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自動車の電化を進めるうえで、どうしても解決せねばならないのが、性能が下がったバッテリーの処理である。現在のところ多くのメーカーが取り組んでいるのは再利用であるが、VWはバッテリーから原材料を回収する方法に挑戦している。その取り組みについて、ご紹介しよう。
TEXT:川島礼二郎(KAWASHIMA Reijiro)
VWグループにおいて、クルマの電動化推進の中心的役割を担うために2019年に設立されたのが、VWグループコンポーネントである。そのため最重要事業は「eモビリティ」であり、VWのみならずアウディなどの傘下ブランドに対して、バッテリーやモーターを供給するために設立された。そんなVWグループコンポーネントが、先月リリースを発表した。バッテリーから原材料を回収してリサイクルするためのパイロット工場が稼働を開始したのだという。
リチウムイオン電池から原材料を回収する
VWグループコンポーネントは、ドイツ北西部に位置するニーダーザクセン州の都市ザルツギッターに、VWグループで初となるEVバッテリーをリサイクルするための工場を開設した。このパイロットプラントは、EVバッテリーのバリューチェーン全体における持続可能なエンドツーエンドの責任を果たすための取り組みである。
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その目的はリチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどの貴重な原材料を、アルミニウム、銅、プラスチックと共に工業的に回収して、長期的には90%以上のリサイクル率を達成することである。
ザルツギッター工場では、他の目的に使用できなくなったバッテリーのみをリサイクルする。バッテリーをリサイクルする前に分析を行い、バッテリーが柔軟な急速充電ステーションやモバイル充電ロボットなどのモバイルエネルギー貯蔵システムにおいて、セカンドライフを過ごせる性能を維持しているかどうか判断される。
自動車用バッテリーは極めて高性能であるから、VWグループコンポーネントにおいても、まずはリユースの可能性を探る。それが不可能なバッテリーのみ、原材料回収に回す。
早くても2020年代後半までは、大量のバッテリーが本プラントに返却されるとは考えられない(筆者注:新車販売の動向からの予測であると考えられる)。そのため、このプラントは、当初は年間最大で3,600個のバッテリーシステムをリサイクルするように設計されている。それでもこれは重量にして1,600トン以上に相当する。将来的にはプロセスが最適化してシステムをスケールアップすることで、遥かに大量のバッテリーを処理できるようにする。
VW AGの取締役会メンバーであり、技術部門会長であるトーマス・シュモール氏は以下のように述べた。
「VWグループコンポーネントは、EVの主要コンポーネントであるバッテリーに関して持続可能なエンドツーエンドの責任を果たすため、新たな一歩を踏み出しました。持続可能な=リサイクル可能な材料サイクルを実現します。そして気候保護と原材料供給の大きな可能性を秘めた、この未来志向の課題について、業界で先駆的な役割を果たします」
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革新的なリサイクルプロセスでは、高炉でのエネルギー集約的な溶解は必要ない。使用済みバッテリーシステムは、納品、深放電、解体される。個々の部品はシュレッダーで細かく砕かれ、乾燥される。このプロセスでは、アルミニウム、銅、プラスチックに加えて、グラファイトだけでなく、リチウム、ニッケル、マンガン、コバルトなどの電池の重要な原材料を含む貴重な「黒色火薬」も生成される。その後、水と化学薬品を使用した湿式製錬プロセスによる個々の物質の分離と処理は、専門のパートナーによって実行される。
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ビジネスユニット技術開発およびE-モビリティの責任者であるマーク・メラー氏は、以下のように説明している。
「これらプロセスを経て、古いバッテリーセルを使用して、新しいバッテリーを生産する材料を得ることができます。試験結果から、こうして得られた原材料は、新品の材料と同じくらい効率的であることも分かっています。
将来的には、回収したバッテリーから得られた材料でバッテリーセル生産をサポートして行きます。バッテリーとそれに対応する原材料の需要が大幅に増加することを考えると、リサイクルされた材料を有効活用することは、本当に大切なのです」