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吉原遊廓は「金融ネットワーク」だった!? 国立歴史民俗博物館『性差の日本史』が示すジェンダーの変遷



千葉県佐倉市の国立歴史民俗博物館(歴博)で2020年12月6日まで開催している企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』。日本において記録されることが少なかった女性たちの姿を掘り起こし、「なぜ、男女で区分するようになったのか?」「男女の区分のなかで人びとはどう生きていたのか?」という問いのもと、重要文化財やユネスコ『世界の記憶』を含む280点以上の資料によって、ジェンダーが日本の歴史の中でどのように変化してきたのかを詳らかにしています。


歴博では、近年のジェンダーへの関心の高まりを受けて、基盤共同研究『日本列島社会の歴史とジェンダー』(2016~19年度)を進めており、今回の展示はその成果の現れでもあります。展示は「政治空間における男女」「仕事とくらしのなかのジェンダー」「性の売買とジェンダー」と、大きく3つのテーマに分けられており、現在多くの人の意識のうちに染み付いている「ジェンダー」がどのような成り立ちで社会全体の規範となっていたのか、理解が深まる内容となっています。



邪馬台国の女王の卑弥呼のように、弥生末期から古墳時代には、女性が「王」になることも多く、考古学による埋葬例の解析では女性首長が全体の3~5割いたと推測されています。栃木県下野市の甲塚古墳から出土した埴輪について、頭上に箱型の容器を載せた姿の女性の立像や、機を織る女性の坐像などは、女性が政治空間の中で公的な役割を負っていたことを示していると考えられます。また、馬の像には胴体を白に塗った痕跡があり、鞍の突起が女性が乗る際の足場と考えられ、有力な女性リーダーの存在が想定できます。実際、田畑を耕すこと一つを取っても男女の区別は見られず、『古事記』の系譜を見ただけでは男女の判別はできず、男女は均等な立場だったと考えられています。



古代の天皇は、推古・皇極/斉明・持統・元明・元正・孝謙/称徳と女帝の存在もあり、朝廷でも男女の役人の協働が見られます。しかし、7世紀末の飛鳥浄御原令以降、律令国家体制が成立すると、天皇の子が「皇子」「皇女」と区分され、庶民も戸籍で一人一人が把握されるようになり、男女が明確に区分されるようになります。これが日本史において明確に「ジェンダー」が確立されたことを示す分水嶺となっているとしています。


奈良・平安期においても地方から中央に出仕した「采女」は、後宮内での正式な位とポストが与えられており、また地方豪族でも女性の地域のリーダーである「里刀自」がいたことが分かっています。古代出雲歴史博物館が制作した8世紀の青木遺跡の推定復元ジオラマでは、女性も祭祀に参加しており、性別より長幼の序によって席次が定まっていることがわかります。後世になっても、鎌倉幕府を実質的に率いた北条政子や、今川家の寿桂尼のように、政治の表に立った女性が登場しており、土地など財産の相続権を持つ例も数多く文献が残されています。



一方で、仏教が入ってきたことにより女性罪業観が徐々に共有されることになり、中世後期には出産や月経の血が女性の堕地獄の原因と考えられるようになります。また、職業に関しても男女により区別が徐々に広がっていきます。


今回の展示では、アミューズミュージアム所蔵の田中忠三郎コレクションのどんじゃやぼどこを間近で見ることができます。ぼどこは、近世から近代にかけて青森県南部地方の女性たちがコギン刺しで布をかぶせて作れていて、何代にも渡って出産用に使われた敷物だと考えられています。つなぎ合わせた何十もの布が、女性たちの手仕事の証を現代にまで伝え、北国の暮らしを感じさせてくれます。



このプロジェクトの代表の横山百合子教授は、『江戸東京の明治維新』(岩波新書)などの著書があり、幕末から明治にかけての江戸都市史が専門。その研究の過程で遊廓などに着目して「遊女を売買するシステムが江戸という都市そのものに制度的に組み込まれている」といいます。近世の遊廓では、遊女の身体は道具と同じく売買可能な動産と見られ、それが故に遊女屋が借金の担保として遊女を差し出した文書も数多く残されており、「寺社や貴族、豪農たちが遊女屋を対象に広域金融ネットワークを作り出して、遊女の性の収奪による収益がシステムを支えていた」という視点を提示しています。


また、遊女たちはしばしば待遇の不満や過酷な暴力によって生命の危機に晒され、放火などの事件を起こしています。1800年以降、倒幕までに新吉原遊郭は23回もの火事が発生しており、うち13回は遊女による放火。1849年8月には、小見世遊女屋梅本屋佐吉抱え遊女16人が2年以上の合議を重ねた上で集団で放火し、名主方に自主して抱え主佐吉の非道を訴えるという強硬手段に出ています。今回の展示では、遊女たちが残した日記が見られるようになっています。横山教授は「遊女たちが”書く”ことで心理的な抑圧を緩和して、過酷な環境で自己形成を果たしていった過程がうかがえます。日々の生活や悩みを書くことは、SNSでつぶやく現代の人とそれほど遠くない位置にあるように見えます」といいます。



1956年生まれの横山教授は、高校教諭から東京大学大学院に進み、研究職に就いたという経歴の持ち主。「自分の上の世代の女性研究者は実力にあった職を得られないなど、差別と闘ってきました。指導教官から“就職の世話は一切しないから結婚相手を見つけろ”と面と向かって言われるような時代だったと聞いています。私は教育から研究に移ったのが遅かったこともあって、そのようなダイレクトな差別を受けることが少なくなったはじめの世代。これも先人が闘ってきた上での事だと思います」と語ります。


日本史における性差を網羅的に見て俯瞰できる歴博の展示。「明治初期の東京でも史料自体は膨大にあるにもかかわらず女性に関するものは(男性のものに比べて)非常に少ない」(横山教授)ということもあり、これまで光が当たってこなかった方向から歴史を見つめ直す機会になるのではないでしょうか。


企画展示『性差(ジェンダー)の日本史』


開催期間:2020年10月6日(火)~12月6日(日)

会場:国立歴史民俗博物館 企画展示室A・B

料金:一般:1000円/大学生:500円

開催時間:9時30分~16時30分(入館は16時00分まで)

休館日:毎週月曜日(休日にあたる場合は開館し、翌日休館)

主催:大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立歴史民俗博物館


図録:2500円(税込)

https://rekihakushop.shop-pro.jp/?pid=154477844 [リンク]



『性差(ジェンダー)の日本史』(国立歴史民俗博物館)

https://www.rekihaku.ac.jp/exhibitions/project/index.html [リンク]


―― やわらかニュースサイト 『ガジェット通信(GetNews)』
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