スバルと言えばAWD、AWDと言えばスバル───すでにそんなイメージが広く浸透しているとはいえ、東京に住んでいると、なかなかその恩恵を肌で感じる機会は少ない。今回、日本で2番目の積雪量を記録したという山形県の肘折地区とその周辺にて、極限の環境下におけるスバルの底力を体感したのである。
TEXT●小泉建治(KOIZUMI Kenji)
PHOTO●平野 陽(HIRANO Akio)
積雪量445cmの豪雪地帯へ
2018年、スバルのグローバルにおけるAWDの販売比率は98.0%だったという。残りの2%はほぼBRZと考えて間違いないから、スバルは完全にAWDのメーカーであると世界中のカスタマーから認識されていることになる。
YouTubeなどを覗けば、世界中のスバルオーナーたちが愛車のすごさを自慢する動画に溢れている。あれはちょっと古いフォレスターだったかと思うが、雪でスタックしたシボレー・カプリスだかフォード・クラウンビクトリアのパトカーを引っ張り上げるアメリカの動画があって、コメント欄には称賛の声が溢れていたのを覚えている。
そんなスバルの雪道性能を量るには、相応の極寒地に行く必要がある。というわけで、今回スバルが雪上試乗会の舞台として設定したのは、2000年代に入ってから二番目の積雪量を記録したという山形県の肘折とその周辺地域である。
二番目ってのが微妙だって? 一位は青森県の酸ヶ湯で、実は昨年、同じスバルの雪上試乗会で訪れているのだ。だから次は二番目というわけだ。ちなみに酸ヶ湯は2013年に積雪量566cmを、肘折は18年に445cmを記録している。
山形駅からほど近いホテルの駐車場で、クリスタルホワイトのフォレスターX-BREAKに乗り込む。水平対向4気筒2.5Lを搭載するモデルの最上位グレードにあたる。
山形の市街地を通り抜け、まだ建設中で途切れ途切れの東北中央自動車道を10kmほど走り、続いて国道13号線を北上して最初の目的地である銀山温泉を目指す。
スバルのラインナップのなかでは最もSUVらしさの強いフォレスターだが、それでも運転感覚にとくに背の高さやボディの大きさを気にさせる部分はなく、Dセグメントあたりのサルーンと変わらぬ感覚で運転できる。雪国に住む人だって、大部分は市街地に住んでいるのだから、こうして「フツーに運転できる」ことの重要性は高い。
銀山温泉では撮影するのみで、滞在時間はおよそ10分ほど。すぐさま国道13号まで戻り、舟形町、大蔵村を経て、大きく北側にぐるっと回る形で肘折温泉に向かう。
大蔵村から国道458号線を南下し始めると、さすが日本屈指の豪雪地帯らしく、一面真っ白の景色になっていく。路面はもちろん完全なスノーコンディションだが、ほどよく踏み固められていて、むしろグリップを感じるほどだ。ときおり柔らかな雪の感触の奥に硬いアイスバーンの存在を感じる瞬間があって、当然ながら最新の注意を払う必要があるが、とはいえ実際にヒヤリとさせられる場面はなかった。
もちろんそれは試乗車が履いていたブリザックVRX2の恩恵も大きいが、そうした雪道ならではの独特のグリップ感や、アイスバーンならではの感触をしっかりドライバーに伝えてくるフォレスターのシャシー性能がもらたす安心感のおかげとも言える。
同じ雪道性能を有していたとしても、「なんだかよくわからないけれど、とりあえず大丈夫そうだ」と「なにがどうなっているかわかるから、ここまでは大丈夫だ」では、ドライバーが抱く安心感がまるで違う。フォレスターは後者である。
ユーザーフレンドリーなヘビーデューティーさ
そしていよいよ肘折温泉に到着する。温泉街にアプローチする道路は除雪されているものの、路面にはしっかり雪が積もり、そしてこの瞬間も降り続けていた。道路の左右の雪壁は高いところで4mはありそうで、聞きしに勝る豪雪っぷりである。
「上の湯」という公衆浴場でササッと湯に浸かり、山形名物の板蕎麦をいただいた後、今度はセピアブロンズのAdvanceに乗り換える。水平対向4気筒2.0Lに電気モーターを組み合わせたハイブリッド(スバルではe-BOXERと呼ぶ)である。
肘折温泉を後にして、今度は出羽三山神社を目指す。いったん北上し、国道47号線を最上川沿いに西へ向かい、県道45号線を再び南下する。
出羽三山神社の一帯は新雪に覆われ、まさにフォレスターのクロカン性能を示すうってつけコンディションである。駐車場から徒歩で拝殿に向かい、参拝した後に再びフォレスターに乗り込み、隣接するスキー場の周辺に足を踏み入れる。
新雪の中、中途半端な速度で前進後退旋回を繰り返す筆者の姿は、性能を試す自動車専門メディアと言うより、生まれて初めて雪を見た子犬が、最初は不安だったのにだんだん興奮が勝ってはしゃぎ回るサマに似ていたかもしれない。
午前中に乗ったX-BREAKと比べて、雪道性能に大きな差は見られないものの、ひとつ挙げるとすれば電気モーターがもたらす絶妙なレスポンスだろう。
悪路からの脱出を主たる目的とした低速域専用の「X-mode」は全グレードに標準装備されているが、e-BOXERのそれは、電気モーターならではの応答性の良さと制御で、よりアクセルワークに忠実なトルク供給を可能としている。
滑りやすい路面で段差を乗り越えたり、深い雪の中から脱出するときなどにアドバンテージがあるのは確かだ。また、e-BOXERは回生ブレーキ時に制動力の前後配分を最適化させることで、アンダーステアを軽減させる制御も行っているという。
出羽三山神社を後にし、ゴールである庄内空港に向かう。せっかく山形県に来たのだからと、推奨ルートを外れて日本海まで行ってみることにした。太平洋側で生まれ育った人間にとって、日本海の情緒には抗しがたい魅力がある。
海岸に抜けられる場所を見つけたので、躊躇なく砂浜に出た。砂浜には雪は積もりにくいといわれるが、さすが真冬の日本海、砂の上にうっすらと雪が乗っている。砂と雪のハイブリッドという、「悪路」としては最高のスペックを誇る路面を、フォレスターはこともなげに突き進む。
しかしここで筆者の助けとなったのは、必ずしもその卓越した悪路走破性だけではない。普段、こうした未舗装路や雪道を走る機会の少ないドライバーにとっては、絶対的なパフォーマンスの高さそのものではなく、そのパフォーマンスを「どれだけ簡単に引き出せるか」が重要になってくる。
冒頭に記したように、フォレスターをはじめとしたスバルのAWDは、サルーンやハッチバックのような感覚で運転することができる。おかげで雪道や砂浜といったタフな状況でも、ドライバーに無用な緊張感を与えないのだ。
本格クロカンAWDやSUVは世に数多あるが、当然ながら「らしさ」を過剰に押し出したモデルが少なくない。そのほうが商品力を訴えやすいからだ。そんな本格クロカンのアイコンとしての魅力にも大いに惹かれるものがあるが、スバルは違う道を実直に歩んできた。
今、スバルの魅力はと問われれば、「ユーザーフレンドリーなヘビーデューティーさ」とでも答えればいいだろうか。逞しく、頼もしく、卓越したパフォーマンスを備えてはいるが、あくまでそれはドライバーに寄り添ったものなのである。
スバル・フォレスター X-BREAK
全長×全幅×全高:4625×1815×1730mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1530kg エンジン形式:水平対向4気筒DOHC 総排気量:2498cc ボア×ストローク:94.0×90.0mm 圧縮比:12.0 最高出力:136kW(184ps)/5800rpm 最大トルク:239Nm/4400rpm トランスミッション:CVT フロントサスペンション:ストラット リヤサスペンション:ダブルウィッシュボーン タイヤサイズ:255/60R17 WLTCモード燃費:13.2km/L 車両価格:291万6000円
スバル・フォレスター ADVANCE
全長×全幅×全高:4625×1815×1715mm ホイールベース:2670mm 車両重量:1640kg エンジン形式:水平対向4気筒DOHC 総排気量:1995cc ボア×ストローク:84.0×90.0mm 圧縮比:12.5 最高出力:107kW(145ps)/6000rpm 最大トルク:188Nm/4000rpm モーター最高出力:10kW(13.6ps) モーター最大トルク:65Nm トランスミッション:CVT フロントサスペンション:ストラット リヤサスペンション:ダブルウィッシュボーン タイヤサイズ:255/55R18 WLTCモード燃費:14.0km/L 車両価格:309万9600円