芸能界では中山美穂さん、桂ざこばさん、火野正平さん、声優では大山のぶ代さん、TARAKOさん、漫画家では鳥山明さんら、2024年(令6)は、長年いろいろな分野をリードしてきた方々が亡くなった。まねのできないアドリブ力で観客を魅了し、人懐っこさは共演者から愛された俳優、歌手の西田敏行さんは10月17日、76歳で突然逝った。芸能界で半世紀をともに走った盟友、歌手の松崎しげる(75)が悼む。
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亡くなる10日前、西田さんと酒席をともにした。
「トイレに行くにも壁伝いだから10分、15分かかる。手を貸そうとすると怒るんだよね。いったん席に戻れば、下ネタばかりのいつもの西田だった。つらいとか痛いとかいっさい言わなかった。最後まで周りを楽しませようとしていたね」
だから、訃報を聞いても実感がわかなかった。
「自宅の西田は生きているみたい。演技かと思った。何にでも成りきったからね。『植村直己物語』のロケで秘境から帰ってきたときなんて1週間くらい抜けなくて仙人みたいなことばかり言ってたから。でも…顔を触ったら、涙が止まらなくなった。火葬の後、骨の中にこんなにってくらいの数のボルトが見えた。また涙が止まらなくなった」
後に同世代として親睦を温めた五人会(2人と柴俊夫、田中健、故志垣太郎さん)の中で、先に売れた柴を介して、2人は49年前に出会った。西田さんは柴主演ドラマの脇役、松崎は柴家の居候だった。
「僕が歌っていた六本木のクラブに柴さんが連れてきた。『おれ六本木はじめてなんだあ』。福島なまりの人懐っこさに引き込まれ、それからは毎晩僕のステージにあがって、放送禁止用語のアドリブで盛り上げた。あれから一緒に過ごした時間はホントに長かった。互いのケツの毛までというか、西田に言わせればケツのシワの数まで知り合う仲になった」
そんなステージがTBS関係者の目に留まった。
「ラジオの深夜放送かと思ったら、土曜昼のテレビの生放送(西やん松ちゃんのハッスル銀座)。売れない2人がいきなり番組を持たせてもらった。西田はゲストはアラン・ドロンの奥さんがいい、なんて言いだした。そしたら3週目にホントにナタリー・ドロンが来たからね。あれだけ下ネタ歌ってたのにメインの替え歌コーナーでは、テレビ規格ぎりぎりを守った。順応性もすごかった」
77年、転機が訪れた。
「西田は『三男三女婿一匹』であの森繁久弥さんのアドリブに平然とアドリブで返して注目された。僕は『愛のメモリー』と出会った。その年の大みそか。西田は『夢だった』と自分のことのように喜んで『レコ大』『紅白』とついてきた。周りの幸せを自分のことのように喜べる人だった」【相原斎】