現在のようなGPSを利用するカーナビには30年近くの歴史があり、その中にはエポックメイキングなモデル、ユニークなモデルも数多く存在した。そんな忘れられない名機&迷機を不定期連載で紹介していきたい。内容がややマニアックになるのはご勘弁を。
REPORT●浜先秀彰
その名はサテライトクルージングシステム
初代NSXもデビューしたバブル景気のピークと言われる1990年に「サテライトクルージングシステム」という今では聞き慣れないネーミングでリリースされたのが世界初の市販GPSカーナビである「カロッツェリアAVIC-1」だ。「道は星に聞く。」というキャッチコピーのCMが脳裏に焼き付いている人も多いかもしれない。
ちなみに同年には純正初のGPSナビ(三菱電機製)もマツダコスモに搭載されている。
とはいえ、その当時には「GPS」という言葉自体を知っている人も少ないし、GPSを利用するコンシューマー向けの機器もほとんど存在していなかった。カーナビ自体は一部高級車に搭載されていたが、いずれも内蔵センサーを使用するもので外部から情報を得て自車位置を示す現在のような形ではなく誤差も大きかった。
1日に数時間しか使えず自車位置表示のみ
上の写真がAVIC-1の基本的なシステムとなり、すべて揃えると50万円を超えるほどになったという。構成は複雑で、モニターを搭載したビジュアルコントローラー、ディスプレイプロセッサー、GPSレシーバー、GPSアンテナなどのユニットが必要。加えてCD-ROM(地域別に4枚のディスクを用意)のデータを読み込むためにCDメインユニットやCDチェンジャーも使わなくてはならなかった。
ディスプレイに表示される地図は4段階のスケール切り替えができるものの自車位置を表示するだけでスクロール操作もできない。目的地検索やルート探索、ルート案内なども無かった。それにGPSの衛星数が少なかったため利用できたのは1日にたった数時間。新しいもの好きは飛びついたが、当初は実用に耐えうるものではなかったのだ。それだけにカーナビに興味を持つ人も、購入を考える人もほとんどいなかった。
商売的な成功はしなかったが、最新の技術を投入して車載機器の新たな世界を切り拓いたAVIC-1。その存在意義は今考えればとてつもなく大きいものといえる。
カーナビが多くの人々から知られるようになるのはこの2年後、後継モデルであるカロッツェリアAVIC-G10がリリースされた1992年頃のことだ。