吸気バルブを早く/遅く閉じることで高膨張比サイクルにする「アトキンソンサイクル」——これは正確にはミラーサイクルである。では本当のアトキンソンサイクルとは——。
TEXT:世良耕太(SERA Kota)
ホンダ福井社長が2005年に「次世代型汎用エンジンは、吸気/圧縮工程と膨張/排気工程のストロークを変える機構を持つ高膨張比エンジン。すでに実験室での運転を開始している。燃費20%向上を可能とし、アトキンソン・サイクルを理想的に実現した画期的な技術である」と発表した高膨張比エンジンがこれだ。コンロッドとクランク軸の間を4節のリンク構造としたマルチリンク機構で1回転ごとに長/短のストロークを実現した。これによって、アトキンソン・サイクルの特徴である「燃焼ガスの力を最大限に活用し、少ない吸気で大きな膨張仕事」「ポンピングロスの減少」ができるというわけだ。
この高膨張比エンジンの可変クランクの技術は、今後発展が予想されるHCCIエンジンにも必要な技術だけに注目しておきたい。今回のエンジンはあくまでも「汎用エンジン」で、自動車用に転用するにはまだ時間が必要だという。
主要諸元を記しておくと、ボア64mm、ストロークは吸気/圧縮行程で42.0mm、膨張/排気行程で63.3mm。行程容積は吸気/圧縮行程では135.2cc、膨張/排気行程では203.6cc。圧縮比は8.5/膨張比が12.3。
アトキンソン・サイクル・エンジンの弱点だった「複雑なクランク機構という欠点」は、4節のマルチリンクで構成されるシンプルなクランク軸回りの構造でクリア。下のPV線図(P=圧力、Vが体積)を見るとアトキンソンサイクルの有効性が理解しやすい。圧縮比8.5に対して膨張比12.3。ノッキングを避け、大きな膨張仕事を得ている。熱効率も向上している。
リンク部品が増えるとフリクションも増えるのではないか?という疑問に関しては、「ピストンフリクションの積算値は従来型エンジンに比較して57%低い。フリクションの合計は従来型と同等」だという。フリクションが小さい理由は、従来型ではクランクの回転によってコンロッドが最大16度も傾斜するのに対して、高膨張比エンジンでは、リンク機構によりコンロッドがほぼ直立(最大で6.6度)となり、スラスト力が減少するからと説明されていた。