8月22日、三代目トゥインゴがマイナーチェンジを受けた。そこでMotor-Fan.jpでは、この三代目トゥインゴの魅力を再検証すべく、前期型デビュー時のフランス本国取材や国内徹底取材を振り返る企画を数回に渡ってお送りする。第三回目の今回は、ルノーのデザイン部門を率いるローレンス・ヴァン・デン・アッカーのインタビューをお届けしよう。
TEXT●森口将之(MORIGUCHI Masayuki)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
※本稿は2016年7月発売の「ルノー・トゥインゴのすべて」に掲載されたものを転載したものです。車両の仕様や道路の状況など、現在とは異なっている場合がありますのでご了承ください。
人生を楽しむためのクルマ──それがトゥインゴの役割
続いてアッカー氏は、具体的な車種をサイクルに当てはめて説明していったのだが、印象的だったのは、最初は恋に落ちるからルーテシアと紹介し、これがアイコン的存在と口にしたことだ。恋をすることが、相手が人であってもクルマであっても人生の基本と考えているようなメッセージ。実にフランスらしい。
続いてパートナーと一緒に世界を冒険するのがキャプチャー、家族を持つのがセニック、家族を養うために仕事をするのがカングーなどとなり、次の「遊ぶ」にトゥインゴが該当する。仕事をしているだけじゃ人生はつまらない。だから遊ぶ。その役割をトゥインゴが果たすことになるという。よって見た瞬間に笑顔になれるクルマ、生き生きするクルマを目指したそうだ。フランス語で表せば、エスプリ・ド・ヴィーヴルとなる。
説明を聞きながら、日本人との人生観の違いを痛感した。僕たち日本人の平均的サイクル・オブ・ライフからいくと、子供の頃に遊び、思春期に恋をして、旅もしたりするけれど、大人になり家族は持ってからは基本は働き詰めというパターンになりがちだからだ。しかもトゥインゴはAセグメントという、最も小さなカテゴリーである。ボディもエンジンも小さく、価格も安い。日本では短絡的に若者向けとなりがちだ。
アッカー氏によれば、サイクル・オブ・ライフは単純に年齢で区切っているわけではないという。遊ぶというライフステージを想定しているので、必ずしも若者だけをターゲットとしたわけではなく、40歳代でも20歳代のライフスタイルを求めているような、気持ちが若い人に向けた1台だという。いずれにせよ「恋に落ちる」ルーテシアとはターゲットが明確に違うことになる。
フランス人は遊ぶために働くと言われるぐらいだから、生活にゆとりが出てきたら、多くの人はそのゆとりを遊びに使うはず。クルマで遊ぶなら手頃なサイズでドライビングが楽しめるヤツがいい。そんな考え方でトゥインゴを選ぶ人、確かに多そうだ。昔も今も、パリはコンパクトカーをかっこよく乗りこなす大人が多いけれど、彼らは小さなクルマしか買えないのではなく、人生を楽しむためにこのサイズにこだわっているのだという思いに至った。
そういえばスタイリングの方向性も、ひとクラス上のルーテシアやキャプチャーとは違う。ノーズがスロープし、ヘッドランプは鋭角で、サイドシルやキャビン後半を絞り込ませて、かなりダイナミックなフォルムとしているルーテシアとは、ボディサイズ以上の差がある。実はこれも、ザ・サイクル・オブ・ライフと関係があった。
「トゥインゴには遊びっぽさが欲しかったのです。より具体的に言えば、反抗的なイメージです。家族の中で言うと、外国へしばらく行っていたりして、ちょっと変わったおじさんみたいな人です。遊びがないラインナップはつまらないと思います。反抗的なクルマを入れることで、ラインナップが生き生きすると考えたのです。車格的にも遊びを盛り込みやすいので、その点を強調しました」
少し吊り上がった丸型ヘッドランプを据えたフロントマスクも、反抗期を表現したものだった。しかしながら、リヤエンジンらしさはあまり感じないという印象も抱いた。この点についてはアッカー氏も同意していた。
「これがリヤエンジンだ、というデザインは目指しませんでした。ジャーナリストの方々はリヤエンジンに興味を持つ人が多いようですが。実際のお客様で、そういう方向を求めている人は少数だと考えています。それよりもリヤエンジンのメリットとして注目してほしいのは、ホイールを4隅に置けることです。コンパクトなボディでありながらホイールベースが長く、トレッドが広いので、室内を広くとることができます。ステアリングの切れ角も大きく取れます。こういうメリットを示すような造形を心掛けたつもりです」
確かに僕たち自動車メディアは、ルノーのリヤエンジンと聞いただけで歴代アルピーヌや8ゴルディーニなどを直感的に連想しがちだ。しかしゴルディーニではない8やその前のドーフィン、日本でもノックダウン生産された4CVは、量産セダンとして多くの人に愛用されたという側面もある。リヤエンジン経験が豊富なブランドだからこそ、冷静に見ることができるのかもしれない。
と言いつつ、新型トゥインゴのデザインはかつてのWRC(世界ラリー選手権)マシン、ミッドシップ・リヤドライブの5(サンク)ターボをモチーフにしたと、ルノーではアナウンスしている。一昨年にパリを訪れた際、シャンゼリゼにあるルノーのショールーム「アトリエ・ルノー」を覗いたときも、デビューしたての新型トゥインゴの傍に5ターボが展示され、デザインのモチーフになったことをアピールしていた。
私の指示を聞かない反抗期のデザイナーが勝手に……
実車を前にしても、ブリスター風の処理が施された前後フェンダーや、折れ目のないリヤゲートの左右にコンビネーションランプを配した後ろ姿など、5ターボを連想させるディテールがいくつかある。この点について訊いてみたところ、面白い答えが返ってきた。
「これは偶然の産物という一面もあるのです。新型は最初、初代トゥインゴが提案したモノスペース的なシルエットの復活を狙っていましたが、歩行者保護対策の観点から、難しいという結論になりました。小さくてもノーズがなければレギュレーションをクリアできないのです。どうしようか考えていたとき、あるデザイナーが反抗期だったみたいで(笑)、私の指示を聞かないで、5ターボのシルエットを勝手に組み合わせたのです。そうしたら、とてもしっくりきた。反抗期だったことが結果的には良かったのかもしれません」
ザ・サイクル・オブ・ライフでは、市販型をデビューさせる前にコンセプトカーを披露することを恒例としている。新型トゥインゴの場合は2013年に発表されたトゥインランが該当する。スタイリングはトゥインゴに近いが、フロントには補助灯、リヤにはウイングを装着し、エンジンは3.5ℓV6と、5ターボからルーテシアV6へと続いた流れの延長線上にある成り立ちだった。だから最初からこの線を狙っていたのかと思ったが、実はそうではなかった。だが、そんな偶然を現実に発展させるルノーもまた、遊び心溢れるブランドだと思った。
その一方で新型トゥインゴは、前述したようにAセグメントに属する車種であり、リヤエンジンだからと言って高価格にすることは難しい。コスト管理が厳しいことでは、ほかのコンパクトカーとまったく同じだ。
この点については、コストを考えることも日々の仕事で重要なことであり、技術や生産などの現場と話し合いながらデザインを煮詰めていったと語っていた。問題解決のために重要なことは、自分が何をしたいかをしっかり相手に伝えることであり、コストを抑えるべくデザイナーが知恵を出し、それを盛り込んでいくことで、頭の良いクルマに成長していくことも魅力につながると話していた。最後の言葉は国産車のデザイナーからはあまり聞かれない。ルノーのコンパクトカーがなぜ大人の趣味に足る存在になり得るのか、分かったような気がした。
ところで新型トゥインゴは、ダイムラー・グループのスマートと共同開発により生まれたことはよく知られている。しかしアッカー氏によれば、デザインは最初から分けていたそうだ。お互いに強いデザインを求めることが理由で、ダイムラーのデザインディレクターと定期的に会って、お互いの造形が違うことを確認していたらしい。その結果、これなら世の中に出しても違ったクルマに見えるということが確認できた段階で、生産化に向けた検討を進めていったという。
新型トゥインゴはボディカラーも凝っている。東京モーターショーのプレスデーでは6つのカラーが一堂に会していたが、それ以外にも見どころはある。
「カワイイ(フランス語でも形容詞として通じる)、スポーティ、ビンテージ、モダンなど、さまざまなニーズに対応し、できるだけ多くのお客様を喜ばせたいと思ったので、ストライプでキャラクターを表現しました。イエローのボディには5ターボを思わせるスポーティなストライプを入れ、レッドやブルーは細いラインでシックに装ってみました。ボディカラーとストライプをセットで提じられる。「ドアを開いた瞬間に『ワォ!』と声を上げたくなるような演出が欲しかったのです。ここでもデザイナーが、パーツの色を変えたり、インサートを入れたり、いろいろなアイデアを出してくれました。インパネの色使いはサーキットのイメージです。ここでも色で遊ぶことができるのです。機動性が抜群で、ドライビングプレジャーが得られるクルマに仕立てたかったという思いもあります。そのためメーターはセンターから運転席の前に移し、コンパクトにまとめました」
ご存知の方もいると思うが、アッカー氏はルノーに来る前、マツダのチーフデザイナーを務めており、日本に滞在していた。ルノーに来てからも、頻繁に我が国の地を踏んでおり、日本のモーターシーンはある程度把握している。そこで最後に、我が国のユーザーに向けてメッセージをいただくことにした。
「日本ではこのクラスに数多くの競合車がありますが、その中でトゥインゴならではのエスプリを理解していただき、反抗的なイメージを買ってもらいたいと思っています。カワイイも、スポーティも、クラシックも、自分のイメージに合わせて楽しんでもらえると思っています」
かつて僕が乗っていた初代トゥインゴと比べると、顔つきもシルエットもドアの数もエンジンの位置も、なにからなにまで一新して別のクルマになってしまったような新型だったが、アッカー氏の話を伺っているうちに、目指しているところは同じなのではないかと思えてきた。デザインのあちこちから「遊び」を感じさせるところがそっくりだったのだ。