「乗組猫」は人気者

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アーネスト・シャクルトン(Ernest Shackleton)率いる大英帝国探検隊は、1914年から初の南極大陸横断にチャレンジしていました。しかし探検船エンデュアランス(Endurance)号が1915年に沈没してしまい、乗組員は生存の危機にさらされたのです。
奇跡的にも28人の探検隊全員が、危険な寒さと長い旅、乏しい物資に耐えて生き延び、世界中で有名になりました。
実はこの船にはほかにも乗組員がいました。Mrs.Chippyという名のトラ猫です。危険な任務を主人とともに遂行し、すぐれた運動能力を発揮して、みんなから愛された猫でした。
すぐれた運動能力で大活躍

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スコットランドの造船技師で大工でもあったHarry“Chippy”McNishが飼っていたのがこの猫です。Chippyという名はイギリスの俗語で「大工」を意味します。Mrs.Chippyは「世話女房」のようにHarryのそばを離れず、とてもなついていました。このため、猫にもその名がついたのです。
Harryがシャクルトンの探検隊の乗組員に選ばれたとき、もちろんMrs.Chippyも同行しました。船の猫としてネズミを捕まえるだけでなく、乗組員たちの心を和ませる任務を与えられたのです。
実はこの猫はメスではありませんでした。海上で1ヵ月ほど過ごした乗組員たちは、このたくましい猫が「実は淑女ではなく紳士だった」と気づいたのでした。彼らの日記や航海日誌には「個性豊かな猫だ」と書かれているものが多く、Mrs.Chippyがみんなにかわいがられながら、船上生活を自由に楽しんでいたことがうかがわれます。
Frank Worsley船長は「この猫はまるで船員のように楽々と高所の索具に登る」と記述しています。同行した気象学者Robert Clarkも「犬たちのいる小屋の屋根の上に乗って、挑発的に歩き回っている」と記しています。Mrs.Chippyはかなり荒れた天候でも、幅の狭い柵の上をスタスタと歩いて、みんなを感心させていたといいます。
船が難破して「殺処分対象」に

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しかし悲劇が起きました。
エンデュアランス号が流氷に閉じ込められて立往生してしまい、大陸横断計画は断念せざるを得なくなったのです。そこで予定を変えて西に向かうことになりました。
このときシャクルトンは、危険な旅に耐えられない弱い動物を殺処分するよう命じました。3匹の子犬を含めた5匹のそり犬(このうち1匹は船医の飼い犬でした)とともに、Mrs.Chippyもその対象でした。船員たちは最後の数時間をこの猫とともに過ごし、抱きしめたりして別れを惜しみました。その後睡眠薬が混入された好物のイワシを与えたと伝えられています。
1915年10月29日の日記に、シャクルトンは次のように書いています。
「今日の午後、一番若い子犬3匹とSueの飼い犬Sirius、大工の猫Mrs.Chippyを射殺しなければならなかった。この危険な状況で弱い動物の世話はできないからだ。子犬の飼い主Macklinと犬の世話係Crean、そして猫の飼い主の大工はかなり悲しんでいるようだった」
失意の飼い主は貧困のうちに亡くなる

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大工のHarryが他の5人とともに救命ボートで近くのサウスジョージア島まで航海する任務に選ばれたとき、彼はボートを改造して補強しました。このおかげで乗組員全員の命を救うことができたといっても過言ではありません。
しかしHarryは愛猫を殺したシャクルトンを決して許しませんでした。2人の対立はどんどん悪化し、1915年11月にエンデュアランス号が沈没して契約が失効したあと、Harryは「もはや船長の命令に従う必要はない」と言い放ったのです。彼は1930年にニュージーランドで貧困のうちに亡くなりましたが、晩年も繰り返し周囲に「シャクルトンが私の猫を殺した」と語り、恨んでいたといいます。
不愉快に感じたシャクルトンは、後に乗組員が受賞した極地勲章の対象からHarryだけを外してしまいました。
1959年になって、ニュージーランド南極協会はHarryが貧困者用墓地に埋葬されたことを知って衝撃を受け、新しい墓石のための寄付を募りました。同協会はMrs.Chippyの銅像を作ることも決め、2004年の建立の日には住民など約100人が集まり、Harryと愛猫のための追悼の言葉が読み上げられました。
ふたりはこの地でふたたび一緒になれたのです。
出典:
・The Adventures of Mrs. Chippy, Shackleton’s Seafaring Cat
・32 of the most famous cats
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