2018年、世界のエンジン開発現場では「内燃機関の熱効率50%」が大きな話題だった。つねに熱効率の向上をめざしている研究者およびエンジニア諸氏の間では、すでに2017年に日本の産学研究であるSIP革新的燃焼技術研究が注目されていた。まだBEV(バッテリー電気自動車)が市場を席巻するには早過ぎる。内燃機関は、ストイキ燃焼の先に道を見付けた。
TEXT●牧野茂雄(MAKINO Shigeo) FIGURES●SIP/MAZDA
*本記事は2018年11月末に執筆したものです
内燃機関は熱効率が悪い。せいぜい40%ではBEVの足元にも及ばない──世の中ではこう言われている。しかし、原子力発電所がことごとく商業運転を停止している日本では、重油火力で発電された電力を使うとリッター当たり18kmを走行するガソリン車に比べCO2排出量で不利になる。石炭火力による電力は論外。CNG(圧縮天然ガス)を使う最新設備で発電すれば、同じ車両重量でのガソリン車換算でリッター27kmに相当し、ガソリン車は負ける(筆者の試算)。ならばガソリンエンジンの熱効率を最低でも50%に持ってゆけば、日本国内では火力発電全体との勝負でBEVに勝てるのではないか?
ここでBEV派は「石油はどうやって日本まで運び、ガソリンはどうやって作り、作ったガソリンはどうやって運んでいるのか」と問うだろう。すると内燃機関派は「採掘した天然ガスをどうやって液化し、どうやって日本まで運び、日本でどうやって発電し、遠距離送電時にどう昇圧し、需要地に入るところでどう降圧しているのか。クルマへの充電・放電は効率100%なのか」と斬り返す。これは極めて不毛な揚げ足取りではないだろうか。
「ガソリン車もディーゼル車もBEVも、適材適所で使えばいい。どこが得意でどこが不得意なのかを互いにきちんと申告し、政治抜きで共存してほしい」
メディアの立ち場にいる筆者は、取材をとおしてこう訴え続けてきた。しかし、なかなか正しい申告を得られない。とくに電気側が正確な数字を出したがらないのだ。変電効率について尋ねると、もっとも効率の良い変電所での数値しか答えてもらえない。変電効率は変電設備で使う電磁鋼板のスペックに左右される。その出荷実績とスペックの推移は筆者自身が取材で把握しているから、疑念は深まるばかりだ。
幸運に恵まれれば、再生可能エネルギーは役に立つ
世界を見渡しても、火力発電の比率はまだ大きい。風力や太陽光など再生可能エネルギーでの発電総量は微々たるものだ。原発廃止を政府目標として打ち出している国々でも、着陸地点をなかなか見出せないでいる。たとえば、ドイツで再生可能エネルギーでの発電が全体の80%を超えるのは2050年代後半ではないかと言われている。現状では、再生可能エネルギーによるCO2削減効果が現れていない、と。
エネルギー系のシンクタンクであるAgoraEnergiewendeによると、2017年のドイツ電力構成はバイオマスと水力も加えた再生可能エネルギーが全体の33.1%、CNG火力が13.1%、石炭および重油火力が37.0%、原子力11.6%という構成だった。この状態でBEVを普及させるとどうなるか。
風力/太陽光発電は天候に左右されるだけでなく、ドイツでは再生エネルギーの発電設備が増え過ぎて電力輸出をしなければならないという厄介がある。風が強く日照もある日は風力と太陽光は活躍するが、そうでない日も多い。電力需要の基礎部分は水力/バイオマス/褐炭火力/原子力がいまでも担っている。石炭火力/CNG火力が需給調整用として控える。再生可能エネルギーの供給が豊富な日は、石炭火力/CNG火力の稼働が下がる。
ドイツの場合も、決してBEVを手放しで歓迎できる状況ではない。EU全体ともなれば、状況はドイツよりも芳しくない国が多い。各国の環境相が政治パフォーマンスとしてCO2削減比率を高くしようと考えても、BEVを走らせるための発電は結局、さまざまな火力に頼らざるを得ない。もちろん、BEVには現在でも得意分野があり、電力需給バランスのなかで余剰電力の受け皿として機能させることはできる。しかし、すべての乗用車と小型商用車をBEVに置き換えられる状況ではない。