特殊鋼とはクロムやモリブデンあるいはマンガンといった合金元素を添加することにより、疲労強度および耐衝撃性のアップと耐遅れ破壊性向上という性格を与えられた鋼である。近年において特殊鋼の開発が進展し、クランクシャフトやコンロッドには熱処理を行なわずに強度が確保できるバナジウム鋼などが使用されている。
TEXT:牧野茂雄(MAKINO Shigeo)
自動車のモノコックボディに使われる冷延鋼板は、衝突時の乗員生存空間確保の目的から引張強度(降伏強度)が求められる。その値が現在はMPa(メガパスカル)を超えてGPa(ギガパスカル)のレベルに入ってきた。一方、エンジンの回転系部品に使われる鋼材には、繰り返し力を受けたときの疲労強度や圧縮力をうけたときの座屈強度、それと部材としての硬さが求められる。1mm2当たりの強度レベルで比べると、一般的なボディ鋼板が50〜100kgであるのに対しコンロッド用鋼は約70〜90kg、クランクシャフト用鋼は約80〜120kg、コンロッドをクランクシャフトに留める高強度ボルトは約100〜170kgである。さらに駆動系に使われる軸受用鋼では最大で約400kgが求められる。薄板には薄板の、回転系部品用には回転系部品用の、それぞれに応じたキャラクターがある。
一般に「硬い」と思われているチタン合金でも300HV程度であり、コンロッド材およびクランクシャフト材とほぼ同等である。チタン合金鋼板をプレス成形する技術は日本で発達し、一時期は世界中のあらゆるチタン製品が日本で成形された。1.2GPa級の薄板を冷間プレスする技術が日本で発達したのも、その流れと言える。ただし、コンロッドやクランクシャフトのような複雑な形状を持った製品を安価に大量生産するには切削加工性が必要であり、現在その限界は320HV程度だ。これ以上硬いと削り加工が極端に難しくなる。その場合は「削りやすくする」ための金属を添加する。
特殊鋼の添加物については、まず、基本的な硬さと靭性(しなやかさ)をC(炭素)量で決め、そこにシリコン(Si=ケイ素)、マンガン(Mn)、硫黄(S)の3元素を適宜添加し、酸素(O)量の減らし具合をコントロールするという成分調整が基本だ。鋼種によって異なるがCは0.04〜1.5%、Siは0.1〜0.4%程度が標準だ。ここに粘りを損なわずに強度・硬度をアップさせるMnを0.4〜1.0%、切削性を高めるSを0.04%以下という具合に添加している。
硬度、とくに高温下で強度が欲しい場合はMoを、耐磨耗性を高めサビにくくしたいときはCrを、それぞれ添加する。クロモリ鋼はこの両方が添加されており、セットで使われる場合が多い。また、表面の硬さを増すTi、耐磨耗性と強度の両方に効くVとNiは組み合わせて使われることが多い。それと、ごく少量で効くB。TiとNbは0.1%オーダーで使われることが多いが、Bの添加量はppmである。BそのものはN(窒素)と結合しやすいため、窒化ボロンを形成させると焼き入れ性を高める効果が消えてしまうので、Bよりさらに窒素と結合しやすいTiを入れてそれを防ぐという使い方だ。
世の中にはクロモリ以外にもさまざまな添加物があるということをお伝えしておきたい。