな影が忍び寄ってくる。
マーフィー(ニーソン)はこの田舎町で正体を隠しながら、フィクサーのロバート(コルム・ミーニイ)から請け負う殺し屋稼業を続けている。これまでの経歴が明かされないのもミソで、ニーソンのアクション作品歴から勝手に「スゴ腕」のイメージが膨らむ。
対照的に敵役のIRA過激派女性闘士デラン(ケリー・コンドン)の心情描写は随所に織り込まれ、テロに走った事情が浮かび上がる。なるほど、ニーソン好みの一筋縄ではいかない対決構図だ。
物語は、マーフィーがある少女への虐待に気付いたことを発端にIRA過激派との死闘になだれ込んでいくが、場面転換もすっきりと分かりやすい。限られたメインキャストのキャラもしっかりと作り込まれている。
長年クリント・イーストウッド作品をプロデュースしてきたロバート・ロレンツ監督の確かな手腕が感じられる。眉の動きに意志の強さを感じるケリー・コンドンの好演に加え、マーフィーの後輩役ケビンにふんしたジャック・グリーソンや地元警察幹部ビンセント役のキアラン・ハインズら、往年の西部劇で見た名脇役を思い出す存在感だ。
そして何より「引退を考え始めた殺し屋」を体現したニーソンのリアリズム。
「若い頃からボクシングをやっていたし、今でもスタントの担当者と動き方を練ったり、リハーサルをやるのは楽しくて仕方ない。一方で、アクション映画に銃は欠かせないけど、引き金を引くにはやむにやまれない状況がなければいけないと思っている」
7年前に来日インタビューした時に聞いた言葉だ。そんな思いは今作からも感じられる。まだまだニーソンのアクション作品を見たい気がする。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)