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メルセデス-AMG GTは法定速度でも楽しめるのか?【メルセデス・ベンツ都内試乗記】


33年ぶりに低温注意報が発令され、48年ぶりに氷点下4°Cを記録した都内で、


メルセデス-AMG GT C ロードスターを試乗した。


最高出力557ps、最大トルク680Nm、


そして車両価格およそ2400万円の超弩級スーパースポーツに、


果たして都内で乗る意味はあるのだろうか?




TEXT&PHOTO:小泉建治(KOIZUMI Kenji)

フロントオーバーハングが短く、フロントアクスルからキャビンまでが異様に長く、ドライバーのヒップポイントの直後にリヤタイヤ……典型的なFRシルエットには惚れ惚れするばかり。シルバーのボディカラーに鮮やかなレッドのソフトトップの組み合わせにも涙が出そうだ。

厳寒の都市部でスーパースポーツの出番はあるの?

ブラックとレッドの色使いが痛快なインテリア。近年のスーパースポーツの例に漏れず、コクピットはストイックというよりもラグジュアリーで快適そのもの。

 33年ぶりに低温注意報が発令され、48年ぶりに氷点下4°Cを記録するなど、強烈な寒波に襲われた都内で、あろうことかメルセデス-AMGのフラッグシップであるGT Cに試乗する機会を得た。自動車メディアの仕事をしていてもなかなか触れる機会がなく、とってもありがたいお話なのだが、「あろうことか」と書いたのには以下の理由がある。




1.まず、都内ではその超絶パフォーマンスの1割も引き出すことは不可能。


2.スーパースポーツが履くようなハイグリップタイヤは温度依存性が高いが、この寒さではタイヤがなかなか温まらない……どころか、そもそも路面が凍結してとってもコワイ。


3.これだけ寒いのにロードスター(泣)。




 まぁ泣いていてもしかたがないので、この悪条件を逆手に取り、厳寒の都市部でもメルセデス-AMG GTは楽しめるのか、という観点で試乗することにした。そんなわけで、このクルマの尋常ならざる運動性能の真髄に迫りたい方は読み飛ばしてくださいねスイマセン。


 

暖かいどころか…………Tシャツ1枚でもいける!

シートの配色もご覧の通り鮮やかで、スポーツムードとラグジュアリーさを両立。ヘッドレストの下部に見える横長のスリットがエアスカーフの吹き出し口だ。

 そういうことなので、試乗開始とともにソフトトップを開け放つ。シルバーのボディにレッドのトップが鮮烈で、トップをたたむのがもったいない気もしてしまうが、オープン状態にしても一部が露出し続けるので心配無用だ。




 で、早速シートヒーターとエアスカーフをオンにする。エアスカーフとは、ヘッドレストの根元に設けられたエアベントから首に向けて暖かい空気を送り出す装置のこと。ともに3段階の温度調整を持つが、もちろんどちらも「強」にする。




 いやぁ暖かい! もちろんエアコンもついているわけで、もうまったく問題なし。外から見ると寒いのに意地を張って屋根を開けているように見えるのかも知れないけれど、まったく寒くない……というよりも、ぬくぬく暖かいくらい。




 余談ながら、この日の試乗現場を会社の同僚に目撃されていて、翌日(この原稿を書いている、まさに本日)、彼に「昨日、外堀通りを極東ロシアの武器商人みたいな男(私のことらしい)がAMG GTの屋根を開けて走っていたのを見たんだけれど、さすがロシアの悪党らしい気合いだと感心した」と言われたが、気合いなどこれっぽっちも必要ありませんから。


 

一番左の、インジケーターがひとつ光っているのがシートヒーターのスイッチで、そのふたつとなりがエアスカーフのスイッチだ。その間にあるのはシートベンチレーター、つまりクーラーのスイッチなので真冬には間違って押さないように。

 そのうち、暖かいどころが暑さに耐えられなくなってきて、シートヒーター、エアスカーフともに「弱」に切り替え、エアコン設定温度が27°Cだったのを23°Cにまで下げた。それでもシャツの下はうっすらと汗ばんでいる。




 ダウンジャケットを脱ごうかと悩んだが、下は薄手の長袖シャツ1枚だったので、さすがにこの季節にそれだけで屋根を開けて走っていたら変態っぽい。




 外気温を見ると3°Cとなっている。48年ぶりか33年ぶりかという寒波のなか、オープンカーの屋根を開けて走っている男が汗だくになっているなんて、とても想像出来るものではないだろう。




 みなさん、これからは真冬にオープンカーの屋根を開けて走っている姿を見たら、「なに頑張っちゃってんの」なんて思わず、「気持ちよさそうでいいなぁ」と素直に羨ましがってください。

ゆっくり走っても痛快に楽しむ方法

上からトランスミッションのマニュアルモード、アイドリングストップ、AMGパフォーマンスエグゾーストシステムのON/OFFスイッチ。都内で官能……を実現したいならば、すべてONにするのが筆者の答え。

 寒いの暑いのといった話はこのくらいにして、いよいよ本題の「メルセデス-AMG GTは法定速度でも楽しめるのか?」である。確かにこのクルマの主戦場がサーキットであることは間違いないが、いくらスーパースポーツのオーナーになったからといって、年がら年中サーキットや箱根に通うわけでもあるまい。




 ではどうするべきか?「インテリアの仕立ても装備も豪華で快適そうだし、大排気量V8エンジンを搭載しているし、しかもオープンカーだし、肩肘を突き出しながらドロドロと流すのも気持ちようさそうだ」くらいには想像していたが、そんな考えは走り出して最初の交差点を曲がった時点で見事に霧散した。なにしろステアリングレシオがクイックで、身のこなしがスーパースポーツらしすぎる。片方の手をステアリングの12時付近に置き、余裕ブッこいて運転する類のクルマではなかったのだ。

120km/hでリフトアップし、80km/hで格納されるリトラクタブルリアスポイラーは、ボタン操作で任意に上げ下げすることもできる。ただ、やや尻下がりのシルエットが美しいので、街中では格納させたままのほうが正解かも。

 そこで方向転換し、都内でも積極的にスーパースポーツらしさを堪能することにした。まずトランスミッションはスポーツプラスで変速スピードを高めてつながりをダイレクトにし、当然ながらマニュアルモードに切り替える。都内でマニュアルモードなんて面倒臭いだって? なに、MTだったら都内だろうが大渋滞だろうがいつも自分でギヤチェンジしているではないか。クラッチ操作が必要ないだけでもありがたいと思うべきだ。




 そしてAMGパフォーマンスエグゾーストシステムをオン! すると、シフトアップの際に一瞬アクセルを抜く(自動でやってくれます)のに伴って「ボッ」と迫力ある低音が響き、シフトダウン時にはブババババッ、パンパンッと最高に痛快なファイア音が炸裂する。




 先ほどスポーツプラスにしたのは、このモードとレースモード(サーキット走行時以外は選ばないのが吉)選択時に、最も派手なブリッピング音が出るように設定されているからだ。そしてマニュアルモードにしておけば、それが自由にいつでも聞くことができる。というわけで、サウンドに関係のないサスペンションの設定はお好みでオーケー。私は最もコンフォートな「C」で十分であります。




 サーキットやワインディングなどで楽しむときのみ上記のような戦闘モードに設定すべきと思っている人も多いだろうが、これが都内で、前走車の後をおとなしく走っているときでもなかなか刺激があって面白いのは意外だった。法定速度なのにブババッ、パパパパパンッ、なんていわせているのは、まるでリエゾン区間を走っているWRCマシンのようでなかなかの迫力だ。かといって違法改造車ではないわけだから、音質はあくまでジェントルで耳に心地良い。




 トランスミッションのダイレクトさも、低速域でも十分に感じられる。スポーツプラスモード時にはショックが大きくなるが、けっして不快ではない。むしろこのクルマが持つ凄まじさがジンジンと伝わってきて気持ちが良い。




 もちろん人によって好みの違いはあるだろうが、だからこそさまざなま電子デバイスを細かく設定できるのはありがたい。そして感心させられたのは、こうした設定をエンジンを切っても記憶していてくれて、再始動時にもう一度やり直す必要がないことだ。




 自分だけの好みを探し、気分によっても簡単にクルマの性格を変えられる。筆者の場合はサスペンションのみをコンフォートにし、それ以外をスーパースポーツらしさ全開にすることで、法定速度内でも存分に甘美な気分に浸ることができたのだ。






 

メルセデス-AMG GT C ロードスター


全長×全幅×全高:4550×1995×1260mm 車両重量:1740kg エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ 排気量:3982cc 最高出力:410kW(557ps)/5750-6750rpm 最大トルク:680Nm/1900-5500rpm トランスミッション:7速DCT 駆動方式:FR 価格:2396万6600円
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