
全日本大学野球選手権◇14日◇準決勝◇神宮
鮮やかな22歳の幕開けだった。東北福祉大(仙台6大学)が、史上初の3連覇に挑んだ青学大(東都)に逆転勝ち。王者を下し、7年ぶりの優勝に王手をかけた。3点を追う5回に同点に追いつくと、なおも1死一、二塁の好機で、代打の冨田隼吾内野手(4年=花咲徳栄)が左中間を破る決勝の2点適時二塁打。応援席から送られたバースデーソングが響き渡る中で、チームを決勝へと導く一打を放った。
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おじいちゃん、俺やったよ-。冨田は外寄り甘めの直球を見逃さなかった。ライナー性の鋭い打球は、ジャンプした左翼手のグラブの上を越えた。「誕生日ということもありましたし、チームに流れを呼ぶためにも、とにかく越えてくれと思っていたので、安心して気持ちが爆発しました」。歓喜に沸くベンチに向かって、高々と両手を突き上げて応えた。
大学2年時に、社会人野球でもプレーした祖父が他界した。野球の楽しさを教えてくれた1人だった。大学での初本塁打のボールも迷わず祖父へ。生前大事にしていたボールだったが、副葬品として納められず冨田が持ち帰った。今ではお守り代わり。「頑張ってくるね」と、毎日手を合わせて寮を出る。この日も試合前に「見ていてね」と話しかけ、王者に挑んだ。
2年秋に初のベンチ入りも、3年は出場なし。同期や後輩が活躍する中で、Bチームで複雑な思いを抱えてくすぶっていた。「期待されている中で思うような結果が出なかったので、『もう野球はいいかな』と思った時期もありました」と当時の心境を吐露。それでも「最後までやり抜く」という祖父との約束が脳裏をよぎった。「この約束を思い出すと『やらないとな』という気持ちになりました」と踏ん張った。その結果、今春リーグ戦では4番の座をつかんだ。全国舞台でも主軸を担い、この日は勝負どころでの代打起用に応え、チームを勝利に導く一打を決めた。
日本一まであと1勝。「1戦1戦、勝つことに必死で気づいたら決勝にいました。あとは食らいつくだけです」。天国の祖父へ勝利を約束し、決戦の地へと向かう。【木村有優】