ただでさえハイパフォーマンスなMモデル。そこにコンペティションの名が与えられると、その獰猛さは一層激しくなる。410psとなったM2と、25psアップした625psを得たM5。コンペティションの実力を清水和夫がスペインのアスカリ・サーキットで試す。
REPORT◎清水和夫(SHIMIZU Kazuo)
BMWの走りの象徴であるMは多様化している。現在Mファミリーは4つのカテゴリーに分類される。まずベーシックなのが「Mパフォーマンス」と呼ばれるモデルで、パワーはMとしては低いが、それでもMの理念は十分に生きている。その上に位置するのがいわゆるMモデルと呼ばれるクラスだ。
このセグメントになると一部例外を除いて、生粋のM専用エンジンを搭載することになる。さらにその上にはMをチューンナップした「Mコンペティション」がセグメントされる。そして、もっとホットなMが欲しいユーザーのために、究極の軽量化とパワーアップを実現したのが「M CS」だ。今回新たにその「Mコンペティション」にM2とM5が加わることになった。まずM2コンペティションから見てみよう。
従来のM2は生粋のMエンジンであるS型ではなく、M235iクーペと同じN型3.0ℓ直列6気筒ターボを搭載していた。このあたりの事情はライバルのポルシェ・ケイマンのプライシングを意識したものであろう。N型はピストンなどの一部パーツにM3/M4のモノを流用していたがターボシステムは異なり、ツインスクロールのシングルターボを採用。それでも出力は370ps、465Nmを絞り出すので、これで十分だという声もあった。
しかしM2コンペティションはM3/M4と同じS型エンジンを搭載するのだ。ツインターボで武装し、出力はM3/M4の431psよりやや低い410ps、550Nmだが、1.6tそこそこのボディには強烈。0→100km/h加速はM2に比べて0.1秒速い4.2秒で駆け抜ける(DCT)。コンパクトなFRスポーツに550Nmの大トルクを与えるにあたって、M2コンペティションは電子制御のアクティブLSDを装備。十分なトラクション性能とパワードリフトしやすい操縦性を実現したという。
刺激的なカーチェイス
M2コンペティションの車両重量は約1.6tで、最近では軽量の部類に入るだろう。身のこなしは軽やかで、またM3/M4よりも全長が約200mm、ホイールベースは約100mmも短いので、慣性モーメントも明らかに有利。よくBMWを語る時に前後重量配分が話題となるが、実際は動的な重量バランス、つまり慣性モーメントが走りの決め手となる。ドライバーとエンジンの位置関係はM3/M4とほぼ同じだと思うが、リヤのオーバーハングが短いので、限界領域はM2コンペティションのほうが扱いやすいはずだ。
6速MTを駆使してインストラクターとカーチェイスを繰り広げる。敵はDCTなので、コーナーの立ち上がりのシフトアップで離される。慌ててシフトミスしないよう慎重に操作するが、左右のストロークが狭くて、2速→3速の時に5速にシフトミスしやすい。このMTに関してはポルシェのほうが扱いやすい。
こんなに違うM5の性格
さて、次はM5コンペティションだ。こちらのエンジンはM5と同じ4.4ℓV8ターボだが、さらにチューンナップを施して+25psの625psを得ている。最大トルクはなんと750Nmだ。このV8はBMWの独自技術によって開発されたホットインサイドVで、2つのツインスクロールターボをバンク内に配置している。
M5ファミリーは電子制御のAWDを採用しているのも特徴だ。750Nmの大トルクを考えると合理性があると思う。トルコンATと言ってもシフトタイミングは電光石火の如く素早い。ギヤがエンゲージされた時のダイレクト感はマイルドなので、スムーズで快適なハイスピードドライブが楽しめた。
車高はM5より7mm下げられ、10%ハードにセットされたバネと可変ダンパーが組み合わせられることにより、ロードカーとしてはやや硬めの乗り心地という印象だ。
SPECIFICATIONS
BMW M2コンペティション
■ボディスペック 全長×全幅×全高:4461×1854×1410mm ホイールベース:2693mm 車両重量:1625kg ■パワートレイン エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ 総排気量:2979cc 302kW(410ps)/5250〜7000rpm 最大トルク 550Nm(56.1kgm)/2350〜5200rpm ■トランスミッション タイプ:7速DCT ■シャシー 駆動方式:RWD サスペンション:Fストラット R 5リンク ■ブレーキ ベンチレーテッドディスク ■タイヤ&ホイール F 245/35ZR19 R 265/35ZR19
BMW M5コンペティション
■ボディスペック 全長×全幅×全高:4966×1903×1469mm ホイールベース:2982mm 車両重量:1940kg ■パワートレイン エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ 総排気量:4395cc 最高出力460kW(625ps)/6000rpm
最大トルク 750Nm(76.5kgm)/1800〜5800rpm ■トランスミッション タイプ:8速AT ■シャシー 駆動方式:RWD サスペンション:Fダブルウイッシュボーン Rサスペンション ■ブレーキ ベンチレーテッドディスク ■タイヤ&ホイール F 275/35ZR20 R 285/35ZR20