
<センバツ高校野球:横浜11-4智弁和歌山>◇30日◇決勝
“シン横浜”が春の甲子園を制した。横浜(神奈川)が智弁和歌山を11-4で破り、19年ぶり4度目のセンバツ優勝を果たした。主将の阿部葉太外野手(3年)が走って、打って、投げて大活躍。6回のピンチではワンポイントの継投策も光った。昨秋から公式戦無傷の20連勝で、明治神宮大会に続く秋春連覇。98年にエース松坂大輔氏を擁して以来の2冠達成となった。20年に就任した村田浩明監督(38)の下、高校球界をけん引してきた智弁和歌山との強豪対決を制した。
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チームが目指した「横浜1強時代」を、全国の舞台で証明した。主将の阿部はアルプススタンドへのあいさつを終え、村田監督とガッチリ握手。涙が頬を伝った。「やっとここまでこられた。監督さんを男にできた」。2年生だった昨年5月から主将を務める頼れる男が、走攻守でチームをけん引した。
内野安打で出塁した初回2死一塁。「サインが出た」と、ディレードスチールを決めて先制点の足掛かりを作った。村田監督は「アウトになってもいいから行かせた。先にうちが攻めた」と、先制パンチだ。中堅守備では、3-1の6回2死三塁で安打性の打球をダイビングキャッチ。打っては4長短打に3打点と躍動し「主将として引っ張れてうれしい」と胸を張った。
新チーム発足から村田監督とともに改革に取り組んだ。選手との対話を大事にした村田監督に「練習前に1分間スピーチをやらせてください」と進言した。「人前で話すことは将来に生きる」と阿部。今大会中も毎朝行い、決勝の朝はエース奥村頼が「『日日是好日(毎日が良い日となるよう努める)』絶対勝ちましょう!」と士気を高めた。
伝統を引き継ぎ、歴史をつくった。横浜と言えば、元部長の小倉清一郎氏(80)による対戦チームの詳細な分析と戦術を記した「小倉ノート」が有名だ。これを受け継ぎ、大会の前後には戦術を記した資料に、野球理念などが書かれた資料を加えた。選手たちは3年間で、それぞれ約10センチの厚さになる「村田ノート」を手にする。
詳細な資料は選手たちの心をつかんだ。野中蓮珠外野手(3年)は「(準決勝の)健大高崎戦では資料で見たプレーが多かった」。今村稀翠外野手(3年)は「野球理念の資料には『心と体が一致しないとベストコンディションでできない』と書かれていた」と試合に集中した。小野舜友内野手(2年)は「渡辺元監督と小倉元部長の教えをもとに、村田監督と高山部長の新しい色で染める、いい教科書」と信頼を寄せる。
チーム一丸で「負けないチーム」を1からつくり、明治神宮大会に続き2冠を達成。さぁ、次は夏。“シン横浜”の進撃は、まだまだ続く。【保坂淑子】
◆村田浩明(むらた・ひろあき)1986年(昭61)7月17日、神奈川県川崎市生まれ。横浜では1年春からベンチ入りし、正捕手として甲子園は03年春準優勝、04年は主将として夏8強に貢献。日体大卒業後、県内の霧が丘で野球部長、白山で野球部監督を経て、20年から母校の監督に就任。家族は夫人と1男。
◆1球奪三振 横浜の2番手片山が投球1球で奪三振を記録した。6回表1死三塁の場面、4番福元の打席でカウント2-2から先発織田を救援。空振り三振を奪って降板した。甲子園の決勝戦では登板1球だけでも珍しく、夏は84年にPL学園・清水哲が取手二戦で1球(結果は一ゴロ)だったが、春は初めて。決勝以外の1球奪三振は95年夏に帝京・本家が東海大山形戦で記録した例がある。
◆横浜 創立は1942年(昭17)。野球部創部は46年。男女共学。生徒数2603人(女子1385人)、野球部員48人。甲子園出場は今回で春17度目(夏は20度)。主なOBは松坂大輔、涌井秀章、筒香嘉智、近藤健介、万波中正ら。学校所在地は横浜市金沢区能見台通46の1。葛蔵造校長。
▽横浜・山脇(4番手で8回途中から1回2/3を1失点で胴上げ投手に)「焦りの気持ちがありましたが、最後に勝ててよかったです」
▽横浜を春夏5度の甲子園Vに導いた元監督の渡辺元智氏 村田監督は本当に短期間で成長したチームにした。先輩たちがやってきたものに加えて、自分の野球にも切り替えた。夏に向けて高みを目指していくのは監督としての宿命。選手を信頼して、どうやってまとめていくか。楽しみにしています。
横浜の主な記録
◆秋春連覇 神宮大会優勝校の翌年センバツVは84年岩倉、98年横浜、02年報徳学園、22年大阪桐蔭に次いで5度目。同じ学校が2度は初めて。
◆関東最多V センバツ4度目のVは東邦の5度に次ぐ2位タイ。関東勢では東海大相模の3度を上回る最多。春夏通算6度目のVは単独6位となり、これも東海大相模の5度を上回り関東で単独最多。
◆3元号V 昭和、平成、令和で甲子園優勝。3元号でVは松山商、東海大相模に次いで3校目。
◆関東勢3連覇 センバツは23年山梨学院、24年健大高崎に次いで関東勢がV。関東の3連覇は最長タイで71年日大三(東京)、72年日大桜丘(東京)、73年横浜以来、52年ぶり2度目。
◆優勝投手 最後に投げたのは山脇だが、今大会チーム最多の25回を投げた織田が優勝投手。横浜で2年生の優勝投手は春夏を通じ73年春の永川英植(元ヤクルト)以来2人目。センバツで2年生の優勝投手は新制高校以降11人目。
◆全試合継投V 全5試合で継投。55年浪華商、87年PL学園、94年智弁和歌山、24年健大高崎に次いで5校目。
◆阿部葉が大会10打点 センバツでは00年今森省吾、11年佐藤大貢(ともに東海大相模)が13打点を挙げているが、横浜の春では73年長崎誠、06年高浜卓也の各9打点を上回る最多。