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VWでもっとも小さいSUV/クロスオーバーのT-クロス。いわゆる「BセグSUV」のカテゴリーに属するモデルだ。このカテゴリーがいま活況を呈している。トヨタ・ヤリスクロス、日産キックスなど魅力的なニューモデルが続々と投入されているからである。なぜ、BセグSUVなのか? T-クロスはそのなかでどんなポジションなのか?
いきなりドアヒンジで驚く
世界的なSUV/クロスオーバー人気の全体トレンドは変わらないが、その中身は少々変化の兆しが見られる。主戦場が「Cセグ」から「Bセグ」に移っているようなのだ。トヨタならC-HRからヤリスクロスへ、日産ならエクストレイルからキックスへ、アウディならQ3からQ2へ、そしてVWならティグアンからT-クロス(T-Cross)へという具合だ。
少しドライブしてみれば、その理由はよくわかる。なにしろ扱いやすい。狭い都会の道路でも自信を持ってドライブできるし、ちょっと高い視点も運転のしやすさに貢献している。もちろん価格もBセグハッチバックよりは高いがCセグハッチバック並み。VWで言えばゴルフTSIコンフォートライン(マイスターが319万円)かT-クロス1st(303万9000円)を買うかという選択になるわけだ。
ちなみに、ポロのTSIハイライン(同じ1.0ℓ直3ターボ搭載)は、275万9000円だ。
今回、T-クロス 1st Plusを1日試乗するチャンスがあった。気づいたことをレポートする。まず前提条件として、筆者はあまりSUVが好みではないということを最初におことわりしておく。背が高く重く都会での取り回しが悪い、悪路を走る機会がほぼないから4WDの必要もない、燃費も(ハッチバックと比較すれば)悪いからだ。そんな筆者がT-クロスに乗って最初に驚いたのは、「ドアヒンジ」である(つまりまだ運転していない)。
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以前、ドアヒンジに取材をして以来、クルマに乗ったら必ずドアヒンジを見るようにしている。高級車は高級車なりの非常に剛性が高く美しいドアヒンジを持っている。T-クロスはどうか? これがゴルフと同じタイプのドアヒンジなのだ。国産Bセグ、Cセグ(というかドイツ車を除くすべて)で、こんな素敵なドアヒンジを持つモデルは皆無。さすがVWと感心した。
感心したついでにボンネットフードを開ける。もちろん、ダンパーなどついていない(当たり前だ、Bセグなんだから)。エンジンを観察するときは、エンジンマウントに注目する。横置きの場合はエンジンマウントの出来でNV(音・振動性能)がまったく違ってくるからだ。といっても、エンジニアでもないので、見るだけ。しかし、見るからに容量の大きそうなエンジンマウントのクルマは大抵、エンジンの不快な振動も抑え込んでいる。
T-クロスはどうか? これまたなかなか立派なエンジンマウントだ。長さの短い3気筒エンジンを積むために、シリンダーブロックにはがっちりとしたアルミ合金製のエクステンションがついている。
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エンジンは、EA211型(つまりVWの最新モジュラーエンジン)1.0ℓ直3DOHC直噴ターボ。116ps/200Nmだから、1270kgの車重に対して力不足はなし。しかも乗っていて変な振動も感じない。「ああ、いいエンジンだな」とも思わないが、いい意味で「えーと、このクルマのエンジンって1.0ℓだっけ?1.2だっけ? ん?1.6だっけ?」という感じだ。
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試乗した1st Plusは、デザインパッケージで3色の内装が選べる。試乗車はオレンジ。ほかにグリーンとブラックがある。36万円安い1stはこれが選べないようだが、ボディ同色のドアミラー、ブラックのアルミホイール、黒基調のインテリアの1stもホームページで見る限りとてもシンプルでいい。36万円も違うなら、こちらを選ぶかもしれない。
絶妙なサイズがいい
世界的にBセグSUV/クロスオーバーが人気なのは、やはりサイズがちょうどいいから、なのだと思う。全長×全幅×全高:4115mm×1760mm×1580mm、最小回転半径5.1mというのは、狭い市街地でも運転しやすい。それでいて居住空間が狭いということもない。ティグアンの4500mm×1840mm×1675mmと比べたら二回りも小さいけれど存在感は決してひけをとらない。となれば、T-クロス、いいじゃん!となるわけだ。
まもなく登場のトヨタ・ヤリスクロス4180mm×1765mm×1560mm、日産キックス4295mm×1760mm×1585mmと比べてもT-クロスのコンパクトさは際立つ(ちょっとキックスが大きめ)。若いカップルやファミリー、これまで大きなクルマに乗っていた高年齢層からのダウンサイザーにとって、BセグSUVは有力な次期愛車候補になり得ると実感した。
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ボディサイズは小さいが室内が狭いわけではない。175cmのドライバー(標準的な体型)が運転席に座ったときの後席に同じ175cmの男性が座ると膝周りにこぶし1個分+アルファの余裕がある。アップライトに座らせるパッケージのおかげで大人4人が快適に過ごせる居住空間が確保されている。
インテリアの質感は、決して高くない。が、気持ちいい活気が溢れている。ウキウキするような内装だ。デザインパッケージで使う色使いやデザインも、フランス車やイタリア車のような洗練さはないが、カジュアルな感じは悪くない。
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ここまでT-クロスの良いところを挙げてきた。では気になったところはどこか?
まず乗り心地。市街地でも高速道路でも舗装が荒れる、あるいは道路の継ぎ目ではバタバタする。ちょっと気になった。それから7速DCTは、発進や微低速域ではややギクシャクする。これは乾式クラッチのDCTではもう不可避な症状なのだろう。湿式DCTだと気にならないが乾式だと気になる。伝達効率は乾式の方が高いから悩ましいところだ。湿式DCTなら伝達効率がアップしたトルコンATの方が扱いやすいし、ドライバビリティも高い。
アイドルストップからの復帰もあまり上手ではない。とはいえ、すべての面でポロよりずっと洗練されていると感じた(ただし、現行ポロに乗ったのはポロがデビューした時だからいまはもっと良くなっているのかもしれない)。
念のために書いておくと、T-クロスはFF(前輪駆動)で4WDの設定はない。BセグSUV/クロスオーバーに関しては、必ずしも4WDが求められているわけでない。多くのモデルがFFである。
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100km/h巡航時のエンジン回転数は7速で2300rpmくらいで、現代の基準で言えば高めだが、静粛性もNV性能も高いから気にならない。
燃費は、モード燃費が
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 13.2km/ℓ
郊外モード 17.1km/ℓ
高速道路モード19.1km/ℓ
となっているが、これは実力通りの数値だろう。実際に高速道路を淡々と走ると20km/ℓくらい(高速+郊外路で19.1km/ℓだった)。200kmほど走った総合燃費は17.6km/ℓだったからとてもいい(ただし燃料はハイオク)。
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200kmほど走っただけだから結論めいたことを言うのははばかられるが、「都会でSUV/クロスオーバーに乗るなら、Bセグのいいやつ」と思う気持ちは充分に理解できた。CセグSUVが価格的に買えないからBセグSUVを選ぶのではなく、積極的にBを選びたい。だから、デザイン性や走りも重視したい、というユーザーの潜在意識にVW T-クロスはばっちりミートする。
自動車メーカー各社が、このカテゴリーに力を入れるのは、やはり量(台数)が期待できるのと、燃費(たとえば欧州のCO排出量295g/km規制)を考えてのことだろう。しかし、単なる燃費が良くてサイズがコンパクトなBセグSUV/クロスオーバーは競争を勝ち抜けない。このカテゴリーの「標準器」となりうる実力をT-クロスは持っていることを確認できた。
冒頭、「SUVは好きじゃない」と書いたが、「BセグSUV/クロスオーバーならいいかも」とT-クロスは思わせてくれた。
今後、トヨタ・ヤリスクロス、日産キックスなど続々ライバルが登場する。気になる方は、ぜひT-クロスに試乗してからにするといいと思う。現在、このクラスの「標準器」だから。
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VW T-クロス 1st Plus
全長×全幅×全高:4115mm×1760mm×1580mm
ホイールベース:2550mm
車重:1270kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rトレーリングアーム式
エンジン形式:直列3気筒DOHCターボ
エンジン型式:EA211
排気量:999cc
ボア×ストローク:74.5mm×76.4mm
圧縮比:10.5
最高出力:116ps(85kW)/5000-5500rpm
最大トルク:200Nm/2000-3500rpm
過給機:ターボチャージャー
使用燃料:プレミアム
燃料タンク容量:40ℓ
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 13.2km/ℓ
郊外モード 17.1km/ℓ
高速道路モード19.1km/ℓ
車両価格○339万9000円