
<阪神6-2ヤクルト>◇9日◇京セラドーム大阪
虎戦士がまた歴史の扉を開いた。9回にマウンドに上がった阪神石井大智投手(28)が無失点で試合を締め、藤川球児監督(45)に並ぶセ・リーグ記録の38試合連続無失点を達成した。6月には頭部に打球が直撃するショッキングな離脱もあったが、苦難を乗り越えて偉大な記録にたどり着いた。チームは連敗を「2」でストップ。優勝マジックは1つ減って「30」。カウントダウンを再開させた。
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最後の1球がミットに収まっても、石井の表情は変わらなかった。「平常心でいきました」。1回3者凡退で達成した38試合連続無失点。普段通り、淡々と打ち立てた金字塔だ。
「自分なんかがというところもありますけど。次も変わらず、自分の仕事をできるように」
4点リードの9回に登板。あっさりと打者2人で2死を奪い、最後は代打宮本を見逃し三振に仕留めた。今季は6月に頭部打球直撃で一時離脱したが、復帰後も無失点を継続。ついに藤川監督の持つセ・リーグ記録に並んだ。同じ四国IL高知出身の大先輩。入団前から「藤川投手に並べるように」と語っていた憧れの存在に肩を並べた。
約7年前、今の姿を誰が想像できただろう。技術者としての専門的知識を養成する秋田高専出身。高専卒では初のプロ野球選手だ。東日本大震災の影響などから、当初は建築士志望。今とは180度違う希望進路に「180度なのか540度なのか分からないですけど」と笑って振り返る。
「なんでそんなところに」、「絶対無理だ」、「なれるわけない」-。
成績優秀で就職という選択肢もあった中で選んだのは独立リーグからの挑戦。当初、周囲からの否定的な声もゼロではなく、気にしていた時期もあった。ある意味、学生時代に積み上げてきたものを捨てて選んだ野球人生。それでも貫いた信念を振り返り、今では胸を張る。「大学に行くこと、いい企業に勤めることが正解じゃない。人生は自分で作っていかなきゃ後悔するでしょ。死ぬ時に『あれやっとけばよかった』と思うのはめちゃくちゃもったいない」。
20年ドラフトの支配下では、最下位の74番目で飛び込んだプロの世界。当時の決断には誇りを持つのは、花開いたからではない。
「仮にプロ野球選手になっていなかったとしても、この時間は自分の中でめちゃくちゃ貴重だったと思うし、誇れると思う」
自分だけの人生を突き進み、到達した大記録。自身の記録を塗り替えられた藤川監督も「本当に誇らしいですね。もうその一言です」とたたえた。チームの優勝マジックも30に減少。石井は力強く今後を見据えた。「これからも監督の力になれるように」。選んだ野球人生は、まだまだ続く。【波部俊之介】