9月に入り、いつの間にか空が高くなりました。秋は空気が澄んで透明感が増し、夜空が美しくなる季節です。13日は中秋の名月ですね。古来、日本では「春は花、秋は月」を愛で、鑑賞してきました。
月とともに楽しみたいのが、秋の星座です。秋の夜空に輝く星々には、神々と人間の壮大な物語が描かれています。秋の夜長、夜空を見上げてギリシャ神話の世界に想いを馳せてみませんか。
星座の起源、星座の数をご存知ですか?
現在の星座の起源は、紀元前4000年以上前にメソポタミア文明を築いたシュメール人に由来すると考えられています。現在のイラクにあたる地方で暮らし、数学や天文学を駆使して星の動きで時間や季節を知る技術をもっていました。やがて、星々をつないで、身近な動物たちや神の姿、英雄の姿を形づくるようになります。これが現在の星座のはじまりといわれています。シュメール人の生活の脅威となる生き物、ライオン、さそり、牡牛などからうまれた星座は、最も古い歴史ある星座となりました。
シュメール人の星座は、バビロニア人、アッシリア人らに受け継がれ、占星術として発展し整備されていきます。やがて、古代ギリシャ世界でメソポタミア地方、エジプト、ギリシャの星座が統合し、星座とギリシャ神話が結び付けられるようになったのです。この時代に、現在私たちが知る星座のうち48個が成立しました。
15世紀以降の大航海時代になると、南半球の空の様子も観測されるようになり、新たな星座が一気に増えて星空は混乱してしまいます。それを整備したのが、世界の天文学者によって構成される国際天文学連合(IAU)です。1928年、夜空にあふれていた星座は88個に制定されました。これらの星座が、私たちが見上げる夜空を彩っているのです。
アンドロメダ座は、鎖でつながれた姫の姿
秋の夜空に輝く星座は、ひとつの壮大なストーリーで結ばれています。
物語の舞台は、古代ギリシャ時代のエチオピア。国王ケフェウス(ケフェウス座)には、美しい妻カシオペア(カシオペア座)とひとり娘のアンドロメダ姫(アンドロメダ座)がいました。王妃は娘をとても可愛がり、自慢もしていました。ある日カシオペアはつい口を滑らし、娘は海の妖精よりも美しいと言ってしまいます。それを知った海の妖精たちは、海の神ポセイドンの妃アンピトリテに報告します。アンピトリテはもともと海の精でしたから、悔しさで涙ながらにポセイドンに訴えます。思い上がった人間たちを懲らしめるために送り込まれたのが、化け鯨ティアマト(くじら座)でした。神々は怒り、アンドロメダ姫をティアマトのいけにえに差し出すように要求したのです。
その頃、大神ゼウスの息子ペルセウス(ペルセウス座)は魔女メドューサを退治し、メドューサの血から生まれた天馬ペガサス(ペガスス座)に乗って故郷に帰る途中でした。ペルセウスは、アンドロメダ姫に襲いかかろうとするティアマトを切りつけ、顔を見たものは石になるというメドューサの首を化け鯨に突きつけます。化け鯨は石になり海底の底深く沈んでいきました。勇者ペルセウスはアンドロメダ姫と結婚し、やがてエチオピアの王となりました。
秋の星座の案内人「秋の大四辺形」を探してみましょう
この物語に登場するアンドロメダ座とペガスス座の星を4点で結ぶと、「秋の大四辺形」になります。四辺形はペガスス座の胴体、左上に輝く星アルフェラッツがアンドロメダ座の頭部にあたります。
この大四辺形は、秋の夜空のシンボル。大四辺形のなかにはあまり星がなく、一等星がないにも関わらず見つけやすいのが特徴です。アンドロメダ座の足元にはペルセウス座、ふたつの星座の間、上方にカシオペア座が輝いています。
頭上に広がる、はるか遠く想像もできないほどの広大さと時間の流れ。138億年前に一粒の強烈な光から誕生したとされる宇宙が身近に感じられるのは、シュメールの人々が見出した星座のおかげかもしれません。この秋、二度と同じ星空に出会うことはない、一期一会の瞬間を楽しみましょう。
参考文献
沼澤茂美・脇屋奈々代『星空ウォッチング』新星出版社