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『Meta Quest Pro』レビュー:開放感とお手軽さが魅力のクリエイティブ用途向けVRデバイス


メタバース事業を推し進めるメタ社の新型VRデバイス『Meta Quest Pro(メタクエストプロ)』が発売された。

その名の通り、『Meta Quest』シリーズの新機種ではあるのだが、従来までの『Meta Quest』がお手頃価格なのに対し、『Meta Quest Pro』は22万6800円という価格。これは従来までの『Meta Quest』ラインナップだけでなく、HTC VIVEやPlay Station VRといったVRデバイスジャンル全体の中でも高価格だ。

そんな『Meta Quest Pro』をこの度筆者は自腹購入した。そこで、従来までのVRデバイスと一体どう違うのかレビューしたい。

クリエイティブ向けのハイエンドVRデバイス『Meta Quest Pro』

まず『Meta Quest Pro』が高価格な理由はエンターテインメント向けでなく、クリエイティブ用を意図したものだからだ。実際本作のリリースにあたり、Adobe社がVR空間内で3Dモデリングするためのソフト『Substance 3D Modeler』への対応を発表し既にリリースしている。

筆者が購入したのも、VR空間内での3Dモデリングに興味があったから。筆者は株式会社ワー(https://wuah.jp/)という会社を作り、インディーゲーム開発者をしている。一人で企画を立てゲームデザインを行い、グラフィックやBGMや効果音といった素材を作ってプログラミングまで行うDIYスタイルだ。

ゲームのグラフィック制作の際には、2Dイラストから3Dモデリングまで一通り行う。このため以前から『Photoshop』や『CLIP STUDIO PAINT』といった2Dグラフィックソフトや『Blender』や『3D Coat』といった3Dグラフィックソフトを愛用している。こうした都合上、VR内でのグラフィック制作にも以前から興味を持っており、『Meta Quest Pro』の発売はいい機会だったのだ。

『Meta Quest Pro』はVRグラフィックソフトに対応しているというだけでなく、スペック的にもクリエイティブ向けとなっている。解像度こそ片目1800×1920の液晶ディスプレイで『Meta Quest 2』と大きな差はないが、処理チップについてはSnapdragon XR2+を搭載。さらに、付属のTouch ProコントローラーにまでSnapdragon 662が搭載されており、コントローラーがどの場所にあるかというトラッキング精度が向上している。

加えて、開放型の構造も特徴だろう。一般的なVRデバイスは、目の部分をすっぽり包み込む形状のものが多い。これに対し『Meta Quest Pro』はヘッドバイザーのような形状になっており、隙間が存在している。

開放感から気楽に使える! クリエイティブ用途が前提なら魅力的なVRデバイス

ここからはそんな『Meta Quest Pro』を実際に使ってみてどうだったのか? はたして23万円近い価格に納得感があったのかについて書いていこう。

使用感について触れる前に、これまでの筆者のVR歴について紹介しておく。デバイスの使用感というのは、それまでにどんなデバイスを触れてきたかによって変わってくるからだ。

筆者のVRデバイス歴は2016年くらいからで、最初に触れたのは『ハコスコ』。いわゆる「スマホVR」というもので、ヘッドトラッキングはスマートフォンを使って行うタイプのVR。VRデバイスというよりスマートフォンを頭に固定するためのサポーター的な装置だ。

その後、WEBのVR系メディアでレビューを書くようになり、『Oculus Rift』や『HTC VIVE』に触れている。個人で保有しているのは『GEAR VR』と『PlayStation VR』。メタ社の前身であるOculusが作った『Oculus Rift』や『GEAR VR』といったVRデバイスには触れたことがあるが、『Meta Quest』に触れるのは今回がはじめてといった状況だ。

(画像は『GEAR VR』)

さて、デバイスの初期設定を終えた後、すぐにわかる『Meta Quest Pro』の特徴が、MR表現。MRとは「複合現実」を意味する言葉で、VR……すなわち仮想世界の情報を、現実世界の情報と重ねて表示するという表現のことだ。

『Meta Quest Pro』は本体に取り付けられたカメラによって現実世界の映像を撮り込み、UIと重ねて表示してくれる。『Meta Quest』にもこの機能はあったようだが、『Meta Quest Pro』はカラー。

ただ解像度は低く、ノイズ的なゆらぎも発生することもあって「現実世界にメニューが表示されているぞ!」という感覚は残念ながらない。あくまで「現実世界の映像に対して、メニューが合成されているな」とう印象だ。

ただ個人的には、「現実世界の映像にメニューが合成されている」というだけでも好印象を持った。というのも、現実世界から隔絶された感覚がないからだ。

先に書いた通り、一般的なVRデバイスは目の部分をすっぽり包み込む構造になっているため、いわば目隠しをされたような感覚がある。もちろん、そのおかげで仮想世界への強い没入感が得られるわけだが、その一方でVRデバイスのモニターが起動するまでの間、わずかではあるが不安を感じてしまう。本当にわずかではあるのだが、周囲の状況がわからないというのは筆者にとってやはりストレスだ。

だが『Meta Quest Pro』は、現実世界が見えるためこのストレスがない。個人的には無視できないメリットだ。

さて、今回真っ先に触れてみたアプリが『Gravity Sketch』。VR空間でグラフィックを作成するソフトだ。これまでPC向けのグラフィックソフトは使ってきたが、VR空間に絵を描くというのは初体験。

VR空間上に絵を描くわけなので、描いた線については3Dモデルということになる。このため、描いた後も自由に角度や位置を変更可能。

とはいえ最近は、2Dのグラフィックソフトもベクター形式で描けば描画後に線の変更が可能だ。ただ『Gravity Sketch』の場合、直接手で掴めるというのが直感的。もちろん、直接手で……と書いたが実際にはコントローラーを動かしボタンを押すことで掴む。

ただ、感覚は素手で掴んでいるのと変わらない。これはすごい。

筆者が3Dモデルを描く場合、最終的にゲームで使用するためローポリゴンのモデルを作ることになる。この場合、アプローチ方法は大きく2つ。

ひとつは、『ZBrush』や『3D Coat』などのスカルプト系ソフトでハイポリゴンのモデルを作った後、ポリゴン数を削減する方法。もうひとつは、『Blender』などの3Dソフトで四角形や球などのプリミティブな図形を加工し、ローポリゴンなまま仕上げる方法だ。

前者は粘土をこねるような感覚で直感的に扱えるのがメリット。後者は完成後のポリゴン状態をイメージしたまま、図面を描くように正確な設計ができるというメリットを持っている。

『Gravity Sketch』の場合、プリミティブな図形を直接手で触って加工できるため、この2つのメリット両方を持ち合わせているように感じた。慣れてきたら、3Dモデリングのクオリティとスピードが相当アップするように思う。

ところで、クリエイティブ向けということは一般向けよりもスペックが高いということ。したがって、当然ゲームやエンターテインメントアプリも動作する。筆者はインディーゲーム開発者なので、もちろんゲームも大好きだ。

なので、当然ゲームもプレイした。今回チョイスしたのは『After the Fall』と『Beat Saber』。

『After the Fall』は大量のゾンビが出現する世界を探索するVR-FPS。4人1組で行動し、押し寄せる大量のゾンビを銃で倒すという『Left 4 Dead』ライクなFPSだ。

『After the Fall』に限らず、FPSはVRでプレイしたほうが難易度が低く、達成感も大きい。理由は直接手で銃を動かせるからだ。

一般的なFPSの場合、マウスかゲームパッドのアナログスティックで銃を操作する。銃を操作するというより、照準を操作するといった方がいいだろう。このため、操作は間接的だ。

しかしVRの場合、直接銃を持った手で狙いを定めることができるのでよりスピーディーかつ正確に狙うことが可能。また、自由度が高いのもおもしろい。

たとえば非VRのFPSの場合、自分の正面の敵のこめかみを横から射撃するということはできない。照準の移動がタテヨコの2次元に限定されてしまうからだ。

しかしVRであれば銃を横向きにすることができるので、これができてしまう。しかもよりスピーディーに! これがおもしろくないはずがない。

これに加えて感じたのが、快適さ。『Meta Quest Pro』はパンケーキレンズの採用によって本体が薄くなっていて、他のVRデバイスほど重さを感じない。その上、PCなどの別デバイスとの接続がないためケーブルがないので束縛感がない。

何よりいいのが、開放型のつくりになっているため熱がこもりにくいこと。これまで他のVRデバイスを使っていて、感じたのが熱さ。使っていると熱がこもってしまうので、暑くて長時間プレイすることが難しいと感じていた。

この点が『Meta Quest Pro』ではクリアされており、長時間のプレイもまったく苦ではなかった。楽しい。

さらにこのメリットを実感できたのが『Beat Saber』。『Beat Saber』は、VR空間を流れてくるキューブをリズムにノって斬っていくリズムアクションゲームだ。

音楽に合わせてキューブを斬るだけでなく、時には巨大なブロックを回避するため実際に体を動かさなければならない。これが、ダンスを踊っているかのような気持ちよさを体験させてくれる。

ということはつまり、それなりに体を激しく動かすことになる。となれば熱はこもりやすいし、頭についたケーブルは鬱陶しい。けれども『Meta Quest Pro』だとこうした不快感を味わわずに済むので、他のデバイスでプレイする以上に楽しめると実感した。

グラフィックソフトやゲームを一通り使ってみて、個人的には非常に満足している。ではそれが22万6800円という価格を踏まえた時にどうかといえば……用途をVRグラフィックソフトとゲームのみに限定するなら厳しいかなと思う。

ただ筆者は今後、インディーゲーム開発者としてメタバース向けのコンテンツ開発や、VRゲームの開発を予定している。既にメタ社への開発者登録も済ませた。ここまでをすべて踏まえて考えたとき、高価格も妥当と考えている。

つまり、「開発者としての必要な投資」として妥当かなという感想なので、普通にVRアプリを触りたいという前提で手を出すには、やはり割高という印象だ。

今後VRやメタバースは発展するのか? カギを握るのはさらなるコミュニケーションとお手軽さ!?

「メタバース向けのコンテンツ開発や、VRゲームの開発を予定している」と書いたが、ここで重要なのが「今後メタバースやVRゲームは一般に普及するのか?」という点だろう。普及しないのであれば、開発したところで期待する収益を上げることはできない。

この手の議論は、以前から何度も繰り返されている。ということは、裏を返せばなかなか普及が進んでいないともいえるだろう。

なぜなかなか普及が進んでいないのか? 筆者が考えるにその理由大きく2つある。それは、「一人の世界に籠もってしまうこと」と「手間がかかること」。

「一人の世界に籠もってしまうこと」というのは、コミュニケーションの必要がないということを意味している。たとえばスマートフォンは、電話による会話やチャットツールなどによるコミュニケーションが大前提。なので「家族や友達が持っているから自分も持たなくては」となりやすい。

一方でVRデバイスについては、仮想現実の世界を1人で楽しむということが主眼だったので、個人の「VR世界を体験したい」という欲望のみが購入理由となっていた。

一方、「手間がかかること」というのは、非常に範囲が広い。まずはVRデバイスという特殊な装置を買う必要があり、PCやゲーム機などに接続して使わなければならない。スマートフォンを開けばゲームや動画が手っ取り早く楽しめるという現代において、多少リッチな体験ができるとはいえ準備のハードルが高い。

たとえば『Beat Saber』は素晴らしいゲームだと思うが、VRデバイスをセットアップしてゲームを起動して……という手間のかかる準備をするくらいなら、「スマートフォン向けのリズムアクションでもいいか」となってしまうことも少なくないだろう。スキマ時間やベッドの中で寝る前に楽しめるほど、現代のエンターテインメントは手間のかからないものになっているのだ。

ただ筆者は『Meta Quest Pro』に触れて、上記の2点が解消する余地を感じた。「一人の世界に籠もってしまうこと」については、まさにメタ社が推し進めるメタバースがズバリの解決策となるだろう。

そして「手間」についても、『Meta Quest Pro』は解決している。充電器からとって被って使うだけ。このお手軽さは『Meta Quest』も同様だが、開放型によって視界をふさがれる感覚がない上に、MR表現によって周囲の状況が見える『Meta Quest Pro』はよりお手軽に感じる。

難点は値段だが、この点は今後技術の進歩と普及の促進に従ってコストダウンされるだろう。2023年に出ると言われている一般向けの新型VRデバイス『Meta Quest 3』には期待したい。

(画像は『Meta Quest』公式サイトのスクリーンショット)

ただ一点気がかりなのが、本体と関係のない部分。2022年10月時点の『Meta Quest Store』には決済周りの不具合が存在していたこと。クレジットカードが認証されない、認証されてもキャンセルされてしまうといった不具合だ。

筆者もこの不具合に見舞われてしまい、クレジットカードやPayPalなど複数の決済手段を入力したがいずれもNG。最終的にサポートに連絡を取ることでなんとか解決したが、サポートも日本語が分かる人が少ないようで解決までに時間がかかってしまった。

ここまでは『Meta Quest Pro』本体を購入するときに発生した出来事だが、その後アプリのダウンロードストアである「Oculus Store」でもクレジットカードが登録できなかった。こちらはクレジットカードではなく、PayPalを決済手段に登録することで解決。

これらはVRデバイスそのものに関わる直接的な手間ではない。だが、快適さを阻害する要素であることは確かだ。購入に手間がかかるようだと諦めてしまう人も多いだろう。

筆者はメタバースやVRの発展を願う一人であり、これから自作のゲームを『Meta Quest』向けに開発しようとしている人間だ。このため自分が成功するためにも、まずはメタ社や『Meta Quest』にも成功してほしい。だからこそ、可能な限り早い段階でストアの決済機能を改修してほしい限りだ。

ちなみにもし、これから『Meta Quest Pro』本体を購入する予定で、クレジットカードが登録できない現象が発生したらその時点でサポートを頼った方がいい。自分であれこれ入力を考えて変えるよりも解決が早いはずだ。

文/田中一広

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