初代TTのデザインスタディはまさに「衝撃的」だった。「機能に優れたものは美しい」という極めてドイツ的な考えのもとにデザインされた初代TT。現行モデルは三代目にあたるが、そのキャラクター、走りはどうだろう? ジャーナリスト、世良耕太がレポートする。
TEXT &PHOTO◎世良耕太(SERA Kota)
TTもTTsも現地で実物を見て「カッチョイイ!」と衝撃を受けたが、あまりにも強いスタイリングスタディ色を目の当たりにして、「まさか、このまま売るわけないでしょ」と勝手に決めつけてしまった。今から思えば、実に浅はかであった。そう思ったほどだから、市販された際は衝撃を受けた。「本当にあのまま売るんだ」という感じである。
TTは製造コストや開発期間の短縮を目的に、ランニングコンポーネンツの多くを1994年にドイツ本国で発売したA4の1.8ℓクワトロから流用した。ただし、パワーパッケージは縦置きから横置きに変更している。若手デザイナーが1年足らずで形にした各部のデザインは、「機能に優れたものは美しい」とする哲学のもとで行なわれた。エクステリアは金属の塊から削り出し、磨き上げたかのような造形である。虚飾を排したのはインテリアも同様で、エアダクトやシフトプレートは、アルミ削り出し材をリベット打ちで固定し、硬質かつ無機質なムードを漂わせていた。
一方、TTsのインテリアは、クーペに比べると遊びの要素が強かった。本革シートは、シートバックに野球のグローブのような目の粗いステッチを施していた。左右ドアの内側はサイドインパクトビームを室内に露出させ、これにドアオープナーとアシストグリップの機能を持たせていた──。以上、24年前の思い出話である。
TTは1998年に国内に導入された。2015年には第3世代に進化している。ひと目で「TT」とわかるルックスを受け継いでいるが、目尻が下がった温和な表情ではなくなり、目尻はキリッと上がって好戦的な表情となっている。第3世代の現行モデルには、「カワイイ」というより、「カッコイイ」という表現がふさわしい。
その第3世代は国内導入20周年を機にマイナーチェンジを受け、大幅にアップデートされた(2019年5月9日および6月10日に発売)。このマイナーチェンジを機に、エンジンは4グレードすべてが2.0ℓ直4直噴ターボになった。主に制御の違いで、3種類のスペック(145kW/320Nm、169kW/370Nm、210kW/380Nm)を設定している。
今回試乗したのは、最もスポーティな位置づけのTTSクーペだ。このグレードの場合、マイナーチェンジを受けてバンパー、サイドスカート、リヤディフュザーの形状が変更された。シングルフレームグリルは「アルミルックインサート付きのマットブラックペイント」となり、テールライトの下には、エアアウトレットを模したデザインエレメントが追加されている。皮肉るつもりはないが、初代TTにはなかった虚飾が施されている。写真のターボブルーは新色で、TTSクーペとS Lineパッケージの専用色だ。
インテリアは従来どおりで、ドアを開けると円の反復が目に飛び込んでくる。初代TTを手がけた際は、「機能美を追求すれば、結果的に人の心を打つ美を手に入れる」と信じてデザインしたのだろうが、第3世代ともなると、「いかにTTに見えるか」に軸足を置いてデザインしているように感じられる。空調ダクトに代表される円の反復がその象徴だ。
それで何か不満かというと決してそんなことはない。円の反復が視界に入ることで、「自分はいまTTの室内にいるんだ」と明確に意識することができる。円形ダクトの中心がエアコンのコントローラーと表示になっているのは斬新で、こういうアイデアを目で楽しむことができるのも、最新のTTを手に入れる喜びだろう。
物は試しとばかり後席に乗り込んでみたが、予想どおりで、成人男性が快適に過ごすことのできる空間ではなかった。広い荷物置きと認識するのが正解である。その代わりといってはなんだが、前席の空間に何の不満もない。中央部にアルカンターラ、サイド部にレザーを使用したシートは、サイド部の張り出しが大きくは見えないけれども、腰を下ろしてみると、上半身と尻、太ももをやや強めにサポートする。
ステアリングホイールのグリップは太めだ。手と太ももと尻と背中から伝わる感触が、「やる気」を起こさせる。全長は4200mmしかないが、数字を確認するまでもなく、視界から入る情報から直感的に、取り回しのしやすさを感じ取ることができる。シフトレバーの前にあるボタンを押してエンジン始動。
「ヴォォォン」と野性味あふれる排気ノートを響かせて、エンジンが目覚める。TTSクーペは、機能美を意識したスポーツカーだ。1460kgの車重に210kW(286ps)の最高出力と380Nmの最大トルクを発生するエンジンを組み合わせているのだから、鞭をくれたときの瞬発力は推して知るべしである。実際に試してみたが、暴力的ですらある(車両の動きは終始、安定方向ではあるが)。ちなみに、TTSクーペはquattro(4WD)だ。
最も印象に残ったのは、強力なエンジンがもたらすスピードや加速度ではなく、タイヤやサスペンションやボディを経由して人間に伝える入力だった。まるでソールの薄いランニングシューズを履いているような感覚だ。アスファルト路面の目の粗さや細かさがイメージできる。裸足で砂利を踏むような粗野な感じではなく、厚底の靴やクッションを介して感じているわけでもない。足裏と一体になったソールの薄いシューズで路面に触れているダイレクト感と心地良さがある。
だから、TTSクーペを操るのは楽しい。
アウディTTS Coupe
全長×全幅×全高:4200mm×1830mm×1370mm
ホイールベース:2505mm
車重:1460kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式&Rウィッシュボーン式
駆動方式:フルタイムAWD
エンジン
形式:2.0ℓ直列4気筒DOHCターボ
型式:CJX型
排気量:1984cc
ボア×ストローク:82.5×92.8mm
圧縮比:9.6
最高出力:286ps(210kW)/5300-6200pm
最大トルク:380Nm/1800-5200rpm
燃料:プレミアム
燃料タンク:55ℓ
燃費:JC08モード 11.8km/ℓ
トランスミッション:6速DCT
車両本体価格:799万円
試乗車はオプション込みで861万5000円