2020年現在の乗用車用エンジンは全数水冷。近年は冷却損失を最小限に抑えるために、水路の使い方にも工夫が凝らされる。
かつての水冷エンジンの冷却は「オーバーヒートしないこと」が重要視されており、大量の冷却水をボア周辺全域に渡って流す構造だったが、現在では最も高温となる燃焼室周辺を重点的に冷やし、暖機時間の短縮と触媒の早期活性化にために、必要最低限の冷却をタイムリーに行なうようになった。冷却水の循環も、縦流れと横流れ、一方向流れと循環流れを機種の特性に合わせて吟味する。
縦置きと横置きでは、同じ機種でも水路を変えるのが一般的だ。アルミブロック+クローズドデッキ+ライナー構造では剛性を確保しながら冷却性も高めるべく「セミウェットライナー」も見られる。
マツダSKYACTIV-G 1.5における縦横構造の違いを例にあげる。
FF用ではウォーターポンプがエンジン前端(右側)にあり、ラジエーターとつながっているウォーターアウトレットが後端(左側)にある。これをそのまま縦置きにすると、バルクヘッド側にウォーターアウトレットが位置するため、車体前部のラジエーターから延々と配管を伸ばさなければならない。そもそも、フロントミッドシップレイアウトのロードスターでは、エンジン後端とバルクヘッドの間に余分なスペースは皆無である。従ってFR用エンジン開発に伴って、水路設計は大々的に変更された。シリンダーおよびシリンダーヘッド内の水流も、FF用の循環タイプから、前後一方方向へ両サイドから挟み込むように流れるように変わった。
すでに生産中止となってしまったが、スバルの水平対向6気筒の例[EZ30/EZ36型]をあげる。
エンジンの外形寸法を維持したままパワー/トルク/燃費を追求しなければならないとき、スバルは排気量アップと冷却水路全面見直しで対応した。登場時期には7年しか差のない両機だが、冷却系の発想はまったく違う。後発のEZ36型は気筒ごとのシリンダー内壁面温度を揃え、温度管理が厳格化された。冷却水流量の80%をシリンダーヘッドに振り向け、中低速領域でのノッキング発生を抑えた結果、レギュラーガソリンを使えるようになった。
2000年登場のEZ30型は、まずシリンダーブロック側の水路でシリンダー壁面を冷やしてからシリンダーヘッド側へまわり、シリンダーヘッド前端からラジエーターに向かうという設計だった。手前の気筒から順番に水が流れるため、気筒ごとに微妙な温度差が生まれてしまう欠点があった。2007年登場のEZ36は水路がシリンダーブロック側とシリンダーヘッド側とで独立していた。ブロック側は中央シリンダーから左右に水路が分かれ、反対側でふたたび中央シリンダー直上に合流しラジエーターに向かう。ヘッド側は独立した3本の水路で各気筒を冷やし、ラジエーターに向かう。