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『週刊ポスト』の日本型謝罪に騙されないように──日本型謝罪テクノロジー(note)



今回は梁英聖 さんのブログ『note』からご寄稿いただきました。

※元記事タイトルは「『週刊ポスト』の日本型謝罪に騙されないように──日本型謝罪テクノロジー(2) 」です。


『週刊ポスト』の日本型謝罪に騙されないように──日本型謝罪テクノロジー(note)


『週刊ポスト』が9月13日号に「韓国なんて要らない!」などという特集を組みました。表紙の見出しには堂々と次のように書いてあります。」



・「嫌韓」ではなく「断韓」だ 厄介な隣人にサヨウナラ

・「10人に1人は治療が必要」(大韓神経精神医学会)──怒りを抑制できない「韓国人という病理」

(週刊ポストツイートより。閲覧注意)

https://twitter.com/news_postseven/status/1168294972195561478



後述する通り、これは人種差別撤廃条約に違反する、極めて深刻な差別煽動です。


多くの批判を浴びて、『週刊ポスト』は本日9月2日午後7時、ウェブサイト上で、すぐに謝罪しました。しかしこの謝罪は、その場をしのぐために、単にアタマを下げて、世間が忘れるのを待つ、典型的な日本型謝罪といっていい、非常に悪質なものです。


事態があまりにも悪質なので、急きょ簡単な解説を書くことにします。


『週刊ポスト』の謝罪の内容


まず、『週刊ポスト』の謝罪を見てみましょう。以下、全文引用します。


「週刊ポスト9月13日号掲載の特集について」2019年9月2日『NEWSポストセブン』https://www.news-postseven.com/archives/20190902_1444923.html



週刊ポスト9月13日号掲載の特集『韓国なんて要らない!』は、混迷する日韓関係について様々な観点からシミュレーションしたものですが、多くのご意見、ご批判をいただきました。なかでも、『怒りを抑えられない「韓国人という病理」』記事に関しては、韓国で発表・報道された論文を基にしたものとはいえ、誤解を広めかねず、配慮に欠けておりました。お詫びするとともに、他のご意見と合わせ、真摯に受け止めて参ります。(『週刊ポスト』編集部)


〔太字修飾は引用者。以下同〕


一見丁寧に見えます。「配慮に欠けておりました。お詫びする」と明確に謝罪してもいます。一体何が問題なのでしょうか。


それはこの謝罪が差別したことを全く認めていないからです。この謝罪はじつは、「誤解を広めかねず、配慮に欠けて」いたことに謝っています。つまりここから読み取れる『週刊ポスト』の見解は、

[1]差別したとは一切認めない。差別だという批判は世間の「誤解」だ。

[2]謝罪する、だがそれはあくまでも「誤解を広めかねず、配慮にかけて」いたからだ。つまり差別だと「誤解」した責任はじつは読み手や世間にある


というものです。ハッキリ言って、読者も世の中も、そして本業である言論活動もナメていると思います。


しかしこの『週刊ポスト』の謝罪は、私が日本型謝罪と呼んでいる、不誠実な謝り方の典型なのです。企業、役人、政治家まで、こういう謝り方が、むしろ一般的だったことがいままで許されているから、今回『週刊ポスト』もそれを踏襲しただけです。


私はこの日本型謝罪に騙されない方法を、またどうしたら企業や役人や政治家がとりあえず謝罪して終わりという悪しき慣習をやめさせるためにどうしたらいいかを、提言したいと思います。


こちらの記事もお読みください。ゴゴスマの日本型謝罪を解説した記事です。


「責任逃れのための日本型謝罪を見破る方法──ゴゴスマのヘイトスピーチについての謝罪を例に」2019年9月1日『note』

https://note.mu/ryangyongsong/n/nada85d0df47c


とりあえずアタマを下げて世間が忘れるのを待つのが日本型謝罪


日本型謝罪とは、その場しのぎのため、とりあえずアタマを下げて、世間が忘れるのを待つための謝罪、のことです。『週刊ポスト』の謝罪はこれに当たります。ポイントを表にまとめてみました。



右の、公的に行われる際の欧米型の謝罪モデルでは、[1]事実を調査して、[2]その事実が人権規範や正義や法律に反していたと認められた場合、[3]それに対して謝罪(や損害賠償や処分)がなされ、[4]再発防止措置もとられます。正義に反していたことへの埋め合わせとして謝罪がなされるからです。


しかし日本で企業や役人や政治家が謝罪する時、これら4つの要素はないがしろにされることが圧倒的に多いのです。正義が軽んじられている日本では、謝罪はせいぜい世間を騒がせた(和を乱した)ことに対してしかなされないからです。


日本型の謝罪が用いられるシーンが、例えば友人間トラブルぐらいでちょっと謝る、ぐらいで済めば、それは笑っていられます。


しかし笑えない。


なぜならこの謝罪の仕方が、公的にも、企業の不祥事対策や、役人政治家が差別・人権侵害を引き起したとき、さらには外交関係にいたるまで怪しまれずに使われてしまっているからです。日本人はこの日本型でしか謝罪の仕方を知らないのです。


『週刊ポスト』は重大な差別に対しても、この日本型謝罪をやってしまったわけです。


『週刊ポスト』9月13日号の見出しがなぜ差別煽動に当たるのか


じつは私は『週刊ポスト』9月13日号の記事を読んでいません(記事を読めばもっと深刻な差別がある可能性があります)。


しかしその表紙だけで、すでに重大な差別煽動なのです。もういちど、問題の箇所を再掲します。



「嫌韓」ではなく「断韓」〔A〕だ 厄介な隣人にサヨウナラ

・「10人に1人は治療が必要」(大韓神経精神医学会)──怒りを抑制できない「韓国人という病理」〔B〕

(週刊ポストツイートより。閲覧注意)

https://twitter.com/news_postseven/status/1168294972195561478


まずAの部分です。


[1]「嫌韓」とは『マンガ嫌韓流』(2005年、晋遊舎)のように朝鮮人差別を煽動するキーワードです。「嫌韓」を肯定的に使っている時点で、差別です。


[2]しかし『週刊ポスト』は「嫌韓」でさえなく、「断韓」を主張しています。これは「朝鮮人を殺せ」などと嗤いながら差別を煽動するヘイトスピーチ街宣を繰り返してきた在特会や日本第一党が叫び続けてきた「日韓断交」と同じだとしか考えられません(「厄介な隣人にサヨウナラ」と言っているわけです)。


これは人種差別撤廃条約に違反する差別です。その第一条でいう人種差別racial discriminationの定義を短くいえば、[1]人種/民族などグループへの[2]不平等な[3]効果、が(人種)差別です。上の見出しはこの人種差別に当たるし、また人種差別の煽動(第4条)に当たります。


さらに上の「断韓」=「日韓断交」は、国際人権規約の自由権規約で禁止されている戦争の煽動にもあたります(外務省サイトに条文があります*1 )。


*1:「人権・人道 第三部 第六条」『外務省』

https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/kiyaku/2c_004.html


つまり本文読まずとも『週刊ポスト』9月13日号は、その見出しだけで十二分に人種差別撤廃条約(4条)と国際人権規約(20条)に反する差別煽動、戦争煽動だといえます。


『週刊ポスト』に日本型謝罪で逃げさせず、差別を煽動した社会的責任を取るらせるための提言


すでに『週刊ポスト』9月13日号は、多くの批判にさらされています。たとえば同誌に連載していた作家・深沢潮さんは、今回の差別煽動に抗議して休載を表明しています。





【大事なお知らせ】

深沢潮より、「週刊ポスト」での連載についてのお知らせがあります。


たいへん勇気ある行動だと思います。


では連載を持っていない一般の私たちは、どのような形で抗議の声をあげたらいいのでしょうか。


最後に、『週刊ポスト』がすべきこと、私たちができることを、以下に提言しておきます。


『週刊ポスト』編集部は下記の表を参考に、可及的速やかに以下の措置をとるべきです。


最も重要なことは、人種差別撤廃条約や国際人権規約に準じた差別禁止ルールを『週刊ポスト』編集部が自主的に制定し、公表し、順守すること、です。またこのような表現の自由を守るために差別禁止ルールをつくることは、出版労連や日本ペンクラブなどの公的な団体や弁護士会やNGOの協力のもとに行うのが望ましいでしょう(私は出版労連が出版業界の内部から差別自主規制ルールを提言すると言う、そういうイニシアティブを握るかどうかを注視しています)。


結局『週刊ポスト』も、何が差別で何がそうでないのかを判断する公明正大なルールを自分でもっていないから、金儲けのために差別を商品化するのです。超えてはならない一線がどこにあるのかを明確にしてこそ、韓国や北朝鮮や中国政府への批判が差別煽動にならないよう表現の自由を行使することがはじめて可能になるでしょう。



[1]事実の調査


(1)緊急の調査部会、できれば第三者委員会を設置し、9月13日号の表紙・記事に差別があったかどうかを調査すること。


(2)その差別がなぜ起きたのか原因を解明すること。


[2]ルール違反という判断


(1)何が差別で何がそうでないかを判断するルールを制定する。採用するルールとしては、人種差別撤廃条約、国際人権規約などの国際人権条約水準が望ましい。日本国憲法やヘイトスピーチ解消法など国内法などの基準もある。


(2)採用したルールに則って、9月13日号の表紙のどの部分、記事のどの箇所が差別であったか、差別煽動であったかを判断すること。そのことを公表すること。


(3)その差別が起きたことの責任を各部署レベルで明確にすること。(編集部や広告作成部署やそれにOKを出した担当者の責任から役員の責任まで)


※この[1]と[2]が最も重要です。上の表に赤いで示した通り、[2]ルール違反という判断がなければ、[3]謝罪はあり得ません。『週刊ポスト』にはルール違反であったことを認めさせることがなければ、いつまでも日本型謝罪を繰り返させることになるでしょう。


[3]処罰・謝罪・賠償


(1)[2]の結果公表と合わせて、[2]ルール違反した責任として(社会に)謝罪する。(誤解だとか、配慮が欠けた、などの曖昧な言葉は用いない)


(2)[2]で明らかにした各部署の責任に応じた、各部署・担当者の処分とその公表。


※当然被害者への謝罪なども含まれますが、時間がないのでこの点は改めて書きます。


[4]再発防止


(1)[1]事実の調査で明らかにした原因に対する是正措置とその公表


(2)『週刊ポスト』誌上や広告での再発防止措置の掲示など。私見では『週刊ポスト』9月13日号の表紙じたいが差別煽動であり、電車の吊り革広告で述べ何千万人への差別を煽動したそのマイナスの社会的影響に対して、『週刊ポスト』は責任を取らねばなりません。したがって考えられる措置として、同じ規模・範囲でそのマイナスの社会的影響を打ち消すだけのプラスの社会的影響としての反差別や差別抑制効果を持つ表紙・記事の号をつくり世に訴えると言う表現の自由を行使しなければならないでしょう。


最後に


以上です。


最後に一言書きます。


この緊急提言は9月13日号の差別煽動を対象にしましたが、本来は『週刊ポスト』が過去の見出し広告でさんざん嫌韓差別を煽動してきたこと、それで金儲けをしてきた愛国差別ビジネスの実態が暴露されねばならないでしょう。


よって上の緊急提言にそって、過去の差別も調査するなどする必要があることはいうまでもありません。


また出版労連の話を書きましたが、これは『週刊ポスト』だけでなく、出版産業全体の問題です。産業民主主義を再建するという文脈で、本当は愛国差別ビジネスと自主規制するルールを制定する必要があるでしょう。そういう意味で出版業界で働く労働者の労働運動と反差別運動とが協力して自主的ルールを作り上げるべき問題だと思います。


 

執筆: この記事は梁英聖 さんの『note』からご寄稿いただきました。

https://note.mu/ryangyongsong/n/n753cda55ffc8


寄稿いただいた記事は2019年9月20日時点のものです。


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