
岩手県の若手男性職員が2020年4月に自殺したのは当時の上司から受けたパワーハラスメントが原因だった可能性が極めて高いとして、県は10日、遺族に約9700万円の損害賠償を支払う方針を明らかにした。県は遺族に謝罪し、再発防止を誓った。関連議案を20日に開会予定の県議会に提案する。
県の調査によると、当時50代で管理職だった男性上司は20年4月、職員を指導した際に「お前は勉強が足りないんじゃないか」と発言。報告を受けていた際に大声で「ちゃんと俺が言ったことが分かっているのか」「調べた数字なのか」と問いただしたという。亡くなる前の週には、他の職員もいる中で少なくとも30分間以上にわたって職員を立たせたまま叱責していたことが目撃された。
職員はやる気があり、仕事にまじめに取り組んでいたという。同僚には「なぜ自分にだけ強く当たるのか」と打ち明けていた。
職務に関する優越的な関係を背景に、業務による必要な範囲を超えて精神的苦痛を与え、人格や尊厳を害したとして、県は上司のパワハラを認定した。パワハラが自殺の原因になった可能性が極めて高いとみている。
県は21年3月に上司を停職4カ月の懲戒処分にした。上司は「指導の一環だった」という認識を示し、処分前の申立書に「上司として職員の心中を察してやれなかったことにじくじたる思いがある」と書いたという。現在、管理職から外れている。遺族の意向で懲戒処分の公表を、これまで控えていた。
男性職員の自殺は21年7月に公務災害と認定された。遺族は「息子の命の代償として、できる限りのことをしたい」と考え、県に対して24年10月に損害賠償を求め、交渉していた。県は今年4月、損害賠償をすることで遺族と和解した。
阿部博・県理事は「パワハラに対する上司の認識が薄かった。相談窓口はあったが、悩みを抱えた職員を窓口に導くことができなかった。重く受け止めている」と語った。
県は21年に調査結果を遺族に報告した際、謝罪した。再発防止策として、ハラスメントを防ぐ基本方針を策定▽部下による上司の評価にパワハラに関する項目を追加▽職員の健康を支える臨床心理士の配置など相談体制の強化▽管理職の研修充実――に乗り出している。【山田英之】
相談窓口
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「生きることに疲れた」などの思いを専門の相談員が受け止め、一緒に支援策を考えます。
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・いのちの電話
さまざまな困難に直面し、自殺を考えている人のための相談窓口です。研修を受けたボランティアが対応します。
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0120・783・556=フリーダイヤル。午後4時~同9時。毎月10日は午前8時~11日午前8時、IP電話は03-6634-7830(有料)まで。
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