マツダでミラーサイクル・エンジン開発を主導したエンジン博士の畑村耕一博士(エンジンコンサルタント、畑村エンジン開発事務所主宰)が、2019年のスタートにあたり、「2018年パワートレーン重大ニュース」を寄稿してくださった。昨年年頭にも、「2017年のパワートレーン重大ニュース」を掲載したが、再びパワートレーンの現在と未来について、プロの見方を聞いてみよう。5回シリーズの第2回をお届けする。テーマは、「クルマの走りの理想と回転機械の限界」である。
TEXT◎畑村耕一(HATAMURA Koichi)
「エンジンはなくならない」が「エンジンはないほうがいい」エンジン博士 畑村耕一「2019年パワートレーン開発への提言」①
クルマの走りの理想と回転機械の限界
ここではクルマの「走り」について、思い込みを捨て原点に戻って考えてみたい。
クルマの駆動力は速度ゼロから大きな駆動力を発生して、高速までその駆動力を維持するのが理想である。タイヤの駆動トルクは回転機械(エンジン/モーター)のトルクに減速比をかけた値になるが、タイヤの摩擦力が充分高いとすれば、回転機械内部や減速機構の機械的強度で最大駆動力は制限される。回転機械のエネルギー源(燃料/電力)にエネルギー効率をかけたものが出力として取り出せるが、残りのエネルギーは熱となって放出される。この熱によって回転機械の温度が上昇して温度限界(例えばエンジンの排気温度/モーターの巻線温度)に達すると、回転機械の出力限界になる。低速から最大駆動力を維持して、速度が増加すると駆動出力(=駆動力×速度)が増加してこの限界に達した点が最大出力となって、それ以上の速度ではトルクが低下する一定出力の駆動力カーブになる。
電動モーター駆動はこのような理想のトルク特性を持つが、エンジンの場合、回転数ゼロでは運転不能で、1000rpmを過ぎてやっと小さいトルクが出て、中速回転で最大トルクになり、高回転で低下していく。そのため、トランスミッションを使って理想の駆動力カーブに無理やり近づけようとしているが、ATでは変速が必要なので、シフトショックとエンジン回転数が段付きで変化することによる応答遅れが避けられない。CVTの場合は無段変速だが、エンジン回転数変化にともなう応答遅れ、よく言う”ラバーバンドフィール”が避けられない。