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なぜいま「直6」なのか? マツダが縦置き直列6気筒エンジンを開発する理由 次期トヨタ・クラウンはマツダの縦置きを使う!?


つい先ごろ、マツダが「縦置きアーキテクチャー」のエンジン概要を披露した。たった1枚の写真とメモ書き程度の資料だけだったが、マツダが「本当に直6を作る」ことが証明された。しかし、いまになってなぜ、縦置きエンジン後輪駆動なのだろうか……。もしかしたら、この直6エンジンはトヨタも使うのだろうか。「消滅する」とか「FFになる」とか言われているクラウンは、このエンジンとマツダのラージプラットフォームを使ってFRのまま残るのだろうか。




TEXT◎牧野茂雄(MAKINO Shigeo)

縦置き直6エンジンのメリット、デメリット

11月9日、2021年3月期 第2四半期 決算説明会で公開されたマツダのLarge商品群(エンジン縦置き)のエンジン。左がガソリン直6ターボ、右がディーゼル直6ターボ、センターが直4+PHEVのパワーユニット。

左がエンジン横置きFF、右がエンジン縦置きFRのエンジンルーム

エンジン横置きの前輪駆動=フロントエンジン・フロントドライブ(FF)は、エンジンと変速機を合体させたパワートレーンをエンジンルーム内の奥のほう、キャビン=車室とエンジンルームを仕切るファイアウォール=防火隔壁(バルクヘッドとも呼ぶ)側に近付けて搭載する。メリットはエンジンルームを小さくできる点にある。全長に占めるキャビン長を確保できる点がメリットだ。




もうひとつ、エンジンのクランクシャフトが駆動軸である前軸と平行になることだ。真上から見てエンジンの出力軸と前軸がズレていても、歯車を使ってに位置合わせができる。この寸法ズレを使って変速機を設計すればいい。

エンジン縦置きでもFFを作ることはできる。スバルとアウディがその例だ。ただし、この場合はエンジンの出力軸と前軸は90°交差している。エンジン出力の方向を変えなければクルマは走れない。そこでハイポイドギヤと呼ばれる歯車を使う。このハイポイドギヤは「歯音」を出さないよう互いの中心をズラして組み合わせるため、ここで駆動力の3%程度をロスする。




エンジン縦置き後輪駆動=フロントエンジン・リヤドライブ(FR)もこれと同様にハイポイドギヤを使う。ポルシェのようなリヤエンジン・リヤドライブ(RR)でも、ミッドシップ後輪駆動(MR)でも同様だ。エンジン縦置きの場合は必ずハイポイドギヤが必要になる。駆動力の損失という点では、FFに対してのデメリットである。

【後ろ引き】前軸よりも後方(運転席側)にステアリングラックを置く「後ろ引き」配置はエンジン横置きFFのほとんどが使う方式。車輪裏側のハブから伸びたナックル(腕)の先端とタイロッドを結び、L字型のロワーアームと上面視でも側面視でも平行な位置関係とする配置が望ましいという。真横(車輪側)から見るとすべてがホイール内径のなかに収まっている。

【前引き】いっぽう、前軸より前側にステアリングラックを置く「前引き」配置は後輪駆動車のほとんどが使う方式だが、FF車にも採用例はある。上のイラストはアウディの例であり、エンジンを縦置きし、その直後にデフ出力〜左右輪ドライブシャフトを配置する。エンジンはステアリングラックの上に乗りタイロッドは2分割式ロワーアームの前側アームと平行で高さもアームと近い。

ではステアリングの設計はどうか。この分野の専門家の皆さんは「エンジン縦置きFRのほうが横置きFFよりずっとやりやすい」とおっしゃる。どっちが優れているかという話ではなく、エンジンやら排気管やらがぎっしり詰まった横置きパワートレーンのそばにステアリングラックを配置し、そのラック部分とドライバーが操作するステアリングホイールとをつなぐインターミディエイト・シャフト(インタミ)をうまく通し、ふたつのカルダンジョイントが位相ズレを起こさないように配置することが求められる横置きFFに対し、エンジンの横にまっすぐインタミを通すことができるエンジン縦置きレイアウトは俄然都合がいい。

左にステアリングを切るときの旋回外側輪を考える。タイヤが向きを変えると路面とタイヤの間で横力(←)が発生する。この横力はタイヤの接地点中心よりやや後方に働く。同時に、タイヤには直進に戻ろうとする力(SAT=セルフ・アライニング・トルク)も働き、これが「前引き」配置ではステアリングのタイロッドを旋回外側に引っ張る「引っ張り荷重」になる(上)。言い換えればこれはナックルを「切れ戻り」方向に引っ張る力だ。いっぽう「後ろ引き」配置では逆に「圧縮荷重」となりナックルを旋回内側に押す力になる。

前面衝突対策はどうか。かつて直6がV6に置き換わった理由の大部分は衝突対策だった。前面衝突試験時の車速が高くなり、しかもオフセット衝突という試験項目が追加で入ってきた。そのためエンジンの前側に「前面衝突のときはここを潰す」というクラッシャブルゾーンを設ける必要が出てきた。ある程度の速度までの衝突なら、クラッシャブルゾーン内の構造体を潰すことで衝突エネルギーを強制的に消費させることができる。




そのためにはエンジン全長は短いほうがいい。だから直列は、せいぜい5気筒まで。できれば4気筒で済ませたい。となるとV型しかない。V型6気筒なら長さは直4とほぼ同じになる。クランクシャフトを短くできるから、直6に対するV6の欠点である回転振動への対策は少々割引かれる。




近年はスモールオフセット(リーンオフセットとも呼ばれる)という試験が追加された。さらに、将来的には斜め前方からの衝突という新たな試験が加わる可能性が高い。そうなると直6とV6「どっちが有利か」は、かなり複雑になるが、直6が減り始めた当時と違って現在はボディ設計術が相当に進歩した。直6をエンジンルーム内の中央に縦に配置しても、クラッシャブルゾーンの確保はそれほど難しくはなくなった。

全幅に対して運転席側60%、車両中心線とはオフセットした位置でぶつけるこの試験方法がクルマのボディ設計だけでなくパッケージングにも影響を与えた。運転席側のサイドメンバーだけで衝突の全エネルギーを受け止めなければならないから、ボディは激しく潰れる。なるべくエンジンルーム内だけで「潰れ」を終わらせたい。この要求のため直列6気筒縦置きレイアウトは消えていった。この写真はボルボ・カーズでのテスト風景。ボルボは直5/直6エンジンを横置きに搭載するという方法を選んだ。

運転席側だけ、車両全幅に対して10%〜20%を「削ぎ落とす」ようなすれ違いざまの衝突を模した試験。運転席側のサスペンションとタイヤがもぎ取られるが、この場合もエンジン幅は狭いほうが、いろいろな要素とのトレードオフで有利だろうか。

ちなみに直6を死守したBMWは、前面衝突対策で知恵を絞った。クラッシャブルゾーンは最小限。フロントオーバーハングを減らし、重たいものを前にぶら下げない車両パッケージングにこだわった。このほうがカッコもいい。フロントサイドメンバー前端は軽衝突時に潰すクラッシュボックスとし、その後方のサイドメンバーは「車室に近付くにしたがって断面積が大きくなる構造」にした。これで衝突直前速度64km/hのオフセット試験時に片側だけのフロントサイドメンバーで吸収できるエネルギー量を充分に確保したのだ。




法規に定める衝突試験の項目は、これからも確実に増える。いろいろな試験案が出ている。しかし、直6だから致命的に対応不可能という状況ではなくなった。むしろエンジン幅が狭い直6のほうがV6より有利というケースも出てきた。

バンク角90°でバンク内にターボチャージャーと左右バンクぶんの排ガス後処理装置を置く。従来のV型エンジンはバンク外側が排気系だったが現在はバンク内排気が増えた。こうしたレイアウトを、エンジン全高を抑えながらうまく考え、しかもエンジンをまたいで左右に伸びる排気系を運転席/助手席足元にの床下にどう配置するかは、けして簡単ではない。

その代わり現在は排ガスが厳しい。直6が見直された理由はここにある。V型エンジンの場合、排ガス後処理装置は両側バンクにそれぞれ1セット必要になる。現在の欧州製V8はVバンクの内側が排気、外側が吸気というレイアウトになったが、これはターボチャージャーや排ガス後処理装置をVバンクの間に収容するという狙いからだ。




それでも「お金を取れるV8」エンジンはまだいい。コストもパワートレーン・パッケージングもシビアな普及型V6が横置きFF用から姿を消しつつある理由は、まず排ガス後処理装置のコストをセーブするためだ。同時に、直列レイアウトならエンジンブロックはひとつで済む。V型だと上半分はふたつ必要。カムシャフトはDOHCのV6だと4本いる。吸排気とも可変バルブタイミングにするとなるとバルブ位相可変ユニットは4つ必要。これらが直列エンジンなら半分で済むのだ。

排ガス後処理装置で言えば、いずれガソリン車にもパーティキュレートフィルター(GPF)と選択還元触媒(SCR)が必須になる時代が訪れるだろう。ディーゼルエンジンではすでに必須だ。直列エンジンなら、これらは1セットで済む。エンジンにくっついてくるさまざまなシステムを考えると、直列エンジンの優位性が出てくる。




ただし、車両運動性能を考えると、エンジンはできるだけ車室に近い側に置きたい。その点、直6は前軸中心よりエンジンが前に出てしまう。V6ならフロントミッドシップに近い位置までエンジンを後退させることができる。エンジン縦置きならV6と直4が有利だ。もちろん水平対向4気筒も、である。

これはかつての日産のレーシングカーレイアウト。同じボディ骨格に直6のRB型とV6のVQ型を搭載したときの、エンジンと前軸の位置関係がよくわかる。ハンドリング優先で考えれば、エンジンは後方に引っ込んでいてくれるほうがいい。「頭が軽い」ことは気分の点でもプラスにはたらく。

以上、エンジン縦置きと横置きを比較してみると、マツダが直6FRを選択した理由は、排ガス後処理装置とステアリング系のレイアウトではないかと推測される。さらに言えば、エンジン縦置きなら前輪の切れ角は大きめに設定できる。最近はあまり前輪切れ角は話題にのぼらないが、これも車両設計上は重要な要素だ。

それと見栄え。運転席/助手席ドアの前側オープニングラインから前軸中心までの距離を、デザイナー諸氏はプレミアムレングスと呼ぶ。FFの場合、エンジン縦置きだろうが横置きだろうが、ドアのすぐ前に前輪が位置する。後輪駆動車と比べて見劣りがするのは、この部分だ。ヘッドライトをぐるっと側面までラウンドさせる手法がいまや当たり前で、これによってオーバーハングは短く見える。しかし、そこはごまかせても、前輪の後方からフロントドアに至る部分の伸びやかさは、前輪駆動車には望むべくもない。

2013年発売のアストンマーティンV12ヴァンテージS。ドライバーの着座位置はホイールベース中央よりやや後ろ寄りになる。ドアの前側オープニングから前軸中心までの距離、いわゆるプレミアムレングスが長い。サイドビューのかっこよさのポイントはそこだ。

エンジン横置きFFであるマツダ6のプレミアムレングス

エンジン縦置きFRであるBMW3シリーズのプレミアムレングス

さて、いずれデビューするマツダの直6エンジンはガソリンとディーゼルの二本立てだ。縦置きの直4もあり、そちらはHEV(ハイブリッド車)である。マツダは2年前、得意のRE(ロータリーエンジン)を発電に使う電動車用ユニットの構想を明らかにしているが、そのパワートレーンの写真も先ごろ公開された。低解像度の写真のためよくわからないが、とりあえずREと電動モーターを合体させたパワートレーンである。それとは別にPHEV(プラグイン・ハイブリッド車)と48VのマイルドHEVも開発中だ。

ここから先はまったく個人的な予測に過ぎないが、トヨタが次世代の「クラウン」をどうするのか考えるとき、クラウンとレクサスISをセットでマツダのエンジン縦置きアーキテクチャーに合流させるという可能性が思い浮かぶ。クラウンはカムリより大きなFFセダンになるのではなく、車名が消滅するのでもなく、FFRセダンとして残る。当然、マツダの直6がそこに載る。




マツダが縦置きエンジンでまず投入するのはSUVだろう。その縦置きアーキテクチャーは次期マツダ6(アテンザ)も採用する。ショーカーとしてはFRクーペを訴求していたが、クーペが登場するとしてもSUVとセダンの後だろう。




直6エンジンは、現在のエンジン生産設備で直4と混流生産される。この点は以前、マツダの役員氏が明言した。汎用工作機械だけで構成した現在の直4エンジンブロックの切削加工工程に直6も投入し、エンジンの組み立ても直4と直6は混流。おそらく縦置きシリーズにも、マツダ流「ほぼ重力鋳造」の砂型を使ったシリンダーヘッド鋳造が行なわれるのだろう。そしてトヨタ向け直6もマツダ製になる?




公表された1枚の写真をもとに、想像力を目一杯働かせながら状況証拠と重ね合わせれば、マツダの縦置きアーキテクチャーにはこのような構想があるのではいかと思えてくる。




以前、筆者はトヨタが大幅マイナーチェンジでレクサスISを延命したとき、次期モデルはマツダと合流ではないかとこのMotor-Fan-Webで書いた。クラウンは2018年に新しいGA-Lプラットフォームに切り替わってデビューしたのに、なぜレクサスISはそうしなかったのか、と。次期ISがGA-Lプラットフォームを使うのであれば、大規模マイナーチェンジにお金をかけるよりフルモデルチェンジ前倒しではないか、と。




現行クラウンが2025年、あるいは2026年ごろまで生産され、次期モデルがマツダのエンジン縦置きラージプラットフォームに合流するのであれば、タイミングとしても妥当だ。マツダが最初に作るのは、直6HEVでAWD=オール・ホイール・ドライブのラージサイズSUV。これは2022年だろうか。セダン系は2023年?……勝手な妄想はどんどん膨らむ。

マツダのFRコンセプトカー、VISION COUPE

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