自動運転は、センサー、コントロールユニットと優れた演算処理能力のみによって成り立っているわけではない。そこに数多くのスマートなサービスを組み合わせなくては、自動運転を実現することはできない。ボッシュ取締役会メンバーのディルク・ホーアイゼルはこう述べている。
「自動運転にとって、サービスはハードウェアやソフトウェアと同じくらい重要な要素です。優れた安全性と信頼性を備えた自動運転車両を道路に送り出すために、私たちはこの3本柱すべてに注力していく必要があります」
ボッシュは、自動運転技術において大きな進歩を遂げるため、自動車部品・技術のグローバルサプライヤーとして類を見ないほど力を注ぎ、統合的なソリューションを作り上げている。今回紹介する領域は、自車位置特定の安全性にとって非常に重要なテーマとなっている。自動運転車両がいかなる時でも走行している位置をセンチメートル単位で正確に把握することができれば、より安全なドライビングが可能になる。これを実現するために、ボッシュは世界に例のない自車位置特定パッケージを提供する。これはハードウェア、ソフトウェアとサービスを一体化し、正確な自車位置特定のための冗長システムとして機能する。
ハードウェア:ボッシュが独自のモーション&ポジションセンサーを開発
ボッシュは、自動運転車両の自車位置を正確に把握するVehicle motion and position sensorを開発した。この新しいセンサーには、衛星測位システム(GNSS)の信号を受け取る高性能な受信機が組み込まれている。この信号は、自動運転車両の絶対位置を特定するためには欠かせない。
衛星ベースの測位での課題は、データの不正確性への対処である。測位衛星は地球から2万5,000km離れた距離にあり、毎秒4,000mの速度で動いている。衛星から送り出される信号は地上に到達するまでに、電離圏や対流圏の雲の層を通過しなくてはならず、これが遅延や誤差につながる。こうした信号は、現在のナビゲーションシステムにとっては十分な精度があるが、自動運転の要件を満たすものではない。
そこでボッシュは、さまざまなプロバイダーから供給される補正データを活用することにし、2017年に 合弁企業 のSapcorda社を立ち上げた。これにより、正確な位置情報を持つ基地局のネットワークをもとに、プロバイダーはGNSS測位情報を補正できるようになった。また、補正されたデータはクラウドや静止衛星を介して車両に送られる。
Vehicle motion and position sensorが受信するのは、GNSS信号だけではない。人間の触覚に相当する操舵角センサーと車輪速センサーからも、車両がどの方向に向かっていて、どのくらいの速度で走行しているかという情報が得られる。さらにVehicle motion and position sensorには、人間の内耳に相当する慣性センサーが組み込まれている。人間が触覚とバランス感覚のおかげで動き回ることができるように、センサーもこのデータをもとに、車両が進んでいる方向を把握し、車両に伝えることができる。
ソフトウェア:ボッシュのスマートなアルゴリズムが車両の位置を特定
Vehicle motion and position sensorは、GNSS信号、補正データ、さらに慣性センサー、車輪速センサーと操舵角センサーからの情報を集約する。しかし、自動運転車両の正確な自車位置を特定するためにはこの情報だけで十分とは言えず、データはさらに、インテリジェントなソフトウェアを通じて処理される必要がある。これをもとに、自動運転車両は周囲数メートル以内での自車位置を正確かつ確実に把握し、それに応じた運転操作を計算できるようになるからだ。
自動運転車両の位置は主に補正されたGNSS信号に基づいて特定され、例えば車両がトンネルに入った時など、衛星との接続が途切れた場合でも、Vehicle motion and position sensorは数秒間、車両の位置を把握し続けることができる。これは絶対位置情報が特定された最後の地点をもとに、計算された車両の位置情報も含む。GNSS信号を長時間受信できず、Vehicle motion and position sensorが車両の位置を特定できなくなってしまった場合は、ボッシュ ロードシグニチャーを通じて位置を推定することができる。
サービス:サラウンドセンサーをベースにしたボッシュ ロードシグニチャー
ボッシュ ロードシグニチャーは、現在および将来の車両に搭載されるレーダー、カメラなどのサラウンドセンサーをベースにした 、マップを使った相対的な自車位置推定サービス。Vehicle motion and position sensorを使った絶対的な自車位置特定ソリューションと並行し、ボッシュはこのサービスも提供している。
ボッシュは衛星とVehicle motion and position sensorをベースにしたアプローチをボッシュ ロードシグニチャーの地図ベースの自車位置推定サービスと組み合わせることにより、高い安全要件をクリアしている。ボッシュ ロードシグニチャーでは、車載のカメラとレーダーセンサーが車線、道路標識やガードレールなど、道路上や道路脇にある物体を検知して情報を集める。レーダーセンサーはカメラとは異なり、暗い場所や視界が悪い時でも道路上や道路脇の物体を検知でき、検知範囲も広いという大きな利点がある。
車載の通信モジュールは、センサーが検知した道路上や道路脇にある物体に関するデータをクラウドに送信する。それらの対象物の情報は高精度マップの一部を形成するマップレイヤーの生成に用いられる。自動運転車両は、自車の周囲の道路にある物体を検知し、マップと照らし合わせ、検知した道路標識やガードレールがマップ上のデータと一致するかどうか確認する。この比較を通じて、自動運転車両は高精度なマップから相対的に、車線内の自車位置を正確に把握することができる。