パワートレーンからボディの素材、製造方法にいたるまで、革新的なフィロソフィと手法で作られたBMW i3。そのレンジエクステンダー仕様は、アメリカの行政当局とBMWの思惑が一致して誕生した。i3 REx登場までの経緯と規格の変遷、それはPHEV以上なのか。それともEV未満なのだろうか。
レンジエクステンダー(REx)とは、機構としてはシリーズ・ハイブリッドの一種で、エンジン(ICE)を純粋な発電機として使うものを指す。PHEVのようにICEを駆動力としては用いない、ということがポイントであるが、i3 RExが登場した背景には、技術的訴求以外に行政組織が定めたRExの定義が存在する。
米カリフォルニア州大気資源局(CARB)が、2012年に“BEVx”というレンジエクステンダー車を、ゼロエミッション車(ZEV)として認定するための適合基準を設けている。それによると
・少なくともEVとして75マイル(121km)の航続距離を持つこと
・補助電源装置(APU)による航続距離は、EVのそれ以下であること
・APUは電池のSOC(State of Charge=充電率)設定下限値以下で作動すること
等の要件が定められている。これらの要件をクリアした自動車はZEVとして認められ、販売時にCARBが設けたクレジット・ポイントが与えられる。その規定に合致した最初の製品が、BMW i3 RExである。
CARBによるBEVx定義の前提条件は、エンジンを航続距離を延ばすために用いるのではなく、EVの電池容量がゼロになった時に充電場所まで移動するために使う、ということにある。だからエンジン駆動のための燃料容量は制限されるべきとしており、当初はRExとして喧伝されたシボレー・ボルトはこうした理由(タンク容量約35ℓ)により、CARBの規定ではPHEV扱いとなっている。i3RExは開発時からBEVxの規格に準拠すべく作られたため、燃料タンク容量はバッテリー容量からの逆算で9ℓとされた。
ところが、燃費関連の審査を行なう米政府環境省(EPA)では、EVとしての航続距離不足とAPU走行距離の過大を指摘され、BEVxとして認められずにPHEV扱いとなってしまった。2018年から本格的に始まるZEV規制に適合させるため、すでに北米仕様ではタンク容量を7.2ℓに減らされている。
■ W20
i3のレンジエクステンダー用エンジン。DOHC、ビッグボア・ショートストロークの寸法要素など、高回転性能が重視されない発電専用エンジンらしからぬスペックは、BMWの大排気量スクーターC650のエンジンをベースとしているため。オイルパンなどを含むロアケースなど部品としては専用品が多いものの、基本的な構造は共通で、圧縮比の変更(C650:11.6 → 10.6)などにより最高出力を抑制(C650:44kW → 28kW)、トルクカーブもほぼ同じ高さのピークが3つ並ぶ独特なもの。エンジンは充電時以外にもオイル循環のために定期的に始動する。形式呼称のWはサードパーティ製、つまりサプライヤーメーカーでの製造を意味する。
このように、i3 RExは原則的にはEVであり、レンジエクステンダーという言葉をPHEVのエンジンと同様に捉えてはいけないということがわかる。つまり、エンジンはまったくの非常用で、使用にあたっては常に充電を前提とする必要がある、ということだ。具体的にはEV航続距離である120km以内に1回の使用を抑えるべきということ。ただしピュアEVでは航続可能距離目一杯の使用は実質不可能なところ、BEVxではエンジンという保険がある、という程度に認識した方がよいのである。