
<猛虎リポート>
日刊スポーツの阪神担当が独自の視線で現場報告を行う「猛虎リポート」。40試合連続無失点のプロ野球記録を樹立した石井大智投手(28)を取り巻くブルペンの雰囲気はどんなものだったのか。ブルペンリーダー岩崎優投手(34)が「おめでとう」をこれまで封印していた理由も明かした。
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記憶が鮮明なうちに「リポート」しておきたい。8月17日の東京ドーム。記者席は三塁側・阪神ベンチの上部にある。ドーム内を見渡しながら身構えた。
「ピッチャー石井」のアナウンスに、左翼側の阪神ファンが大拍手を送る。石井は引き締まった表情でマウンドに向かい、投球練習を始めた。3つのアウトを奪い、軽い足どりでベンチに戻った。仲間はいつもより少し前に出て記録達成を祝福した。ベンチの奥に腰を沈めた石井に、何人かの選手・スタッフが近寄る。笑顔で返したが、その表情から特段のたかぶりや達成感は感じなかった-。
いつものように出てきて、いつものように仕事をこなす「日常」に見えた。では、仲間たちはどうか。記録がかかっていたこの何日間か、ブルペンの雰囲気はどうだったのか。投手リーダーの岩崎に聞いた。
「何も変わらないですよ。あえて、何かをする必要もないでしょ。普通に毎日やっているだけです。雰囲気も全く(いよいよとは)なっていないですね。本当に。何もないのが当たり前すぎて。ブルペンにいるメンバーはただ、普通に送り出しているだけです。『力水』もいつも通りです。それは打たれたあとも、抑え続けていても同じです。藤川監督が『日々、丁寧にやっているから』とおっしゃっていましたが、その通りだと思います。記録は本人の能力ですよ」
そういう答えが返ってくる気がしていた。他の選手にも聞いた。記録に関する会話を本人としている人はいないのでは、とのことだった。リーグ記録、プロ野球記録の数字は誰もが知っていたが、はしゃぐことも、あおることもない。何か干渉をした気配がない。普通を演出したわけではなく、これが阪神ブルペンの「普通」なのだろう。
ただ、岩崎は新記録樹立の日、個人的にあることを解禁した。これまでリーグタイ、リーグ新、プロ野球タイとさまざまな節目があったが「おめでとう」を言ってこなかった。新記録達成の前に理由を語った。
「個人的にはタイってあんまり好きじゃないんですよね。だから次ですね。今までは触れていなかったけど、次、抑えた時にはね。新記録はおめでたいので、考えていますよ」
そう言っていた通り、試合後、ベンチ裏で「おめでとう」と石井に初めて伝えたことを明かした。特別なのはこの一瞬だけ。また次の試合から「普通」の毎日が始まるのだと思わせた。【柏原誠】