440㎰/550Nmと十分すぎるほどの性能を誇るマカンターボ。一方、迎え撃つはM社の自信作であるX3 Mコンペティション。510㎰/600Nmのエンジンパワーはマカンターボを凌駕する。最強ミドルサイズSUV対決は果たしてどちらに軍配があがるのか?
REPORT◉渡辺 敏史(WATANABE Toshifumi)
PHOTO◉小林 邦寿(KOBAYASHI Kunihisa)
※本記事は『GENROQ』2020年4月号の記事を再編集・再構成したものです。
近年、ハイブランド系の参入により横方向の広がりをみせるのがEセグメント超級のSUVだとすれば、ガチガチのパフォーマンスバトルに突入しているのがDセグメント級SUVだ。アルファロメオのステルヴィオ、メルセデスのGLC、BMWのX3と500㎰超えのモデルも登場、ニュルブルクリンクを舞台に7分50秒台の攻防でSUV最速の座を競うなど、スポーツカーの立つ瀬がないほどにきな臭い。
この状況を招く導火線となったのが、2014年に発売されたポルシェ・マカンであることに異論はないだろう。カイエンの大成功を受けて企画されたそれは、アウディQ5とアーキテクチャーを共有しながら、ポルシェが独自のエンジニアリングを加えて、このクラスでも屈指のパフォーマンスを得るに至る。
特にポルシェのプロダクトのフラッグシップであることを代弁する「ターボ」は、3.6ℓV6ツインターボを400㎰の大台に乗せ、7速PDKとの組み合わせで最高速は266㎞/h、0→100㎞/h加速は4.6秒と当時は圧倒的パフォーマンスをみせつけるものとなった。ユーザビリティの高さから実益的な選択に偏りがちなDセグメント級SUVにも、速さという付加価値がもたらされたことで、スポーティネスを標榜する周囲のライバルたちも黙ってはいられなくなったというのが本音ではないだろうか。
とりわけ、このセグメントを古くから手掛けてきたBMWにとって、マカンターボを打ち破るX3という目論見はずっと温め続けてきたことかもしれない。先代F25系では306㎰のN55型直6直噴ターボを搭載するに留まったが、現行G 01系では、遂にM GmbHの手掛ける純然たるスポーツモデルとして「X3 M」が登場するに至った。
X3 Mが搭載するエンジンは、独自開発そして初採用となるS58。既にZ4等が搭載するB58をベースとした3.0ℓ直6ユニットとなる。が、骨格的な繋がりはあれど中身はツインターボ化を筆頭にほぼ完全に別物といっても過言ではないほどに手が加えられており、専用部品の使用率は90%を越えるという。そのパワーは標準仕様で480㎰、コンペティションでは510㎰に達する。そして最大トルクは共に600Nmとこちらも圧倒的な数値をマークする。
これに組み合わせられるトランスミッションはZF製8速ATをベースにスポーツモデル向けにダイレクト感を高めたMステップトロニックを採用。ドライブトレインはフィードフォワード制御機能を持つX3のxドライブをベースにMが駆動配分などのチューニングを加えて、0対100〜50対50の範囲内で駆動配分をリニアに変化させている。これらをもって得られる速さはMコンペティションで0→100㎞/h加速は4.1秒。最高速は250㎞/hで規制されるが、Mドライバーズパッケージを装着すると285㎞/hに到達する。空気抵抗値を思えば尋常ではない速さだ。
と、そのX3 Mと時期を相前後して、仮想敵たるマカンターボはマイナーチェンジを迎えた。搭載されるエンジンは90度のVバンク間に2つのタービンを並列するホットVマウントの2.9ℓV6ツインターボとなり、ブーストピックアップの大幅な向上を達成、そのパワーは440㎰、最大トルクは550Nmをマークする。0→100㎞/h加速はスポーツクロノパッケージ装着時で4.3秒、最高速は270㎞/hとX3 Mに対してわずかに劣る。
だが、走りの印象は相当に異なっていた。X3 Mの走りはその力量を躊躇なく剥き出しにしている。エンジンは強烈で、7000rpm向こうまで一気に吹け上がる高回転域の炸裂感、乗じて伸びていくパワーはSUVの域を超えている。一方でこのハイチューンにして、低回転域のトルクにも不足感はない。トルクコンバーターの手助けもあるとはいえ、高いギヤからでも粘り強く推進力を得ることができる。正直、エンジンの出来栄えは一頭地を抜く出来栄えとしても過言ではないだろう。このユニットが用いられるだろう次期M3が、今から楽しみになる。
X3 Mはこの怒涛のパワーを支えるべく足まわりの鍛えられ方も容赦ない。低速域でははっきりと硬く、タウンライドでは凹凸の突き上げも強めに感じられる。それでも角が丸められている辺りはダンパーがよく機能しているのだろうが、バネやスタビなどの金物が好戦的なレートに締め上げられている印象だ。それでも加速時は溢れるパワーに足元がムズムズしてしまうほどで、クルマがパワーと大マジで対峙していることが伝わってくる。今日びのM銘柄としてみても相当バンカラな味付けになっていることは間違いない。
対するマカンターボはパワフルさ、そしてエンジンフィールのスポーティネスという点ではX3 Mに及ばない。とはいえこちらには強烈なパワーを余裕綽々で受け止めるシャシーの懐深さがある。
試乗車はエアサス&PCCBと乗り心地に効く要素が揃っていたが、それを差し引いてもフットワークは柔軟さと精緻さが綺麗にバランスしている。パワーと制動力、ハンドリングとスタビリティそして乗り心地と、スペシャルSUVに求められるすべてが高次元で整えられている。言い換えれば優等生のマカンターボにX3 Mが際立ったキャラクターで対峙しているという、その構図はポルシェがSUVで造り上げてきた個性が市場ではもはや平準化されたことを示しているのかもしれない。