撮影を伴うオービスによるスピード取り締まりは、「事前予告」と「非反則行為(赤切符)」がその必要条件であり、同じような取り締まり方法であるといえる可搬式移動オービスによる取り締まりでも、当然、それが適用されるはず。ところが、「だから、事前の警告のない取り締まりは無効であり、さらに写真を証拠とした青切符での検挙もありえない」というドライバーの憶測が今、次々と覆されている。一体、どういうことなのだろうか!
☆最高裁の判例(昭和61年2月4日)
「速度違反車両の自動撮影を行う自動速度監視装置(オービス)による運転者の容ぼうの写真撮影は、現に犯罪が行われている場合になされ、犯罪の性質、態様からいつて緊急に証拠保全をする必要性があり、その方法も一般的に許容される限度を超えない相当なものであるから、憲法13条に違反せず、また、右写真撮影の際、運転者の近くにいるため除外できない状況にある同乗者の容ぼうを撮影することになっても、憲法13条、21条に違反しない。
ちなみに憲法13条は肖像権、プライバシー権、21条は集会、結社、表現の自由を謳ったもの。ポイントは、
1.現に犯罪が行われている場合
2.緊急に証拠保全をする必要性がある場合
ということ。1が、オービスによる検挙(撮影)が、非反則行為に限られるという根拠になっている。
ただし、これはあくまでも判例であり、法律ではない。もちろん、最高裁の判例は法律と同等の効力を持つと言われてはいるが、極端に言えば、当該裁判に限って下された、個別の判断であると無理矢理とることもできないわけじゃない。
最近の警察の動向の真意はわからないが、もしかして、反則行為だって違反者が「交通反則通告制度」に従わなければ刑事事件として非反則行為(赤切符)となるのだから、別に写真撮ったってかまわないじゃん、と開き直りに出たのだろうか。それとも、あくまでも「警察官の現認」を盾に押し通すつもりなのか、いずれは明らかになるかも知れないが、現時点では真相は不明だ。
次は、「事前警告」に関して、昭和55年に東京簡易裁判所がくだした判断だ。
「スピード違反者の顔」の撮影の可否についての判例
☆東京簡易裁判所(昭和55年1月14日)
ちなみに、本件オービス3の前方三〇〇米の地点に設置されている警告板について検討すると、警告板(「自動速度取締機設置路線」と表示)は、運転者に対して制限速度を遵守せよという交通指導の意味と自動速度取締機で取締りを実施中である旨の運転者への予告の意味とを有するものと考えられるが、右警告板は政令に定めるところにより都道府県公安委員会が設置する道路標識等と異なり、捜査機関の運転者に対する警告にとどまるものであるから、本件オービスⅢを使用して速度違反車両を捕捉するためには必ずしも必要不可欠なものではなく、運転者から警告板の文字等が視認できるか否かは制限速度違反罪の成否を左右するものではないことが明らかである。
しかしながらオービスⅢによる速度違反取締りが主として自動車運転者の速度違反の抑止効果を最大の目的とするものであるとせられている以上、弁護人らの主張いわゆる囮捜査類似のものであるとの非難を回避するためにも、走行中の運転者から一目瞭然たるものにすることが捜査機関に果せられた責務であると言わざるを得ない。
要約すると、「事前警告板は、取り締まり行為自体には必要不可欠なものではないが、取り締まりの目的は、ドライバーの速度違反を抑止するためのものである以上、事前予告は、捜査を行う警察に課せられた責務であると言わざるを得ない」ということ。つまり、取り締まりに際して、「必ず事前予告をしなさいと」言っているわけではないのだ。
だからといって、今後、「事前予告」無しの取り締まりを横行させることは、警察自らが「危険な違反と事故を未然に防ぎ、交通の円滑化を図る」という交通取り締まりの本来の目的を、反故にするということに他ならない。数年前から始まった交通取り締まりの全面的な見直しが、あらぬ方向へ走り始めることのないように、祈るばかりだ。