世界最大のダイヤモンドに由来する車名を持つカリナンはロールス・ロイス初のSUVである。彼らがハイ・ボディ・ビークルと主張する、ニューモデルの乗り味を夜の東京で確かめてみた。
REPORT◉渡辺敏史(WATANABE Toshifumi)
PHOTO◉篠原晃一(SHINOHARA Koichi)
※本記事は『GENROQ』2020年1月号の記事を再編集・再構成したものです。
オンロードタイヤを履いた日本での標準仕様においては、セルフセンタリング性が気持ち強くなった印象で、交差点や駐車場での取り回しの際には操舵から直進状態への戻りが明快になったように思える。また、タウンスピードでは僅かながら凹凸に対する反応が伝わりやすくなってもいる。ただしロードノイズの質量は低く小さい。
これらを鑑みるに、高速域での運動性能はある程度割り切り、操作に対する有機的な反応と滑るような乗り味を重視するならオールシーズン系のタイヤを敢えて選択する意味はあると思う。が、これは基本的な乗り心地と静粛性のレベルがそもそも同業他車とは別次元にあるがゆえの、重箱の隅的な話でもある。街中から首都高へと、日常的な速度域で接する限り、ゴースト以上でファントムにも迫る快適性というカリナンへの印象は変わらない。
首都高のような車線の狭い道路でのライントレースはさすがに気を遣うが、操舵応答は明快に躾けられており、微妙な修正も素早く反映してくれる。もちろん今日びのスポーティなSUVほど締め上げられてはいないものの、平時の浮遊感たっぷりの乗り心地を思えば望外にロール感も抑えられており、乗員や荷物が不用に揺すられることもないのはさすがだ。ステアリングはリムが相変わらずの細径で繊細な入力を入れやすい点は素晴らしいが、送りハンドルの必要もなくスポーツカーのように力むこともないカリナンの運動性を思うに、一番握りたくなる9時15分付近がボタン付きの太いスポークで占められているのは些か残念だ。
カリナンのキャラクターが掴めてくればこの大柄な車体を手の内に収めるどころか、軽快に走らせることな曲率のコーナーが続く首都高のような場面でも、ドライバーは自信をもってそこに臨めるはずだ。
想像を覆す旋回力の高さと安定感の源は、アルミスペースシャシーの素性に加えて通常50対50というフルタイム四駆の駆動制御の巧さにある。コーナーにおいて前輪側の駆動の存在感は安定のためにやや強めに現れるが、そこからアクセルを踏み込めば慎重にリヤ側へと駆動配分を移し旋回のためのヨーを自然に車体に与えていく。ともあれ乗員にその存在を気づかせない。ノイズや振動を含め、カリナンの四駆システムは徹底的に黒子化している。
リムジンを選んで後席に座るという様式美は偽りなくあり続けるべきだといちクルマ好きとして思う。が、そんな自分でさえ、カリナンに乗ると思い浮かぶのは陸王という言葉しかない。性能でも設えでも、クルマが果たしてどこまで工芸的な万能化を遂げるのかについて、カリナンは模範解答を示しているように思う。
SPECIFICATIONS ロールス・ロイス・カリナン
■ボディサイズ:全長5340×全幅2000×全高1835㎜ ホイールベース:3295㎜
■車両重量:2660㎏
■エンジン:V型12気筒DOHCツインターボ 総排気量:6748㏄ 最高出力:420kW(571㎰)/5000rpm 最大トルク:850Nm(86.7㎏m)/1600rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:AWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ255/50R21 Ⓡ285/45R21
■パフォーマンス 最高速度:250㎞/h(リミッター作動)
■環境性能(EU複合モード) 燃料消費率:15.0ℓ/100㎞ CO2排出量:341g/㎞
■車両本体価格:3920万円