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マツダ100周年の2020年にロータリーエンジン搭載のスポーツカーが復活する……という期待を込めた噂があったが、残念ながらいまのところ、ロータリーエンジン搭載モデルは登場していない。レンジエクステンダーの発電用エンジンとしてロータリーを搭載する、というのは現実的(だし、マツダも明言している)だが、主機としてロータリーを積んだクルマはどうなっているのだろう?
ロータリーエンジン搭載モデルについて予想してみる
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今までのところ、「ロータリーエンジン搭載の最後のモデル」であるRX-8に乗った。少し長い期間お借りして生活を共にしてみたのだ。2011年モデルで2011年に作られた1233台のRX-8のうちの1台。ちなみにRX-8は2003年から2012年の10年間で19万3318台が生産されている。
いわゆるロータリーファンではない。過給ロータリーを積んだRX-7(FD型)はともかく、RX-8の自然吸気のロータリーエンジンは、モーターのようにスムーズに回るがそれゆえドラマ性もなく、レッドゾーンになると「ブー」と警告音が鳴る……そんな印象だったが、あらためてRX-8をドライブしてみると、レシプロエンジンとは違う魅力があることに気づいた。無味乾燥ではなく、優れた内燃機関が持つ密度の高い感覚が好ましいと感じた。250kmほど乗った際の燃費は9.0km/ℓ(高速7割)は決していいとは言えないけれど、2003年デビューのスポーツカーであると考えたら許容範囲だ。
マツダはロータリーエンジンをレンジエクステンダーの発電用エンジンとして使うと言っている。そう遠くない将来に登場するだろう。
とはいえ、それはあくまでも「発電用」。ファンが期待するのはロータリーエンジンで走るスポーツカーだろう。
本稿では、さまざまな角度から(期待を込めて)ロータリーエンジン搭載モデルについて予想してみよう。
まずは、モデル名は? RX-7
マツダは、ロータリーエンジン搭載のスポーツカーについて、公式にはなにも発表していない。いつ出すとも言っていないし、そもそも出すか出さないかも言っていない。ただ、「ロータリー復活はマツダの夢」「マツダが挑戦する価値のある技術」であることはことあるごとに関係者が口にする。
2015年に新世代ロータリーエンジン「SKYACTIV-R」を搭載するスポーツカーコンセプト「RX-VISION」を発表したが、その後のアナウンスはない。
マツダがロータリー搭載のスポーツカーを市販する条件は、技術課題の克服ともうひとつ「経営的に安定すること」だ。今回のコロナ禍で、スケジュールは少し狂ってしまうかもしれないが、ロータリーエンジン開発は続いている。
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SKYACTIV-Rエンジン搭載のスポーツカーの名前はどうなるか?
スポーツカーのメインマーケットであるアメリカの「UNITED STATES PATENT AND TRADEMARK OFFICE」で登録商標を調べてみた。
マツダの「RX-」で調べると
MAZDA RX-VISION(LIVE)
MAZDA RX-1(DEAD)
MAZDA RX-2(DEAD)
MAZDA RX-3(DEAD)
MAZDA RX-4(DEAD)
MAZDA RX-5(DEAD)
MAZDA RX-6(DEAD)
MAZDA RX-7(LIVE)
MAZDA RX-8(DEAD)
MAZDA RX-9(DEAD)
となっている。
「DEAD」とあるのは「商標出願は登録されたが、それ以降はキャンセルまたは無効化され、レジストリから削除された」状態である。
つまり、順当にいけば次期ロータリー搭載モデルは「RX-7」を名乗る、ということだ。RX-7は、3代(SA/FC/FD型)で81万台もの実績を残している。「Rotary Rocket=RX-7」というイメージはまだ残っている。
フォード傘下で開発されたRX-8は4人乗れることを求められたから、ピュアスポーツカーという印象は薄い。次期スポーツカーは、マツダのイメージリーダーカーとなるクルマだから、名前は「RX-7」だ(「RX-VISION」という名称をそのまま使う可能性もあるが)。
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まず、サイドビューをみて欲しい。
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上がFD型RX-7で下がRX-8だ。
RX-7(FD型)1991年登場
全長×全幅×全高:4285mm×1760mm×1230mm
ホイールベース:2425mm
RX-8 2003年登場
全長×全幅×全高:4470mm×1770mm×1340mm
ホイールベース:2700mm
こうしてみると、プロポーションはだいぶ違う。注目してほしいのは、フロントアクスルセンターからフロントドアのオープニングラインだ。いわゆる「プレミアムレングス」という部分で、ここが長いとFR的プロポーションになる。RX-7の方がだいぶここが長いことがわかる。
ところが、エンジン搭載位置は、RX-8の方が60mm(RX-7と比較して)後方で40mm低いのだ。
今度はここにRX-VISONを置いてみよう。
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RX-VISION(2015)
SKYACTIV-R
全長×全幅×全高:4389mm×1925mm×1160mm
ホイールベース:2700mm
フロントセクションが長大なため、大きく見えるが、ホイールベースはRX-8と同じ(2700mm)、全長はRX-7とRX-8の中間(4389mm)だ。意外やコンパクトなのだ。
次にRX-VISIONとFD型RX-7を並べてみよう。フロントアクスルセンターで合わせてある。
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RX-VISIONのプレミアムレングスがRX-7よりさらに長いのがわかる。もちろんコンセプトカーだから、なのだが、あまりにも長すぎる。マツダのロータリーエンジン搭載スポーツカーの長所は、容積が小さい割に(重量も軽い)出力が高いエンジンをフロントアクスルセンターより後方に(つまりフロントミッドシップの位置に)積めることだ。だから、「直列6気筒やV型8気筒も載るかもしれない」と感じさせてはならない、と考える。RX-8程度のプレミアムレングスに直列2ローターSKYACTIV-Rは載るはずだから、RX-VISIONもホールベースを少し切り詰められるはずだ。
RX-VISIONのフロント部分を少し切り詰めたものとRX-7を比較してみた。
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イメージ的には
全長×全幅×全高:4300mm ホイールベース:2610mm
くらい。マツダデザインの実力をもってすれば、このサイズでも素晴らしく美しくてかっこいいスポーツカーが成立するはずだ。
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とはいえ、ちょっと乱暴だったので、今後はRX-VISIONとトヨタ・スープラを比べてみよう。
RX-VISION(2015)
SKYACTIV-R
全長×全幅×全高:4389mm×1925mm×1160mm
ホイールベース:2700mm
TOYOTA SUPRA(2019)
B58型3.0ℓ直6DOHCターボ
全長×全幅×全高:4380mm×1865mm×1290mm
ホイールベース:2470mm
全長はほぼ変わらず。ホイールベースは230mmもRX-VISONの方が長くなっている。エンジン長がより長い直6を積むスープラの方がプレミアムレングスが短い。
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マツダにも直6エンジンを搭載する(はず)のモデルがある。こちらもコンセプトだが、2017年の東京モーターショーで公開されたVISION COUPEである。現在開発中の直列6気筒(ガソリンとディーゼル)の直6SKYACTIVを積むプレミアムセダン(クーペ)は、マツダを次のステージに引き上げる高級車となるはずだ。現行MAZDA6の後継は直6SKYACTIVを積むFR車になるわけだから、VISION COUPEはそのスタディだろう。もちろん、MAZDA6のさらに上級に位置するモデルなのかもしれないが。
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では、RX-VISONとVISION COUPEを比べてみよう。
ボディサイドのオーナメントが、それぞれのエンジン搭載位置を暗示しているようにも見える(高さは別にして)。RX-VISIONは直列2ローター・ロータリーSKYACTIV-Rを、VISION COUPEは、直6SKYACTIVを積む(直6の方が長い)。
マツダのラージプラットフォームを使うモデル(CX-5以上。CX-5/CX-8/CX-9、MAZDA6+α)でも、同じモデルで直6/ロータリーということにはならないと考えると、次期RX-7のプロポーションは、RX-VISIONを少し切り詰めてスポーツカー的緊張感を漲らせたものになると予想する。
当然、搭載するSKYACTIV-Rは、マツダの最新技術が投入された完全新規のロータリーエンジンになる。こちらについては、また別稿で予想することにする。