音楽の快感は、アルコールや薬物と同じ脳領域で生じていることが判明しました。
カナダ・マギル大学の神経科学研究チームは、fMRI(機能的磁気共鳴画像法)とTMS(経頭蓋磁気刺激)を用いて、脳内におけるポップミュージックの影響を調査。
脳の報酬経路を刺激することで、音楽による快感やモチベーションが高まることが分かりました。
これは聴覚と報酬領域の間のコミュニケーションが、音楽に喜びを感じる理由であることを脳科学的に実証した初の研究となります。
研究は、3月29日付けで『JNeurosci』に掲載されました。
目次
- 音楽とアルコールは同じ快感?
音楽とアルコールは同じ快感?
これまでの知見によると、音楽の報酬には、ドーパミン経路(報酬系路)の関与が必須とされています。
この経路は、中脳の「腹側被蓋野(VTA)」から始まり、重要な報酬領域の1つである「側坐核(NAc)」に至ります。
アルコールや薬物の他に、食事や性的行為によっても刺激される経路です。
一方で、この経路に音楽が関わっていることは、まだ相関的にしか示されていませんでした。
研究主任のアーネスト・マス-へレロ氏は「音楽の快感と報酬系路の間のリンクは示唆されていますが、一方が他方を引き起こすことは因果的に証明されていない」と話します。
そこでチームは、ポップミュージックを好む17人の被験者を対象に調査を開始。
被験者に音楽を聞いてもらっている間、血流の動きに合わせて変化する脳の活動をfMRIで測定しました。
スキャンの前には、「TMS(経頭蓋磁気刺激)」によって、報酬経路を間接的に刺激、あるいは抑制しています。
TMSとは、8の字型の電磁石を使って弱い電流を組織内に誘起し、脳内のニューロンを興奮させる非侵襲的な方法です。
加えて被験者には、音楽の快楽レベルを示す目的で、用意した応答パッドの4つのボタンのうちの1つを押すよう指示しています。
その結果、音楽を聴く前に報酬経路を刺激すると、被験者が音楽を聴くときに感じる快感が増し、反対に抑制すると快感が減少することが明らかになりました。
これらの誘発された快楽の変化は、報酬経路の重要な領域である「側坐核」における活動の変化と連動しており、側坐核の変化が被験者の反応の違いと正確に一致していたとのことです。
マス-へレロ氏は「この結果は、聴覚領域と報酬経路の相互作用が、音楽を聴くときに感じる快感を起こす原因であることを証明する」と述べています。
同じ経路が中毒性の強いアルコールや薬物の快楽にも関わっていることから、私たちが音楽を聴き続けるのも納得かもしれません。
記事内容に一部誤字があったため、修正して再送しております。
参考文献
Neuroscientists Uncover Why the Brain Enjoys Music
https://scitechdaily.com/neuroscientists-uncover-why-the-brain-enjoys-music/
元論文
Unraveling the temporal dynamics of reward signals in music-induced pleasure with TMS
https://www.jneurosci.org/content/early/2021/03/19/JNEUROSCI.0727-20.2020
ライター
大石航樹: 愛媛県生まれ。大学で福岡に移り、大学院ではフランス哲学を学びました。 他に、生物学や歴史学が好きで、本サイトでは主に、動植物や歴史・考古学系の記事を担当しています。 趣味は映画鑑賞で、月に30〜40本観ることも。
編集者
やまがしゅんいち: 高等学校での理科教員を経て、現職に就く。ナゾロジーにて「身近な科学」をテーマにディレクションを行っています。アニメ・ゲームなどのインドア系と、登山・サイクリングなどのアウトドア系の趣味を両方嗜むお天気屋。乗り物やワクワクするガジェットも大好き。専門は化学。将来の夢はマッドサイエンティスト……?