毎年恒例の【MFi テクノロジー・アワード】。自動車をテクノロジーから読み解く雑誌Motor Fan illustratedが優れた自動車技術、そしてその技術を開発したエンジニアの皆さんを讃えるために創設したのが【MFi テクノロジー・アワード】です。自動車技術に詳しい識者、MFi編集部、MFi制作チームメンバーに加えて、昨年に引き続き一般読者の皆さま(このMotorFan TECHの読者の皆さま)にも投票いただくことにしました。“アドバンスト・テクノロジー・オブ・ザ・イヤー” のノミネート15技術について、紹介をご覧いただいた後に「次ページ」で投票できるようなっています。ぜひ2019年に心に残った技術、注目に値する技術について一票を投じてください!
“アドバンスト・テクノロジー・オブ・ザ・イヤー” とは……
2019年に発表された技術で、まだ製品化されていないものの、将来性が見込める技術、であろういままでにない視点で開発された技術、実用化されると自動車業界に多大な影響を与えるであろう技術を選考対象しています。
選考過程は “テクノロジー・オブ・ザ・イヤー” と同様で、今回15の技術を選出しました。
その注目すべき15の先進技術について紹介します。
投票にはMotoFan TECHの会員(登録無料)ログインが必要です。ログイン後「次ページ」より、あなたの、もっとも評価する技術をひとつ選んで投票ください。
まだ会員になっていない方は、この機会にぜひ、会員登録(無料)をお願いします。登録後、ログインしていただき、投票してください。
01【トヨタ自動車】バーチャル人体モデル「THUMS」Ver.6
筋肉の緊張状態を同時解析する改良版でより精度の高い衝突事故時解析を可能に
人体は衝突時にどのような損傷を受けるか。外傷についてはダミー人形による試験で確認できるものの、内臓への影響を窺い知ることはできない。THUMSは人体内部の構造を詳細にモデル化し、衝突時の入力によって人体内部にどのような影響を受けるかを測るソフトウェア。2000年に骨(1型)、05年に顔面(2型)、08年に脳(3型)、10年に内臓を精密にモデル化(4型)、さらに15年には3型に筋肉モデルを追加した5型を開発した。新しい6型は4型と5型の機能を兼ねる版で、従来の順次切り替え式から同時解析式へと進化している。
02【SIP】革新的燃焼技術
乗用車用ガソリン/ディーゼルエンジンで正味最高熱効率50%超を達成
オールジャパンとも言える態勢とし、産産学学連携で乗用車用エンジンの効率を著しく高める取り組みにおいて成功を収めた。具体的にはガソリン燃焼において正味熱効率51.5%を、ディーゼル燃焼においては50.1%を達成している。熱効率を高めるためには、燃料の燃焼エネルギーを実効仕事として変換する際に生じる各種の損失を極限まで排するとともに、燃焼自体の効率を高める技術を構築し安定させることが必要。本技術ではガソリン燃焼チーム、ディーゼル燃焼チーム、損失低減チームの3つのカテゴリーそれぞれで追究、高い成果を得た。
03【日本精工】次世代ステアリング制御ソフトウェア
ステア・バイ・ワイヤーまでを視野に入れた自然な操舵感創出のための次世代開発技術
電動パワーステアリング:EPSには各種の方式があり、搭載する車両の特性とも相まって制御の複雑化が進む。近年は運転支援システムの普及も手伝い、加えて外部ハッキングに対する高いセキュリティ性の確保などを含め、EPS開発の工数は膨らむばかりである。日本精工はこれらに対する解決策として高機能高安全の汎用ソフトウェアを開発、これをいわばOSとしてさまざまな製品に適用し、操舵感については付加機能として作り込むことを可能とした。車体構造によらず任意の操舵感を実現でき、経年劣化に対する影響が極小になるのも美点である。
04【日本精工】シームレス2スピードeアクスルコンセプト
歯車を用いない減速機で静粛性を実現さらに変速機を介することで高効率化を実現
モーターは鉄の塊であり小さくしたいが、出力/トルクが落ちてしまう。そこで減速機を介して大トルクを得るが、日本精工の取った手段はトラクションドライブ式減速機だった。トロイダルCVTで培った技術をモーター減速機に展開したもので、物理的接触がなくオイルを介する仕組みであることから振動騒音性能に優れるのが長所。さらに2段変速機を備えることでモーター運転の高効率化と広範な出力特性を両立した。変速時のトルク切れについては、トルクセンサーによるせん断を検出しその間を埋めるトルク制御とすることでシームレス化を実現している。
05【ブリヂストン】SUSYM
ゴムのようにしなやかなのに5倍も強靭にこれまでのタイヤを劇的に変える可能性
合成ゴム成分と樹脂成分を、ブリヂストン独自の重合触媒を用いて分子レベルで結びつけたポリマーがSUSYM:サシム。シート状に加工した同製品を釘に刺しても孔は開かずに形状追随する柔軟性を発揮、かりに孔が開くなどの損傷を受けても熱を加えれば修復が可能。ゴム/樹脂の配合比率を変えれば柔軟性をはじめとする性能を自在に調整でき、ゴム/樹脂のハイブリッド素材でありながら低温下の衝撃にも優れ、無色透明なことから適用部位も広い。次世代タイヤとしての使い方はもちろんのこと、ボディやウィンドウシールドへの適用にも期待がかかる。
06【豊田合成】縦型GaNパワー半導体
大電力容量を実現する新しいパワー半導体がパワーエレクトロニクスの性能を飛躍させる
モーター制御機構のキーデバイスのひとつであるパワー半導体は、スイッチング制御により電圧/電流、周波数をコントロールし、モーターの緻密な運転を可能にしている。近年、モーター制御の高度複雑化にともなって変換効率が頭打ちに近づいているところ、豊田合成は従来素材のシリコンに変えて10倍以上の耐圧性を持つ窒化ガリウムを使用、さらにはFET:電界効果トランジスターとしたときにチップ全体で電気を流せる縦型構造にすることで耐圧維持層を厚くして低抵抗化、1チップで100アンペアという大電流動作を実現した。
07【ZF】Flying Carpet 2.0
4つのアクチュエーターを協調制御し、地上を走る「空飛ぶじゅうたん」を実現する
ドライバーの操作や外乱で生じる車両姿勢の変化に対して、アクティブ/セミアクティブのアクチュエーターを駆使してクルマを始終フラットに保つ次世代車両制御技術。キーデバイスはアクティブダンパーの「sMOTION」で、前後左右4本の伸び縮みを制御して車両姿勢を保つ。どのように伸び縮みさせるかを判断させるのが「cubiX」システムであり、各輪に備わる加速度/ハイトセンサーとカメラからの情報を高速演算する。車両姿勢制御デバイスとしてはステアバイワイヤーや後輪操舵装置、アクティブブレーキシステムも寄与する仕組みとした。
08【ダイハツ工業】ハニカム型水素安全触媒
福島第一原発廃炉における燃料デブリの搬出および長期間の安全な保管に結実する技術
自動車の触媒技術を応用し、廃炉作業を安全にした技術。燃料デブリを運び出す際、保管容器に収めると水分が放射線分解し水素ガスを発生、容器内で酸素濃度5%/水素濃度4%の状態となり雰囲気温度が500°Cを超えると爆発を起こしてしまい、極めて危険である。本技術は水素と酸素を新しく開発した「水素安全触媒」によって水に戻す装置で、ハニカム型セラミックスに塗布してあることから軽量で取り扱いが容易、電力などの外部電源が不要、高活性でマイナス20°C環境下でも反応が可能、貴金属使用量が極少など、多くの美点を持つ。
09【トヨタ自動車】東京オリンピック用電動車
最高のタイミングで最上の技術アピールを各種の最先端技術車両で環境負荷低減を図る
東京2020オリンピック・パラリンピックに、トヨタは3700台にも及ぶ電動車両類を提供する。新たに専用車両として登場するのが画像の「APM」。近距離(航続距離100km)低速型(最高速度19km/h)のEVで、3列シートの6名乗車構造。炎天下での開催が予想されることからストレッチャーを搭載できる救護仕様も用意される。ほか、選手の送迎用としてレベル4相当の自動運転を予定するe-Palette、マラソン先導車などに供するConcept-愛iなどを用意する。世界中にへのアピールとしては最高のタイミングでトヨタの、ひいては日本の技術をアピールする。
10【コンチネンタル】ContiC.A.R.E.
タイヤとホイールに組み込んだセンサーでリアルタイムかつ効果的にモビリティを管理
タイヤ内にセンサーを組み込み、溝の深さ、トレッド損傷の可能性、タイヤ温度、空気圧などを継続的にデータ収集するContiSenseと称するシステムを実装、これらのデータをアプリケーション:Conti Connect Liveと連動させることで車両管理を容易にする仕組み。たとえばロボタクシーが実用化された場合などに有用なソリューションだとコンチネンタルは訴求する。C.A.R.E.は接続/自律/信頼/電子化の接頭語。また、ホイール内には遠心ポンプとタンクを内蔵、運転状況に応じた適正な空気圧調整に役立て、走行性能と環境性能を両立させる。
11【日産自動車】対向式ダイレス成形
少量生産に適した金型不要のパネル成形技術生産終了車の補修部品への福音となるか
鋼板を固定し、ロボットアームに備えたバイトで成形する技術で、高価な金型が不要なことが「ダイレス成形」の所以。さらに日産が開発した手法では鋼板の両側から同時に施工するのがポイントで「対向式」の名称を冠する。部品の3Dデータを用意できれば加工が可能なこともメリットに挙げられる。バイトで鋼板をしごく際に生じてしまう組成変化、工具の絞り筋を解決するのに時間を要したという。残る課題は生産速度。写真のスカイラインGT-R用バックパネルの場合は完了までに2時間を要する。これをいかに短縮するかに今後の展開が期待できそう。
12【ブリヂストン、東京大学、日本精工、ローム、東洋電機製造】 第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモーター
走りながら非接触で充電するパワートレーンバッテリーと車両の小型軽量化に大きく寄与
道路に埋め込んだコイルから、その上を停車/走行するクルマに電気を送り、モーター走行の航続距離を長くする試み。調査によれば、走行中のうち25%は信号の周囲30mにクルマはあり、ならばそのエリアに重点的にコイルを敷設すれば充電が可能という結論に至った。走行中充電ができれば車載バッテリーを小さくすることができ、コストも重量も低減することが可能。本年開発に成功した第3世代においては受電側はホイール内にモーターとインバーターを含めたワンパッケージ構成とし給電効率を向上、出力は25kWまで高めた。
13【三菱電機】自動運転実証実験車「xAUTO」
「走ったことのある道」を高精度で記録し高精度地図情報がなくとも自動運転を可能に
xAUTO自体は2017年にも出展された車両で、今回は2世代目にあたる。注目すべきは過去に走行したルートによる「ローカルマップ」に沿って自動走行制御、高精度地図情報がなくとも自動運転を実現したことである。屋外では準天項衛星システムからの測位サービスで自車位置を取得、屋内ではレーダー/カメラによるセンサー技術で正確に測距し、センチメートル級でローカルマップとして記録していく仕組み。住宅地や私道、農道など、高精度地図が整備されていない道路でも自動運転が可能になる。屋内における自動バレー駐車技術にも展開を目論む。
14【三菱自動車】MI-TECH CONCEPT
かつての技術と思われたガスタービン給電今だからこそ狙える高効率シリーズHEV
四輪独立駆動制御を得意とする三菱自動車が東京モーターショーに出展したシリーズハイブリッド車。4モーターのEVをBセグサイズで実現するために選択した小型軽量の発電装置がガスタービンだった。燃料に融通がきき、低温低圧で燃焼させることから窒素酸化物の発生もなく、高周波ノイズを除けば振動騒音性能にも優れ、既存の発電専用エンジンと比べて小さく軽く作れることが選択の理由になった。発電機は軸直結式とし、高回転設計を目論んだ専用品を載せる予定。ブレーキキャリパーも電動化、4モーターのS-AWC制御で次世代の車両運動制御を狙う。
15【日産自動車】電動駆動四輪制御技術
市販車のキーデバイスを使いながら前後軸独立制御にするとどうなるか
現行型リーフをベースに、後軸にもモーターを搭載してAWDとした試作車両。前軸にのみ備わるモーターで回生を強めていくとピッチ挙動が大きくなるところ、前後モーターとすることで回生制動時に車両全体が沈み込む姿勢を実現し、乗員すべてが不快感を覚えにくくなる。さらに旋回加速時のアンダーステア傾向を収めることにも有用。すでに製品化したモーターでEVの振る舞いをより高度化できるのがポイントで、同社のe-POWERへの展開も期待できそう。狙いが「走りの『質』の向上」であることからも、将来のEVをどのようにしたいかが窺える。