
プジョーのフラッグシップ、508のワゴンボディ、SWに試乗する機会を得た。エンジンは2.0ℓ直ディーゼルターボである。フレンチDセグ・ディーゼルワゴンの実力は如何に?
508SWをほぼ同サイズのMAZDA6ワゴンと比べると

プジョー508は、プジョーのラインアップのフラッグシップである。ボディスタイルは、セダンとSW(ワゴン)。SWは、シューティングブレークと呼ばれる「ワゴンだけどクーペのような佇まいをもつボディスタイル」だとプジョーは説明する。今回試乗したのはSWである。
個人的にはかつて(90年代後半)プジョー308を、00年代後半はシトロエンC4を所有していたことがあるくらい、フランス車は好きである。基本のデザインは美しいのに、ディテールのクオリティが低かったり(とくにインテリア)、オートマチックトランスミッションが貧弱だったり(AL4型4速ATとか)、といった弱点はあったが、それを上回る楽しさや乗り心地の良さがあった。

話を508に戻す。現行508は2代目にあたる。初代は407と607を統合したカタチで出てきたDセグ・セダン&ワゴンだった。現行508は、2018年登場のモデルで、外観も内装も最新プジョーのデザイン作法に則っている。
なぜか縁がなくて今回が初めての試乗となった。「ガソリンとディーゼル、どちらがいいですか?」と広報ご担当に聞いていただいたので、「では、ディーゼルを」を答えたら、「(いま試乗できる)ディーゼルはワゴンです」ということで、508SW GT BlueHDiとご対面ということになったわけだ。
つい先日、マツダのMAZDA6ワゴンに試乗したばかりだし、現在のマイカーは、BMW320d(F30型)で2.0ℓディーゼルエンジン車だ。MAZDA6やBMW320dと比較しながら試乗することにした。

PSAのエンジンラインアップは、グループにオペル/ヴォグゾールが加わったことでバリエーションが増えたが、もともとPSAのエンジンとしては、ガソリンが1.0ℓ/1.2ℓ直3と1.6ℓ直4、ディーゼルが1.5ℓ/2.0ℓ直4。日本導入モデルで言えば、1.2ℓ直3ターボ/1.6ℓ直4ターボ/1.5ℓ直4ディーゼルターボ/2.0ℓ直4ディーゼル ターボの4種類である。
クルマを借り出して走り始めた瞬間に思い出した。「あ、このエンジン、乗ったこことある」
プジョー308SW GT BlueHDiも同じ2.0ℓ直4ディーゼル+8ATだったのだ。このエンジン、車内にいると極めて静粛性が高い。が、車外でクルマの近くにいると、けっこう賑やかだ。深夜や早朝の住宅地ではちょっと気になるかもしれない。マイカーの320dのB47型2.0ℓディーゼルもあまり静かとは言えないが、車外でのエンジン音をまったくの個人的な感覚で順位付けをすると、静かな順に
車外:SKYACTIV-D2.2→B47型→BlueHDi
車内:BlueHDi→B47型=SKYACTIV-D2.2
といった感じ。3モデルの3ディーゼルエンジンはどれも洗練されているから、もちろん一昔前の「ガラガラうるさい」わけではない。念のため。
車内で聞こえるエンジン音も、騒音計で測ると意外と(!)BMWの騒音レベルが低くて驚いたりするので、ここは音量よりも音質・周波数帯が影響するのかもしれない。欧州の人たちと日本人で耳の基本スペックが違うということもあるようだし(どんな音を不快と感じるか、という意味で)。
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本格的に乗り出す前に、まずはクルマを一周してみる。先代の508やかつての306のような、スッキリ、薄化粧美人というより、もう「クッキリハッキリ彫りの深い造形(美人かどうかもわからない)」なのが、最新プジョーファッションだ。ちょっと獰猛すぎるきらいもあるが、ここはもう「好み」の世界。どこからみてもプジョーに見えることは大事なことかもしれない。
ボディサイズは508SWが
全長×全幅×全高:4790mm×1860mm×1420mm
ホイールベース:2800mm
MAZDA6ワゴンが
全長×全幅×全高:4805mm×1840mm×1480mm
ホイールベース:2750mm
だから、ほぼ同じ大きさだ。

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こうして比べてみると、508SWの方がホイールベースが長くてオーバーハングが短いことがわかる。ちなみに、508SWのリヤオーバーハングは、セダンより28mm伸びて1037mm。全高は508SWの方が60mmも低い。このあたりに、シューティングブレーク調が表れている。荒地と走るイメージより、都会派な508SWだ。

乗り込んでみる。プジョーがi-Cockpitと呼ぶ内装デザインは、間違いなく個性的。小径ステアリングホイール(楕円というより六角形で天地30cm×左右32cmほど)の上縁越しにデジタルメーターを覗き込むスタイルだ。
好き嫌いがはっきり分かれるデザインだと思う。デジタルメーターも、デジタル故にデザインの自由度が高く、デザイナーはそれをフルに活用している。いくつかのデザインテーマが選べるのだが、どれも凝りすぎだと思う。速度計が時計回りで回転計が反時計回りというのは、どうしても馴染めない。正直言って、私はi-Cockpit、苦手(というか、嫌い)である。
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内装の質感はとっても高い。かつての「プラスチッキー感」はまったくない。試乗車には、ナッパレザーシート、赤外線カメラによるナイトビジョン、360度ビジョン、自動駐車、パノラミックサンルーフで構成されるフルパッケージ(65万円)というパッケージオプションがついていた。ナイトビジョンは夕暮れに何度か作動したが、いまのところ有用性は高いとは言えない。将来へ期待したい技術だ。問題は(といっても、個人的な問題です)ナッパレザーのシート。ナッパレザーが高級であることも知っているし、非常に凝ったデザインが施されているのもわかる。が、これは標準のシートの方がいいのではないか?と思った。308SWで体験した「ああぁこのシート、いいなぁ」というところまで今回の508SWでは感じなかった。もちろん、スタンダードを上回るシートではある。が、GTラインの「ファブリック&テップレザー」、GT BlueHDiの「アルカンターラ&レザー」の方がいいのではないか(試乗していないのであくまでも想像)と思う。購入される際は、シートは非常に重要なので乗り比べた方がいい。
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さて、乗り出してみよう。エンジンをかけるとインパネ内に、「AdBlueを補充してください。あと2100km」という表示が出た。搭載する2.0ℓBlueHDi(DW10型)は、尿素SCRシステムを搭載している。だからAdBlue(尿素水)が必要になるわけだ。
エンジンを比べてみよう。

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プジョー508
エンジン形式:2.0ℓ直4ディーゼルターボ
エンジン型式:BlueHDI(DW10)
排気量:1997cc
ボア×ストローク:85.0mm×88.0mm
圧縮比:16.7
最高出力:177ps/3750rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
Mazda6Wagon
エンジン形式:2.2ℓ直4ディーゼルターボ
エンジン型式:SKYACTIV-D2.2
排気量:2188cc
ボア×ストローク:86.0mm×94.2mm
圧縮比:14.4
最高出力:190ps/4500rpm
最大トルク:450Nm/2000rpm
ついでに
BMW320d(F30)
エンジン形式:2.0ℓ直4ディーゼルターボ
エンジン型式:B47
排気量:1995cc
ボア×ストローク:84.0mm×90.0mm
圧縮比:16.5
最高出力:190ps/4000rpm
最大トルク:400Nm/1750-2500rpm
508のBlueHDiの177psとMAZDA6の190psのパワーの差を感じることはない。最大トルクの400Nm(508)と450Nm(Mazda6)の50Nmは、車重がほぼ同じ(508が1670kg、Mazda6ワゴンが1680kg)だから、やはり力強さはMazda6の方が少し上。
とはいえ、508が積むBlueHDi(DW10型)のデビューは1998年。以来、さまざまな改良が加えられて2020年も第一線にいて、ライバルと遜色ないパワースペックとフィールを生み出しているのだから、大したものだ。きっと基本設計がとてもしっかりしているのだろう、
エンジンよりも注目はトランスミッションだ。508はアイシン・エィ・ダブリュ製8速ATを使う。6速も含めてPSAはATはアイシン製と決めているから両社の協力関係も深い。変速ショックもないし、シフトスケジュールもとても緻密に制御されていて、まったく不満はない。

ただし、100km/h巡航では8速には入らない。パドルで8速に入れると100km/hで約1400rpm7速で1600rpm(メーター読みで)だ。8速に入るのは105km/hより高いスピード域。日本で普通に走っている分には7速までを使う感じだ。
MAZDA6は、6速AT。6速を使い切れるので、508に対してのディスアドバンテージはさほどでもない、320dはZF 8HP(8速AT)。
トランスミッションの洗練度は(個人的感想では)、
BMW320d(8HP)→508(アイシン製EAT8)→MAZDA6(マツダ内製6AT)である。

今回400kmほど走ってみた。高速道路5:一般道5ほどの比率で燃費は15.3km/ℓだった。モード燃費は
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 12.9km/ℓ
郊外モード 16.4km/ℓ
高速道路モード 20.1km/ℓ
だから、達成率は90.5%。
市街地:11.7km/ℓ
郊外路:14.8km/ℓ
高速道路:18.2km/ℓ
がモード燃費の90.5%である。走っていても、この数字通りの感覚(というか燃費計を見ていて)だ。高速道路を90km/h+αほどの速度で巡航しているのが、もっとも気持ちの良い速度域だった。その走り方なら20km/ℓを超えるだろう。
MAZDA6ワゴンは
WLTCモード燃費:17.8km/ℓ
市街地モード 13.9km/ℓ
郊外モード 17.6km/ℓ
高速道路モード 20.8km/ℓ
である。燃費に関しては、若干マツダに分があるように感じた。

身長175cmの筆者がドライビングポジションをとってから後席に座ってみる。膝周りにはこぶし1個分+αの余裕がある。ただし、全高が低いため当然室内高も低く、後席も広々、という感じではない。これは荷室も同じで、幅も奥行きも充分だが、高さ方向がさほどでもないから、容量も大したことはないのかと思ったら
508SW:530ℓ(通常時)1780ℓ(後席を倒した状態)
MAZDA6:506ℓ(通常時)1648ℓ(後席を倒した状態)
と508の方が容量がかなり大きい。
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508は、セダン(ファストバック)よりもSWの方が売れているらしい。その理由は、後席の頭上スペースがSWの方がルーミーであることが第一のようだ。が、ワゴンとしてのユーティリティの高さも選ばれる理由なのだろう。また、低くシャープなボディラインも、いい意味で「ステーションワゴンらしくない」ということもあるのだろう。

プジョー508、パワートレーン、先進運転支援システムなどのハードウェアも、乗り心地も、とても気に入った。デザインについては、本当に個人の趣味の世界だからなんとも言えないが、ないものねだりを承知でいえば、508のハードウェアにかつてのプジョー405のようなスタイルのボディが載っていたら、きっと乗り換えます。
508を買うなら、SWでなくセダン(身もふたもないが、広い荷室が必要なライフスタイルでないので)を、ディーゼルでなくてガソリンのエントリーモデルを選ぶ……ような気がする。エントリーモデルの508 Allureなら424万7000円。今回の試乗車508SWの最上級グレードGT BlueHDi(526万6000円)より、100万円もプライスタグが軽いから。そしてエントリーグレードでも、プジョーの良さはきっちり感じられる……はずだから、である。

プジョー508SW GT BlueHDi
全長×全幅×全高:4790mm×1860mm×1420mm
ホイールベース:2800mm
車重:1670kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rマルチリンク式
エンジン形式:直列4気筒DOHCディーゼルターボ
エンジン型式:BLUE HDI
排気量:1997cc
ボア×ストローク:85.0mm×88.0mm
圧縮比:16.7
最高出力:177ps(130kW)/3750rpm
最大トルク:400Nm/2000rpm
過給機:ターボチャージャー
使用燃料:軽油
燃料タンク容量:55ℓ
WLTCモード燃費:16.9km/ℓ
市街地モード 12.9km/ℓ
郊外モード 16.4km/ℓ
高速道路モード 20.1km/ℓ
車両価格○526万6000円