2016年1月に誕生したスズキのAセグメントクロスオーバーカー「イグニス」が、20年2月にマイナーチェンジ。ラインナップ全体でSUV色を強める中、専用の前後バンパーとオーバーフェンダー&サイドスカート、ルーフレールを装着したほか、室内にもレザー調シートや防汚タイプラゲッジフロアを採用するなど、より一層SUVらしさを強調した新グレード「ハイブリッドMF」を追加している。
この「ハイブリッドMF」に、都内および神奈川県内の市街地と高速道路で試乗した。なお、今回のテスト車両には、全方位モニター用カメラパッケージ(5万5000円)、スタンダードプラス8インチナビ(16万5605円)など31万695円分のオプションが装着されており、車両本体価格183万9200円と合わせて総計214万9895円の仕様となっていた。
REPORT●遠藤正賢(ENDO Masakatsu) PHOTO●遠藤正賢、スズキ
そして、今回のマイナーチェンジでは全車に5スロットグリルを採用し、さらに「ハイブリッドMF」には冒頭の通り専用アイテムを数多く装着することで、従来よりもSUV色を強める方向にシフトしているのだが、依然としてイグニスの内外装は極めて個性的だ。
とりわけリヤまわりの造形は「なんだこれは!?」と驚かせるもので、特に上側の絞り込みは、2008年から2014年にかけてハンガリーから輸入されていたAセグメントの背高ワゴン「スプラッシュ」を彷彿とさせる。
だが、バックドア上側の傾斜が前後方向にも強く、リヤドアのガラス面積も小さくされたイグニスではこれらの代償が大きく、斜め後方の死角が大きい。そして、ヒップポイントが高めに設計されているのは、見晴らしが良くニークリアランスも15cm程度確保されているという点では好ましいが、身長176cm・座高90cmの筆者が座ると、後席のヘッドクリアランスは上下にも左右にもほぼゼロだ。
しかもリヤシートは小ぶりなうえ平板でクッションの弾力も弱く、これにハイブリッドMF専用の固く滑りやすいレザー調生地が、ただでさえ乏しいホールド性を限りなくゼロに近づけてしまっている。なお、この傾向は残念ながら、フロントシートも全く同様だった。
加えてラゲッジルームは奥行きが少なく、前述の通りバックドア上側の傾斜が前後左右に強い。そのためこの時点で、アウトドアレジャーを楽しむのに人と荷物を満載して遠くまで出掛けるのには不向きと直感したのだが、一方でサブトランクは深く、日常の買い物では非常に使い勝手が良さそうに感じられた。
さて、ここで一つ、大きな問題がある。それは、今やスズキの中にさえ、AセグメントのSUVは他に選択肢があるということだ。具体的には、2017年12月にデビューした「クロスビー」、2018年7月にフルモデルチェンジされた「ジムニーシエラ」がそれにあたる。
特にクロスビーはイグニスのロング版というべきもので、パワートレインも1.0L直3ターボ+CVT+マイルドハイブリッドとするなど、イグニスに勝る点は少なくない。ジムニーシエラも新型になって舗装路でのハンドリングと乗り心地が大きく改善され、悪路以外でも問題なく使える本格オフローダーに進化した。
そこに来て、SUV色を強めた今回のイグニスのマイナーチェンジは、これら二車にキャラクターを近づけ、差別化どころか共食いを誘発する自殺行為に等しい。スズキの通例からすれば、さらなる改良はフルモデルチェンジまで待たねばならないだろうが、もし次の世代があるならば、スプラッシュのように実用的かつ、長距離長時間高速道路を走行しても快適なコンパクト背高ワゴンに回帰することを、心から願ってやまない。
■スズキ・イグニスハイブリッドMF(FF)
全長×全幅×全高:3700×1690×1605mm
ホイールベース:2435mm
車両重量:880kg
エンジン形式:直列4気筒DOHC
総排気量:1242cc
エンジン最高出力:67kW(91ps)/6000rpm
エンジン最大トルク:118Nm/4400rpm
モーター最高出力:2.3kW(3.1ps)/1000rpm
モーター最大トルク:50Nm/100rpm
トランスミッション:CVT
サスペンション形式 前/後:ストラット/トーションビーム
ブレーキ 前/後:ベンチレーテッドディスク/ドラム
タイヤサイズ:175/60R16 82H
乗車定員:5名
WLTCモード燃費:19.8km/L
市街地モード燃費:15.9km/L
郊外モード燃費:20.5km/L
高速道路モード燃費:21.6km/L
車両価格:183万9200円